納税猶予の助言義務違反で税賠の裁判例
今回は、相続税申告において、納税猶予の説明義務に違反したとして損害賠償請求された裁判例をご紹介します。
横浜地裁平成元年8月7日判決です。
(事案)
・原告の父が死亡し、原告他9名が法定相続人として相続が開始した。
・原告他9名は、被告税理士に相続税申告手続を委任したが、農地の納税猶予の適用を依頼し、被告税理士は受任した。
・相続税申告期限の日に税理士は遺産未分割で申告手続をしたが、その際、農地の納税猶予の適用申請をしなかった。
・本件納税猶予は農地についてのみ一部分割をしていれば適用を受けられたにもかかわらず被告税理士が説明を怠ったことにより適用不可となったとして、損害賠償請求をした。
(判決)
判決は、以下のとおり、税理士に対し、納税猶予の説明をする義務があると判断しました。
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税理士は、本件納税猶予の適用申請手続の税務代理を受任した場合、委任者に対し、本件納税猶予の適用申請を行うためには、申告期限までに共同相続人間で遺産分割協議書が作成されなければならないこと、即ち、全体の遺産分割協議書が作成されるべきであるが、仮にその作成ができなかつたとしても、当該農地だけの一部遺産分割協議書が作成されなければならないことを説明すべき義務が存するものというべきである。
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また、判決は、事実認定として、税理士は、納税猶予の説明をしなかった、と認定しました。
では、損害賠償責任を認めたか、というと、結論は税理士勝訴です。
説明義務があり、税理士は説明を怠ったにもかかわらず、です。
理由は、以下のとおりです。
・遺産分割の協議は、税理士から相続税申告期限までに分割協議を成立させるよう再三にわたり述べられていたにも拘らずこれができなかつたほど難行していた。
。不動産を本家側、分家側でどのように分配するかで難航しており、相続税の軽減の問題は二次的な問題であった。
・分家側の一部の者が原告に対し相当に感情的になつていた。
・仮に原告が分家側の相続人に対し、本件納税猶予の適用のため本件農地の一部分割を求めたとしても、申告期限内に右一部分割協議が成立し得たものと推認することは困難であった。
・したがって、税理士が説明したとしても、損害は回避できなかった。
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つまり、「損害がない」ので、損害賠償責任もない、ということです。
本件の教訓としては、申告期限までに一部分割すれば適用可能な場合は、そこまで説明しておく必要がある、ということです。
また、他の選択肢を選択することがその時点で想定できないような場合でも一応説明はしておく、ということです。
いずれも証拠化を忘れないようにしておきましょう。
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