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遺言公正証書が年10万件を突破したらしい
2015年06月26日
超高齢化社会
超高齢化社会といわれる日本では、現在、4人に1人が65歳以上だそうです。
そして10年後には、「2025年問題」が起きるともいわれています。
いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで、人口の4人に1人が75歳以上となり、社会保障財政のバランスの崩壊が懸念されているものです。厚生労働省のデータによれば、2012年には65歳以上の1人を現役世代(20~64歳)2.4人で支える構造になっていました。
これが2050年には、65歳以上の1人を現役世代1.2人で支えなければいけなくなるということです。大変な時代がやって来るのでしょうか…。
ところで、高齢者の方を巡る問題には遺産相続にまつわるトラブルがあります。
相続=争族といわれるように、兄弟や親族間で骨肉の争いになることもあるのが相続問題です。そこで今回は、遺産相続トラブルを防止する方法としての「遺言」について法的に解説します。
「遺言公正証書:年10万件 背景に家族の形多様化 確実な相続を期待」(2015年6月22日 毎日新聞)
遺産相続を巡るトラブルを防ぐために、公証人の助言を受けて作られる遺言公正証書の年間作成件数が2014年に初めて10万件を突破したようです。
日本公証人連合会(日公連)によると、1971年には約1万5000件だった遺言公正証書の作成件数は、2014年には10万4490件にまで増加。
高齢化の進展に加え、家族の形態が多様化し、法律の定めとは異なる相続を望む人が増えていることが背景にある、としています。
公正証書遺言とは?
遺言には、「特別方式」と「普通方式」の2つの方式があります。
特別方式は、死期が迫っている、一般社会から隔離されているなど特別な場合の遺言方式です。
普通方式には、次の3つの遺言があります。
・「自筆証書遺言」…遺言者が遺言内容の全文、日付、氏名すべてを自分で記載して、捺印をするもの。
・「公正証書遺言」…公証人に作成してもらうもの。
・「秘密証書遺言」…遺言内容と氏名を自筆し、捺印した書面を封筒に入れ封印したものを公証人に証明してもらうもの。自筆証書遺言については以前、解説しました。
詳しい解説はこちら⇒「自筆証書遺言の書き方」
https://taniharamakoto.com/archives/1372「一度書いた遺言書を変更したくなったら!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1509自筆証書遺言は、自分で書ける手軽さはありますが、書き方には厳格なルールがあり、定められた方式でなければ無効となってしまいます。
一方、公正証書遺言は、公証人に証明、作成してもらわなければいけないという手間がかかりますが、証書は公証役場に保管されるため、破棄、隠匿、改ざんの心配がないなどのメリットがあります。
公正証書遺言の特徴、その他のメリットについて以下にまとめます。
・公証人が作成するので、不備などで無効になる心配がなく、内容が整った遺言を作成することができる。
・家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので、相続開始後は速やかに遺言の内容を実現することができる。
・病気などで自書が困難な場合でも公証人が作成してくれる。
・作成手数料は遺産額で決まる。たとえば、1000~3000万円の場合では相続人1人あたり2万3000円となっている。公正証書遺言の作成件数が増加している要因とは?
では、なぜ公正証書遺言を作成する人が増えているのでしょうか?
報道にもあるように、背景には複数の要因があると考えられます。「家族形態の多様化」
・子供のいない夫婦で、仲の良くない兄弟や、疎遠な親族などに財産を遺したくないと考える場合。
・事実婚だが、パートナーには遺産を遺したい場合。などのように、家族の形が多様化していることで、法律の定めに縛られずに遺言として生前に遺しておきたい人が増えているようです。
詳しい解説はこちら⇒
「子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?」
https://taniharamakoto.com/archives/1541
「相続税などの増税」
2015年1月1日から相続税・贈与税が改正されているのは、みなさんご存じだったでしょうか?今回の改正は、遺産から差し引くことができる基礎控除額が下げられたのが大きなポイントでした。
以前の基礎控除額は、「5000万円+1000万円×相続人の数」でした。
改正後の現在では、「3000万円+600万円×相続人の数」というように40%も引き下げられています。たとえば、8000万円の遺産を配偶者と2人のこどもが相続する場合、今までは、5000万円+1000万円×3人=8000万円で、相続税はかかりませんでした。
これが、現在では法定相続分どおりに相続するとすると、単純計算で175万円かかることになります。
また、見方を変えれば、4800万円の遺産があれば相続税が発生してしまうということになります。こうした増税にともなうトラブル防止のためにも公正証書遺言のニーズが高まっているようです。
「認知症の急激な増加問題」
超高齢化にともない、認知症の人が急激に増えています。厚生労働省の公表資料によると、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は推計15%、約462万人。
発症の可能性のある400万人も含めると、4人に1人が認知症とその予備軍だという調査結果があります。認知症が原因の行方不明者は2年連続で1万人を超えていますし、事故に巻き込まれる可能性があります。
詳しい解説はこちら⇒「鉄道事故の賠償金は、いくら?」
https://taniharamakoto.com/archives/1421また、自筆証書遺言の場合、保管や管理の問題が出てきますし、死後に遺言の有効性そのものを巡って親族間の訴訟に発展してしまう例もあります。
こうした事態を避けるために、生前に公正証書遺言を作成し公証役場でしっかり管理してもらいたいという人が増えているようです。
以前は、遺言書を作るなんて縁起が悪いと考える人も多かったのですが、時代が変わり、価値観が多様化してきたことで遺言書の需要が高まっています。備えあれば憂いなし。
自分の死後の争族を防止するためにも、財産についての備えも万全にしておきたいものです。相続に関する相談はこちらから⇒
http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/
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遺言書で自分の取り分がなかったら?
2014年12月21日
★遺言書で自分の取り分がなかったら?
たとえば、親が亡くなって、相続が発生したと思ったら、遺言書が出てきて、自分以外の人に、全ての財産を相続させる、と書いてあったら、どうでしょうか?
ショックですね。(>_<)
自分の取り分がゼロになってしまいます。
しかし、その場合でも、法律は、救済策を作っています。
「遺留分」という制度です。
遺留分というのは、遺言書でも取り上げることのできない、相続人の取り分のことなのです。
たとえば、相続人が妻と長男、次男の3人だったとして、「妻に全ての財産を相続させる」という遺言書があるとします。
その場合、長男と次男には、財産に対し、4分の1ずつの遺留分がありますので、妻から、その分を分けてもらうことができます。
この遺留分は、一定の事実を知った後1年以内に請求しないと、権利が消滅してしまいますので、ご注意ください。
ご相談は、こちらから。
http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/
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相続セミナー開催
2014年12月03日
2014年11月30日に、相続セミナーの講師を務めました。
ハウスメーカーさん主催のセミナーで、40人ほどのご参加でした。
私の方では、相続でトラブルになりやすい事例の紹介から、遺言書クイズ、遺言書の弱点、それをカバーする信託制度、などについてお話しさせていただきました。
とても熱心に聞いていただいたので、話しやすかったです。
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一度書いた遺言書を変更したくなったら!?
2014年06月07日
自分が死んだ後の財産の処分について、遺言書を書くことは大切なことです。
しかし、一度遺言書を書いたものの、その後で遺言書の内容を変更したくなったらどうしたら良いでしょうか?
以前、「遺言書の書き方」について解説しました。
解説記事はこちら→ https://taniharamakoto.com/archives/1372
今回は、「遺言書の加筆・訂正・変更の仕方」について解説したいと思います。
【自筆証書遺言の加筆・訂正・変更】
遺言者が自分で書いた「自筆証書遺言」の内容を訂正・変更するには、厳格な方式が定められています。なぜなら、偽造や変造を防止するためです。
「民法」第968条では、遺言者が行うべき以下の要件が定められています。①変更した場所を指示する。
②変更した旨を付記する。
③これに署名をする。
④変更した場所に印を押す。この4つの条件を正しく守ることで、加筆・訂正した遺言状に効力が生じます。
【遺言の撤回】
加筆・訂正する箇所が広範で詳細な内容におよぶ場合は、既存の遺言をいったん撤回して新たに書き直すほうがいい場合があります。
その際、民法では以下のように規定されています。「民法」第1022条(遺言の撤回)
遺言者は、いつでも、遺言の方式に従って、その遺言の全部又は一部を撤回することができる。「民法」第1023条(前の遺言と後の遺言との抵触等)
1.前の遺言が後の遺言と抵触するときは、その抵触する部分については、後の遺言で前の遺言を撤回したものとみなす。
2.前項の規定は、遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合について準用する。「民法」第1024条(遺言書又は遺贈の目的物の破棄)
遺言者が故意に遺言書を破棄したときは、その破棄した部分については、遺言を撤回したものとみなす。遺言者が故意に遺贈の目的物を破棄したときも、同様とする。わかりやすくまとめると、以下のようになります。
①前の遺言の方式いかんを問わず、すべての方式の遺言で、いつでも撤回することができる。
②どの方式・種類の遺言に変更してもよい。
③遺言は、その一部でも全部でも撤回できる。
④前の遺言で定めた内容について、同一の対象を後の遺言で異なった定めをした場合、その部分に関しては前の遺言は撤回されたことになる。
※たとえば、前の遺言書に「不動産Aを長男に相続させる」とあったものが、後の遺言書では「不動産Aを次男に相続させる」となっている場合、長男への相続の遺言は撤回されたことになります。
⑤遺言者の死後に相続する予定だったものを生前処分(売却や贈与など)した場合、遺言は撤回したものとみなされる。
⑥遺言者が故意に、遺言書の全部または一部を破棄した場合、その部分の遺言は撤回したものとみなされる。
※たとえば、遺言書を焼き捨てたり、判別できないほど黒く塗りつぶした場合などが当てはまります。
⑦遺言者が故意に、遺贈の目的対象物を破棄した場合、その部分についての遺言は撤回されたとみなされる。
※たとえば、父親が家にわざと火をつけたり、土地に劇薬を撒いたり…人は誰しも間違いがあったり、後から変更したいことが出てくるものです。
サクサクっと消しゴムで消して書き直せばOK! ならば簡単でいいのですが、遺言書はそうはいきません。
法律をしっかり守って変更してください。間違っても「消せるボールペン」で書いてはいけませんよ。
この機会に正しい遺言書の訂正・変更の仕方を覚えて、万が一の事態に備えておくのも大切なことだと思います。