DV | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
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  • DVで5,000万円の損害賠償が認められた件

    2014年02月12日


    弁護士をしていると、日々さまざまな相談を受けます。

    中には離婚の相談もあるのですが、じつはその中で多いのがドメスティックバイオレンス(DV)の問題です。

    DVは、なかなか人には言えない問題でもあるため、表面化しないだけで実態は想像以上に多いのかもしれないという印象です。

    愛し合って結ばれたはずの2人なのに、暴力でしかつながれないのは悲しいことです。

    紀元前のローマの劇作家、テレンティウスが言ったそうです。

    「恋人同士のけんかは、恋の更新である」と。

    恋が更新されるのは良いことです。更新される度に2人の関係が深まっていきます。

    しかし、これは対等の立場でのけんかを前提にした言葉でしょう。

    2人の関係が対等でない場合は、どうなるでしょうか?

    体力で言えば、女性より男性の方が圧倒的に強いのが通常です。男性が暴力に訴えたら、女性は太刀打ちできません。

    もはや恋の「更新」はありません。

    「恋人への暴力は、恋の契約解除である。そして、損害賠償である」

    となるでしょう。

    そんなDV事件の判決が北海道で出されました。

    「自殺未遂、DVが原因 交際相手に5千万賠償命令、札幌地裁」(2014年2月6日 北海道新聞)
    札幌市の女性(26)が、交際相手の男性(26)からのDVを苦に自殺を図り、重度の障害を負ったとして、5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、5日に札幌地裁でありました。

    裁判長は、「女性は暴力を受け思い詰めていた。自殺は予見可能だった」と指摘して、請求通り全額の支払いを命じたもようです。

    報道によると、2人の交際は2008年5月ごろからスタート。

    しかし、間もなく男性が女性を怒鳴ったり、殴ったりするなどの暴力をふるうようになったようです。

    そして2009年1月、女性は自宅マンション14階の非常階段から飛び降り、意識不明の重体となり、現在も意思疎通が困難な状態が続いているということです。

    男性側は暴行を否定しているようですが、裁判長は女性の友人の証言から「七ヵ月間にわたる暴行で思い詰め、当日も殴られて自殺を図った」と認定。

    また、女性は男性に「いつか自分で自分の命を終わらせてしまいそうで怖い」というメールを送っていたということで、「男性は自殺を予見できた」と結論づけたようです。

    男性は、2011年7月と2008年8月に女性に対して全治1週間のケガを負わせたとして札幌簡裁から罰金20万円の略式命令を受けているそうです。

    DVは、家庭内の問題というだけではなく、一線を超えれば「暴行罪」や「傷害罪」になります。今回の場合、刑法上は「傷害罪」です。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    犬も食わぬ、という痴話喧嘩で済んでいればいいのですが、暴力によって、あまりに相手を精神的、肉体的に追い詰めすぎると、このような不幸なことになってしまいます。

    ちなみに、DVに関する法律には全30条からなる「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(通称「DV防止法」)があります。

    DVの被害者は女性が多いことから、この法律の前文では「男女平等」「被害者の保護」「女性に対する暴力の根絶」などに触れています。

    たとえ、歪んだ愛の形の果てがDVだとしても、暴力は絶対に許されることではありません。

    「法は家庭に入らず」という法諺があります

    家庭内で窃盗などを行っても、法律では取り締まりをしない(刑が免除される)、ということです。

    しかし、暴力は別です。法がずかずかと家庭に入ってきて取り締まります。

    特に男性諸氏は肝に銘じておきましょう。

    口喧嘩で頑張るのです。

    どうしても口喧嘩で勝てない時は、次の本を読んでみるとよいでしょう。

    「弁護士の論理的な会話術」(あさ出版)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/4860633997/

    もし、口喧嘩が嫌だ、ということであれば、上手に交渉してみましょう。
    次の本が参考になるでしょう。

    「弁護士が教える気弱なあなたの交渉術」(日本実業出版社)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/453404433X/

    それでもダメな場合は、自分の心をコントロールするしかありません。
    そんな時は、この本があなたを導いてくれるでしょう。

    「やっかいな相手がいなくなる上手なモノの言い方」(角川書店)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/404110565X/

  • 「いじめ」の「罪と罰」

    2013年12月29日

    タレントのビートたけしさんの新刊『ヒンシュクの達人』(小学館新書)の中に「犯罪」や「表現」についての持論が書かれている箇所があります。一部引用してみます。

    <運動部のシゴキに限らず、「いじめ」って言葉を聞かない日はないけど、この言葉の響きが本質を見誤らせてるんだよな。弱い同級生を殴ったとか、恐喝してカネを奪って、ついには自殺に追い込んじまったなんて、これはもう「いじめ」じゃなくて「犯罪」だろうよ。「暴行罪」「脅迫罪」「恐喝罪」と、ホントの罪状で呼んでやらないと>

    <これは「犯罪だ」ってことをガキの足りない頭でもわかるようにしてやんないと、また同じことが起こっちまうぜ>

    たけしさんらしい過激な表現もありますが、私も法律家、表現者としてこれは一理あると感じる部分もあります。

    小学生が同級生を殴って怪我をさせた場合を考えてみましょう。

    「子供の喧嘩」「いじめ」で済まされる場合も多いでしょう。

    しかし、大人だったら、どうでしょうか?

    被害者が警察に駆け込めば「傷害罪」です。逮捕され、前科がつくかもしれません。

    それを「いじめ」とひとくくりにしてしまった瞬間、犯罪臭が消え去り、学校内で解決すべき問題となってしまいます。

    会社の飲み会で、上司が部下の女性に抱きついたり、キスしたりしたら、「セクハラ」と言われます。

    しかし、道端でこれをやったら、「強制わいせつ罪」になりかねません。

    いずれも女性の意思を無視して無理矢理していることに変わりありません。

    「セクハラ」と言った途端、やはり犯罪臭がなくなってしまい、社内の問題となってしまいます。

    「パワハラ」で、殴るなどは「暴行罪」や「傷害罪」。精神的に追い詰めて精神障害を起こさせることは、場合によっては「傷害罪」になります。

    DV(ドメスティックバイオレンス)もそう。

    家庭内の問題ではなく、「暴行罪」「傷害罪」です。実際、逮捕事例もニュースになっています。

    報道や表現する側としては、あるネーミングを使うことで、刺激的な表現を回避して、包括して意味を伝えることができるメリットがあります。

    その方が読者や視聴者の興味をひきやすい、というメリットもあるでしょう。

    もちろん、被行為者の精神的苦痛への配慮という面もありますが、罪状をぼやかし、場合によっては婉曲表現することで行為者に犯罪という自覚がなくなってしまう恐れもあります。

    また、読む者、聴く者も、犯罪という印象がなくなってしまう恐れがあります。

    ネーミングを使うことは便利ですが、法律の一線の超えた場合には、正式な犯罪名で呼び、行為者、被害者、周りの人の自覚を促すことも大切ではないか、と思います。

    そのような小さなことも法を日本の社会の隅々の浸透させる一助となるのではないか、と思います。

    弁護士監修の契約書書式集
    マイ法務~法を社会の隅々に~
    http://myhoumu.jp/