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新事業承継税制の税賠リスクと契約手法

2018年11月19日

平成30年度税制改正で大きく変わった「特例事業承継税制」ですが、税理士の先生方は、その適用に消極的な方が多いように思います。

理由を聞いてみると、「打ち切りリスクがたくさんあって、危ない」「納税猶予の打ち切りになった時に税理士に責任になるのではないか」などという不安があるようです。

そこで、今回は、税理士向けに、特例事業承継税制における税理士損害賠償リスクを可能な限り回避する方法について解説したいと思います。

ここでは、「特例事業承継税制」「新事業承継税制」という言葉を使いますが、同じ意味で使います。

特例事業承継税制は、贈与税あるいは相続税が納税猶予されて、最終的には全部免除されるということで、非常に納税者にメリットがある税制となっています。

しかし、途中、多数の納税猶予の打ち切りリスクというものがあり、リスクも非常に大きく、一気に多額の納税が発生する可能性があるということになっています。

新事業承継税制の流れ


まず、新事業承継税制の流れを簡単に見ていきたいと思います。

まず、「特例承継計画」の提出確認です。

2023年3月31日までにこれをやるということになります。その上で贈与を実施するということです。

その後で「円滑化法」の認定を受けるということになります

そして翌年、贈与税の申告をする。

これは贈与の場合です。

その後は、5年間にわたって事業の継続をしつつ、「年次報告書」それから「届出書」を年に1回ずつ出し続けるということになります。

5年が経過した後は、報告書と届出書は3年に1回ずつ、ずっと出し続けるということになります。

そのようなことがあって、先代経営者が死亡等すると、猶予税額が免除されるというような流れになっています。

相続税のほうも、ほとんどこの流れと同じです。

では、この流れの中でどういう税賠リスク(納税者のリスクと同時に税理士のリスクが発生しますので、税賠リスク)が発生するか、ということです。
 
 
 

特例事業承継税制の税賠リスク10段階


特例事業承継税制の税賠リスク段階を10段階に分けてみました。

1つ目は、当初この新事業承継税制を説明・助言する段階です。

それから、打ち切りリスクに備えて、自社株の評価を低くするということを行う可能性もあります。

そうすれば、納税猶予が打ち切られた時のインパクトを多少和らげることができるためです。

この自社株対策でミスが発生した場合の税賠リスクです。

それから3番目に、特例承継計画の作成・提出をしますので、この段階でミスが発生する可能性があります。

4つ目は、特例承継計画の変更申請段階です。

特例承継計画は、1回出したら変更できないわけではなく、後で変更することができますので、その変更申請の段階です。

それから5番目、贈与税・相続税申告書作成、申告代理。これは通常の税理士業務のリスクと同じです。

6番目は、経営承継円滑化法12条1項の、認定申請・確認の段階です。

7番目は、5年間にわたる年1回の特例承継期間の「年次報告書」、「届出書」を提出しますので、これを忘れたり、間違えたり、というリスクがあります。

8番目は、特例承継期間中および経過後において、打ち切り事由への対応段階です。

従業員の雇用要件があったり、減資してはいけないとか、色々な納税猶予の打ち切り事由がありますが、これを監視したり、対応したり、そういうことが税理士に求められる場合に税理士損害賠償リスクが高まるということです。

9番目は、贈与税の納税猶予から相続税の納税猶予への切り替えの時です。

10番目が、贈与税・相続税の最後の免除申請の段階、ということになります。

このように、新事業承継税制適用するには多くの税賠リスクが潜んでいるということになります。

そして、想定される損害賠償請求の理由についてです。

まず1つ目は、税理士の説明助言義務違反です。

説明すべきだったのに税理士が説明しなかったということで損害賠償を受けるパターンです。

2番目、説明助言義務違反、説明助言が誤っていたとして損害賠償請求を受ける。

3番目は、適用の過誤。

要件欠缺などですが、ここは実務書を見ながら、きっちりやっていただきたいところです。

4番目、各種書類・届出書の提出失念です。

これが怖いところですね、年1回の年次報告書、3年に1回の報告書を忘れたのが納税者の責任なのか、税理士の責任なのかということです。

5番目は、申告書等への適用明記、添付書類漏れなどです。

これは業務の段階できっちりやっていただきたいと思います。

6番目は、期日管理に関する説明助言義務違反です。

納税者が届出書等を提出しなかったときに「なんで先生言ってくれなかったんですか」というようなことから損害賠償に発展するパターンです。

7番目は、打ち切り事由に該当しないよう監視・指導をする義務違反。

打ち切り事由がたくさんありますが、知らずにやってしまったとき、「税理士の先生、新事業承継税制適用してたんだから、ちゃんと言ってくれないと、止めてくれないと困るじゃないですか」というように言われてしまうリスクです。

このように特例事業承継税制を適用するには、10段階において、7つの税理士損害賠償リスクが発生することになります。
 
 
 

税賠のパターン


「新事業承継税制は、リスクが高いので専門事務所に任せよう」という税理士も多いと思います。

「顧問契約に基づく業務はやるけれども、事業承継税制は他の事務所に委託する」というパターンです。

その場合でも、こういうクレームがありえます。

顧問契約はしていたが、事業承継は他の事務所を紹介し、手続きをした。

ところが他の事務所が特例承継期間にしなければならない報告を怠った。

他の事務所の責任ですよね。

しかし、こういうことを言われる可能があります。

「事業承継は、他の事務所にお願いしましたよ。でも先生は当社の顧問税理士で、事業承継税制を適用したことをご存じですよね。1年ごとに報告をしないといけないことを知っていたでしょう。なぜ助言してくれなかったんですか。顧問税理士としての助言義務違反じゃないんですか?」

あるいは、

「事業承継をお願いした事務所とは契約が切れたことを知ってたでしょ?
そうすると、先生が言ってくれない限り私たちはできませんよ」

と言われる可能性があります。

こんなことを避けるためには、顧問契約書にも「新事業承継税制は業務範囲外だ」ということを書かないといけないような事態になってくるのではないでしょうか。

このような文言を顧問契約書に書いておくことが考えられると思います。

第〇条 甲と乙は、甲が特例事業承継税制の助言・手続き・期日管理等は、本件委任業務の範囲外とし、乙は、特例事業承継税制に関する助言・手続・期日管理等をsる義務を負わない。

新事業承継税制は顧問先に説明しておいた方が良いと思いますが、後になって「説明を受けてない」と言われる可能性があります。

従って、説明・助言したことを立証する手段を講じておく必要があるということです。

特例事業承継税制について説明する資料としては、国税庁の「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予免除(事業承継税制のあらまし)

それに基づいて説明すれば、一応の説明は完了した、ということになりますので、その写しを交付して、説明して、説明を受けたことの確認を、署名押印を得る、ということになります。

そうすれば、説明助言したことは立証できるということになります

新事業承継業務は税賠リスクが高いのですが、逆に、こういうことを言う税理士がいます。

「期日管理等をするので、その分、報酬を増額できる」

ということだったり、

「事業承継税制を適用してたら、なかなか顧問契約は切れないんじゃないか」

ということで、積極的に考える先生もいます。

ただ、専門的に事業承継業務をやっている先生だったらいいですが、法人の顧問業務を主に行っている税理士が3年に1回の期日管理をしていくのは非常に難しいのではないか、と予想します。
 
 
 

税賠リスクを低減するための5段階契約システム


そこで、可能な限り税理士の税賠リスクを低減するということで考えたのが、5段階に契約を分ける、というシステムです。

どういう契約か、説明していきます。

5段階というのは、第1段は「当初説明助言業務」だけを受任するという方法です。

「自社株の評価」とか「事業承継税制の説明」、あるいは「贈与税や相続税の資産対策等の助言業務」をまず初めに受任して、その他の事業承継業務を業務の範囲から除外するということです。

第2段階として、「特例承継計画作成・提出段階」がありますので、この支援業務、あるいは「変更申請書の提出業務」、これを単発で受任し、その他の業務を委任業務から除外します。

3段階目は、「贈与税・相続税の申告業務」、これも単発で受任します。

4段階目は、「経営承継円滑化法の認定申請に係る業務」、これも単発で受任し、それ以降の年次報告書や届出書、打ち切り事由に該当しないよう助言するような業務を除外します。

5段階目は、その後の業務、「年次報告書の提出等」がありますが、これも1年1年個別に受任する、という方法をとります。

通常は、依頼者は、「税理士に任せたから、税理士がやってくれるだろう」と考えています。

しかし、税理士の側は、「そんなことまで受任していませんよ」と考えていることも多いものです。

つまり、受任範囲の認識に齟齬がり、それが原因で税理士損害賠償に発生することも多いのです。

そこで、5段階契約にすることにより、特例事業承継税制における受任業務の範囲を1回1回依頼者と確認しあいます。

そして、何が依頼者の責任範囲で、何が税理士の責任範囲かを確認しあうのです。

この方式により、認識のズレがなくなりますので、それによる税賠を防ぐことができる、ということになります。
 
 
 

判例でみる5段階契約システム


契約書で区切っていくと、何が有効かというと、過去の判例を見ていただければわかります。

東京地裁の平成24年3月30日判決です。

税理士が勝訴したのですが、契約書が締結されていた事例です。

判決は、「顧問契約上、なすべき義務は契約書に明記された税務代理や税務相談等の事項に限られる」。

「依頼者の業務内容を積極的に調査し、または予見して税務に関する経営判断に資する助言・指導を行う義務はない」ということで、契約書の記載内容を重視して、契約範囲を定めています。
 
 
 

第1段階


その観点から考えると、第1段階の「当初説明助言業務」では、例えばこういうふうに書くことになります。

「業務範囲」
1、 自社株式の評価額算定 金●円
不動産その他の鑑定費用・専門家費用は含まれません。

2、本契約期間における事業承継税制の説明及び適用判定

3、事業承継税制利用における本契約期間における贈与税・相続税の試算と対策助言、これが業務です。

※以下は業務範囲に含まれません。別途契約となります。
1、自社株対策(組織再編含む)
2、特例承継計画の作成・提出から始まる事業承継税制の全ての手続及び期日管理

これらはすべて業務対外です、という記載になります。

なお、特例承継計画は2023年3月31日が提出期限となりますので、ご希望の際はお申し出ください、ということを書いておくことで、これも対象外ですよ、ということと、提出期限につい説明・助言を果たした、という証拠になります。
 
 
 

第2段階


そして、第2段階にいきますと、まず事業承継計画書提出なんですけれども、2023年3月31日までに事業承継計画書を提出する必要があります。

そして、契約書では事業承継計画書を実際に作成・提出する時点で受任します。

なぜかというと、何年も前に前もって契約してしまうと、出し忘れてしまう可能性があるからです。

ですから実際に作成提出する時点で契約、ということになります

それから、変更申請書を業務範囲から除外しておかないと、内容に変更を生じたことを知っていたにも関わらず、出さなかった場合に責任を問われますので、これを除外します。

変更申請書も、受任するときに受任する、ということです。

その後の手続きも業務範囲から除外することになります。
 
 
 

第3段階


そして、第3段階は相続税・贈与税の税務申告書の作成・提出段階ですね、これは税務書類の作成申告書特有の、通常の税賠リスクということになりますので、個別に委任契約書を作成します。

そして、個人と契約をする際には、消費者契約法が適用されますので、損害賠償の制限条項の文言には、普通の法人税の契約書とは異なる記載をしなければなりません。

それから、説明助言義務が問題となることが多いので、契約時に一般的な説明書、同意書を得ておくのが、後の税賠リスクを低減させる、ということになります。

消費者契約法の、損害賠償の制限条項というのは何のことを言っているのかというと、こういう条項のことです。

「損害賠償の制限条項」

(例)
乙が甲に対し、故意または過失による債務不履行または不法行為に基づく損害賠償債務を負担するときは、その賠償額の上限は、甲が乙に対して支払った当該行為があった年の年間報酬額を上限とする

損害賠償金は払いますけれども、その上限金額はいくらいくらにしてください、というのがこの損害賠償の制限条項です。

個人と契約を締結する際には、消費者契約法の適用がありますので注意が必要です。

消費者契約法の適用があると、損害賠償の制限条項が無効になる場合があります。

こういう場合に無効になります。

1、債務不履行または不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を
免除する条項

2、債務不履行または不法行為で故意又は重過失で消費者に生じた損害を賠償する
責任の一部を免除する条項

従って、消費者契約法の制限に当たらないような規定の仕方をする必要があります。

ここでは割愛します。

ところで、この話をすると、「では、対象法人とだけ契約すればいいのでは?」と考える人がいると思います。

ところが、税理士損害賠償は、債務不履行だけでなく、「不法行為」による請求もあります。

不法行為は、契約書を締結していない人からでも訴えられることがある、ということです。

したがって、対象法人とだけ契約書を締結しても、納税猶予が打ち切りになった個人から不法行為に基づく損害賠償請求を受ける可能性がある、ということです。

では、誰と契約を結ぶのが望ましいか、ですが、長くなるので、ここでは割愛します。
 
 
 

第4段階


次に、第4段階の契約は、認定申請の段階です。

特例承継期間中、毎年1回および特例承継期間経過後3年に1回。

5年経過後以降における年次報告書、継続届出書の期日管理及び提出を業務範囲から除外しておくということが重要です。

上記報告書と届出書の提出を怠ると打ち切り事由になること、その他の打ち切り事由を説明したことを契約書に記載しておくことも必要でしょう。

特例承継期間中および特例承継期間経過後において打ち切り事由に該当しないように積極的に調査・監視などを行うコンサルタント業務をも業務範囲から除外します。

そうしておかないと、「なんで言ってくれなかったんですか」ということになる。

その他、免除申請なども業務範囲から除外しておきます。
 
 
 

第5段階


第5段階目です。

これは年次報告書等の提出段階です。

特例承継期間中、毎年1回および特例承継期間経過後3年に1回における年次報告書、継続届出書の提出を個別に受任します。

毎年受任します。

そして今回提出する1回のみ受任とし、来年あるいは3年後の提出は受任範囲から除外します。

「その時にまた受任しますよ」ということですね。

期日管理及び打ち切り事由に該当しないことの管理はあくまで納税者に責任があるんですよ、ということを明記します。

そして、報告書と届出書の提出を怠ると打ち切り事由になること、その他の打ち切り事由を説明したことを契約書に明記しておきます。

そして、特例承継期間中および特例承継期間経過後において打ち切り事由に該当しないよう積極的に調査・監視などを行うコンサルタント業も業務範囲から除外します。

その他、免除申請なども業務範囲から除外します、ということです。

このように契約書を区切って、その都度個別に契約を締結していくというのが税理士の税賠リスクをできる限り回避する方法だと思います。

この、5段階契約の目的というのは、単に税理士の責任を回避するというものを目的とするものではありません。

あくまでも、認定取り消し、打ち切り事由に該当しないようにする責任というのは納税者にありますので、その自覚をしっかり持っていただくことが大切です。

多額の贈与税や相続税の納税が最終的に免除されるという大きなメリットがある制度です。

その大きなメリットを受ける納税者が、メリットを受けるための注意をし続ける責任があるのだという自覚を持っていただくことが大切です。

そして、税理士はあくまでその支援をする存在だということを明確にすることを目的にしています。

その意味で、「税理士に全部任せたぞ、俺は知らん」ということは通じないということをよく理解していただくことが必要です。

依頼者は税理士に任せた認識であり、税理士は依頼者が期日管理等をするという認識である、というような認識のズレによる税賠を防止することを目的にしています。

また、説明すべきことを契約書に明記しますので、説明したのに聞いてないというような、「言った言わない」による税賠を防止ます。

以上、5段階契約システムによって税理士の事業承継税制の税賠リスクをできる限り回避するという方法について説明しました。
 
 
 

5段階システムに対応する契約書書式


対策のポイントは契約書を締結するということです。

ところが、契約書にはいろんな条項がありますので、なかなか作成するのは難しいと思います。

特に、新事業承継税制を理解している弁護士でないと、この作成はなかなか難しいのではないか、と思います。

そこで今回、私のほうで、この5段階にわたる契約書を開発して作成を致しました。

第1段階第2段階第3段階第4段階第5段階、そして第3段階の相続税・贈与税の契約においては、説明・助言が問題となることが多いので、相続税業務の契約時に、納税者に説明すべきこと、一般的に説明すべきことを網羅した説明書も一緒に作成を致しました。

これらを利用することによって、税理士が新事業承継税制で税賠リスクをできるだけ回避するということに、ご協力できるのではないかと思っています。

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