犬のリードを離したら罪!? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。

犬のリードを離したら罪!?

2016年02月24日

正月に行われた駅伝の競技中に珍しいハプニングが起きていたようです。

そのために、観客が書類送検されるという事態になってしまいました。
一体、何が起きたのでしょうか?

「駅伝コースに犬、飼い主書類送検 係留義務違反疑い」(2016年2月23日 共同通信)

今年の元日、群馬県で行われた「第60回全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)」で、飼い犬がコース上に飛び出し選手を転倒させたとして、群馬県警高崎署は飼い主の男性(高崎市在住・70歳)を「高崎市動物愛護条例(係留義務)」違反の疑いで高崎区検に書類送検しました。

事件が起きたのは1月1日午前。
捜査関係者や主催する日本実業団陸上競技連合によると、高崎市の沿道で応援していた男性が犬をつないでいたリードを離したためにコース上に犬が飛び出し、コニカミノルタの選手がつまずき転倒したようです。

駅伝の結果は、1位がトヨタ自動車、コニカミノルタのチームは2位でタイム差は21秒だったということです。
では、今回適用された高崎市の条例を見てみましょう。

「高崎市動物愛護条例」
第9条(犬の飼い主の遵守事項)
犬の飼い主は、前条各号に定めるもののほか、その飼い犬について、次に掲げる事項を遵守しなければならない。

(1)常時係留すること。ただし、次のいずれかに該当する場合は、この限りではない。
ア 警察犬、狩猟犬、盲導犬、介助犬、聴導犬等をその目的のために使用する場合
イ 人の生命、身体及び財産を侵害するおそれのない場所及び方法で訓練する場合
ウ 飼い犬を制御できる者が、綱等により確実に保持して移動させ、又は運動させる場合
エ その他規則で定める場合

これに違反した場合は5万円以下の罰金に処されます(第24条)。

この規定が適用されるのは珍しいですね。

日本中の注目を集める駅伝において発生したことから、そのままにすることができなかったのでしょう。

各都道府県や市には、それぞれ独自に定めた動物愛護条例があります。
基本的な内容は、動物の愛護や管理に関する事項、動物による人の生命や身体、財産に対する侵害の防止などについて規定されており、人と動物が共生する調和のとれた社会の実現を目的としています。

ところで、各メディアの報道などを見ていると法律のほかに今回のような条令の違反のニュースが出てくることがあります。
「迷惑防止条例」や「青少年保護育成条例」などですね。

では、法律と条令は何が違うのでしょうか?
以下に、日本の場合について簡単にまとめます。

◆法律とは、国会の議決により成立し国が制定するもので日本の全域、全国民に適用されます。
一方、条例は各都道府県や市町村等の地方公共団体の議会により成立し、その地方公共団体のみに適用されます。

◆条例の制定に関係するのは、「日本国憲法」と「地方自治法」です。

「日本国憲法」
第94条
地方公共団体は、その財産を管理し、事務を処理し、及び行政を執行する権能を有し、法律の範囲内で条例を制定することができる。
「地方自治法」
第14条
1.普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。
日本国憲法を頂点とした国内の法体系としては、条例は国が定める法律よりも下位に位置付けられるもので、法律の範囲内で法令(法律と命令)に違反しない限り定めることができるものとされています。

優先順位としては、おおまかに以下のようになります。(条約を除きます)

憲法 >法律 > 命令(政令・府省令など)> 条例> 規則

◆条例による罰則は、地方自治法(第14条3項)により、違反した者に対しては、「2年以下の懲役若しくは禁錮、100万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は5万円以下の過料」を科すことができます。

これらのことからも、条例は国で定めるまではいかない規制や、その地方や地域の特性に合わせた規則として定められるものともいえます。

ちなみに、日本全国の各地方自治体には真面目なものからユニークなものまで、さまざまな条例が存在します。

・「受動喫煙防止条例」(神奈川県)
公共空間、施設での受動喫煙を防止するために喫煙を禁止する条例。

・「市福祉給付制度適正化条例」(兵庫県小野市)
受給した生活保護費や児童扶養手当をパチンコなどのギャンブルで浪費することを禁止した条例。

・「梅干しでおにぎり条例」(和歌山県みなべ町)
若者を中心に梅干し離れが進んだため、日本有数の梅干しの名産地である同町が制定した、おにぎりを作る時の具は梅干しにするように呼びかける条例だそうです。

・「キューピット条例」(三重県紀勢町)
町の中年齢者(30歳以上)に縁談をお世話して結婚が成立した場合、1組につき20万円が支給されるそうです。

・「家族読書条例」(宮崎県高千穂町)
学校や家庭、地域社会で読書に親しみ、読書を通して家族の絆を深めようとする条例だそうです。

・「京都市清酒の普及の促進に関する条例」(京都市)
伝統産業である清酒醸造を守るためにも、最初の1杯目は日本酒で乾杯しましょう! というものだそうです。
以上、事件の話からはズレましたが、住民をルールで縛る、というよりも、地域興しやより良い地域を作るための条例があるのが面白いですね。

会社の就業規則や校則なども、社員や生徒を一方的に縛る観点ではなく、もっと生産的・発展的な観点で作ってみるのも良いかもしれません。

(例)
就業規則第●条
社員は、夢を持ち、他の社員と夢を語り合い、他の社員の夢を賞賛し、その実現に協力を惜しまないこと。