弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 32
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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    求償権行使不能の時期の判定

    2023年12月28日

    今回は、求償権を行使することができなくなったのはいつか、が争われた裁判例をご紹介します。

    那覇地裁令和元年5月28日判決です。

    (事案)

    亡甲は、平成22年、自己所有の土地を譲渡した代金を、自らが代表取締役を務めていたA社の債務に係る連帯保証債務の履行に充て、確定申告において譲渡所得を計上しました。

    その後、ごく一部の回収額を除いてA社及び相連帯保証人らに対して求償権を行使することができなくなったため、回収額を超える部分について所得税法64条2項所定の事由が生じたとして更正の請求を行いました。

    ところが、税務署長は、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。

    関係法令==================

    所得税法152条

    確定申告書を提出し・・・た居住者・・・は、当該申告書・・に係る年分の各種所得の金額につき・・第六十四条(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)に規定する事実その他これに準ずる政令で定める事実が生じたことにより、国税通則法第二十三条第一項各号(更正の請求)の事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から二月以内に限り、・・更正の請求をすることができる。

    所得税法64条2項

    保証債務を履行するため資産・・譲渡・・があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた金額・・を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。

    ======================

    更正の請求は、「当該事実が生じた日の翌日から二月以内」という期間制限があるので、求償権を行使することができないこととなったがいつか、が論点となりました。

    (時系列)

    ・平成25年11月1日、亡甲は、保証債務履行後、A社に訴訟を提起し、勝訴判決を得て、強制執行をして、求償権の一部を回収し終えました。

    ・平成26年3月20日、代理人弁護士から、訴訟の経緯や強制執行に関する報告がなされました。

    ・平成26年4月22日、亡甲は、更正の請求をしました。

    裁判所は、以下の理由により、原告(納税者)の請求を棄却しました。

    亡甲がその代表取締役を退任した平成18年11月25日以前から、A社は破産申立ての検討が必要になるほど、資金繰りに苦しんで億単位の債務超過に陥り、その財政状況が悪化していた。

    亡甲は、同社の資産の状況には、当然通暁していたものと解される。

    A社は、平成21年12月期事業年度に約2億3333万円の債務超過の状態にまで至っているなど、財政状況が好転したとうかがわせる事情は見当たらない。

    亡甲が、A社に対する前件訴訟の確定判決に基づく強制執行によって預金及び動産から本件回収額を取り立てた後、本件報告書が作成されるまでの間に、A社については何ら資産調査が行われた形跡もうかがえない。

    A社に対する関係では、本件回収額を取り立て終えた平成25年11月1日の時点と、弁護士から本件報告書が提出された平成26年3月20日の時点とで、求償権の残額全額の回収が不能であることについて、客観的な状況に何ら変化はない。

    後者の時点で求償権を行使することができない状態にあったといえるのであれば、既に前者の時点で求償権を行使することができないこととなっていたものと認めるのが相当である。

    法64条2項にいう求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときとは、客観的にみて求償債権を回収できる見込みのないことが明らかになったときをいうものと解されるのであって、納税者の恣意によって収入の不発生の時期が変動されることを許すべきでないという課税上の要請に基づき、回収不能の事実は客観的に判定されるべきであるというその趣旨に照らせば、求償債権者の代理人と本人の間の報告の有無によって客観的な回収可能性が左右されるかのような解釈は、到底採用することができない。代理人にとって客観的に回収不能であることが明らかになった以上、納税者本人にとっても客観的に回収不能であることが明らかになったものとして遇するのが相当である。

    ======================

    以上です。

    上記のとおり、求償権の行使ができないこととなったかどうかは、「客観的」に判定されることとなります。

    したがって、弁護士に委任して債権回収をし、回収不能の部分について更正の請求を検討しているような場合には、債権回収状況について、弁護士から速やかに報告を受ける必要がある、ということになります。

    納税者本人の主観的状況で判断されるわけではない、ということに注意が必要です。

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