脱法ハーブ | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 危険ドラッグで自動車運転しただけで現行犯逮捕です

    2014年08月09日

    危険ドラッグに絡む交通事故の急増で、警視庁に動きがあったので解説します。

    「危険ドラッグ、事故なくても逮捕へ 警視庁、道交法積極適用を通知」(2014年8月5日 産経新聞)

    警視庁は5日、危険ドラッグ(脱法ドラッグ)の吸引者による交通事故が相次いでいることを受け、使用が疑われる運転が発覚した場合、道交法違反(過労運転等の禁止)容疑で現行犯逮捕する運用を始め、各警察署などに通知しました。

    以下に挙げるような条件を満たせば、同法が禁じる「薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態での運転」の疑いがあるとみなすということです。

    〇運転手の意識が混濁するなど異常な状態
    〇正常でない運転をしたことが明白
    〇車内に危険ドラッグや吸引具がある

    人身・物損事故を起こした場合、これまでは薬物と事故との因果関係を立証するために数ヵ月も鑑定結果を待たなければいけなかったのですが、今後は事故だけでなく、検問などで事前に危険ドラッグの使用が疑われれば、同法違反容疑を適用し、現行犯で逮捕するとしています。

    愛知県警では7月下旬から、物損事故を起こした運転者に危険ドラッグの使用が疑われる場合、同法違反容疑で現行犯逮捕する運用を始めているようですが、今回さらに一歩踏み込んだ方針といえるでしょう。

    薬物の影響で正常な運転ができない状態で事故を起こした場合は、「危険運転致死傷罪」の適用が問題となりますが、この罪は構成要件が厳格なため、それほど多く適用されるわけではありません。

    また、事故を起こして始めて適用されるため、薬物使用での運転の抑制という観点で言えば、まだ十分に機能しているとは言えません。

    そこで、薬物使用での運転には、事故を起こす前でも摘発してしまおう、というのが今回の運用です。

    薬物使用での運転の抑制の観点からは、評価できる運用だと思います。
    では早速、「道路交通法」を見てみましょう。

    「道路交通法」
    第66条(過労運転等の禁止)
    何人も、前条第1項に規定する場合のほか、過労、病気、薬物の影響その他の理由により、正常な運転ができないおそれがある状態で車両等を運転してはならない。
    これに違反すると、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金です。
    ちなみに、前条第1項とは、酒気を帯びての運転です。
    別の報道によると、2013年上半期に危険ドラッグに絡んで摘発された人数66人に対して、2014年上半期では、すでに145人が摘発。

    また、2014年上半期に摘発した危険ドラッグ使用者による交通事故33件のうち、26件で検出された薬物は、薬事法の指定薬物ではなかったことが判明。

    2013年でも、1年間で摘発した38件のうち28件は未指定で、7割以上で規制対象外の薬物が使われていたようです。

    覚醒剤や大麻は、試薬を使えば短時間で鑑定できるのですが、危険ドラッグは、違法かどうかの鑑定に数ヵ月もかかっていたわけですから、こうした迅速な判断は、危険運転による死傷事故の抑止には一定の効果があると思われます。

    どのような成分が入っていて、人体にどう作用するかわからない危険ドラッグを吸うことも、それで自動車を運転することも、ご法度だということを肝に銘じてほしいと思います。

  • 脱法ハーブで危険運転致死傷罪か!?

    2014年06月25日

    6月24日の夜、池袋の路上で脱法ハーブを吸った男が自動車を運転し、8人が死傷するという事故を起こしたようです。

    「“全く記憶がない”池袋脱法ハーブ事故、逮捕の男 危険運転致死傷適用検討」(2014年6月25日 産経新聞)

    24日午後8時前、池袋駅近くの路上で自動車が歩道に突っ込み、歩行者を次々にはねながら約40メートルにわたって走行。20代の女性が死亡、男女3人が重傷、4人が軽傷を負いました。

    運転していた埼玉県の飲食店経営の男(37)は調べに対し、「池袋で脱法ハーブを買い、運転前に車の中で吸った。途中からまったく記憶がない」と供述。

    目撃者によると、男は事故後、酒に酔ったような状態で運転席からなかなか出ようとせず、よだれを垂らして口の周りには泡があふれた状態だったということです。

    警視庁交通捜査課は当初、男を自動車運転処罰法違反の「過失運転致傷」の容疑で現行犯逮捕。

    その後、死亡者が出たことから「過失運転致死傷」容疑に切り替えて調査していましたが、薬物の影響で正常な運転ができない状態だったとみて、さらに罰則の重い「危険運転致死傷」容疑の適用を検討しているようです。

    自動車運転処罰法違反で危険運転致死傷罪となると、死亡の場合、最長で懲役20年です。

    ところで、「過失運転致死傷」と「危険運転致死傷」の違いは何でしょうか?

    大きく、2つのポイントがあります。

    〇アルコールや薬物(脱法ハーブも含む)などの影響により、正常に運転ができない状態だった。
    〇過失ではなく、故意に危険運転をした。

    今回の事故で容疑者の男は、「脱法ハーブを吸った」「人をはねたのは間違いない」「脱法ハーブを車の中に置いてある」「過去にも吸ったことがある」「途中からまったく記憶がない」などと供述していることから、危険運転致死傷罪が成立する可能性は高いでしょう。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の
    詳しい解説はこちら⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    近年、脱法ハーブによる事件が多発しています。
    また、こうした薬物の吸引が原因とみられる交通事故も増加しています。

    「後絶たぬ脱法薬物交通事故 昨年の摘発は前年比2倍超」(2014年6月25日 産経新聞)

    報道によりますと、平成25年の脱法ハーブを含む薬物の吸引が原因とみられる事故は前年比で2倍以上に増加。

    今年4月施行の「改正薬事法」では、販売だけでなく所持にも罰則が科せられ厳罰化が進められていますが、乱用に歯止めがかからないとしています。

    今後、脱法ハーブにも、新たな法整備が必要とされる事態も考えられます。

    まずは脱法ハーブの危険性と違法性を十分に理解すること、そして安易な考えで車の運転をしないことの徹底が大切だと思います。

  • 脱法ハーブによる事故に危険運転致死傷罪・懲役11年

    2013年06月11日


    「最大懲役15年か、はたまた30年か!?」

    愛知県春日井市で2012年10月、脱法ハーブを吸った後に車を運転し、女子高校生をはねて死亡させたとして、危険運転致死罪と道交法違反(ひき逃げ)で起訴された男(31)に対する判決が、10日、名古屋地裁であった。

    名古屋地裁は、被告人に、懲役11年(求刑・懲役12年)を言い渡した。脱法ハーブで危険運転致死傷罪が判決で認められたのは初めてと思われる。

    弁護側は、「被告は吸引の影響による危険性を認識しておらず、危険運転の故意はなかった」と主張したとのことである。そうすると、成立する罪は、自動車運転過失致死罪となる。

    自動車運転過失致死罪になると、法定刑は、最大7年の懲役。これにひき逃げ(最大10年の懲役)が加わると、併合罪となり、最大15年の懲役となる。

    (併合罪の場合は、長い方の懲役、今回ではひき逃げの10年の懲役の1.5倍の15年が法定刑の長期の懲役となる)

    他方、危険運転致死傷罪の法定刑は、最大20年であるから、危険運転致死傷罪とひき逃げが成立すると、最大30年の懲役となる。

    したがって、この争いは、法定刑が最大15年か、30年か、の争いとなる。

    ただ、結果としては、求刑が12年で判決が11年なので、危険運転致死傷罪の適用が否定されたとしても、11年の懲役を科すことは理論的には可能であった。

    ところで、危険運転致死傷罪が成立するためには、「アルコールまたは薬物の影響で正常な運転が困難」な状態で自動車を運転することが必要である。

    「正常な運転が困難な状態」とは、道路や交通の状況に応じた運転操作を行うことが困難な状態のことである。

    具体的には、脱法ハーブ吸引の影響により、目が回った状態であったり、運動能力が低下してハンドルやブレーキがうまく操作できなかったり、判断能力が低下して距離感がつかめなかったりして、正常に運転できない状態のことを言う。

    今回は、脱法ハーブを吸引することにより、上記のような状態になることを「認識」して運転したかどうかが争われた。

    弁護側はこの点を争ったが、判決では、被告人が、事故前にインターネットで吸引の後遺症について検索し、友人からも「脳みそがクラクラする」と聞いていたことなどから「正常運転が難しいことを認識していた」と指摘して、危険運転致死傷罪の適用を認めた、ということだ。

    車は大変便利であるが、一歩間違えると、高スピードで動く凶器である。

    運転している人は、そのようなことをあまり考えないが、事故のニュースを見た時は、今一度自分に当てはめて慎重に運転することを心がけて欲しい。