職務質問 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 職務質問にどう対応するか?

    2014年03月16日

     

    人間の心理は、外面や行動に現れるものです。

    街で警察官の姿を見ると、何も悪いことはしていないのに、不自然に意識したり緊張する、という人がいます。

    誰にでも心に何かしら、やましい部分があったりするので、たとえ罪を犯していなくても、どこか挙動不審になったりするのかもしれません。

    ところで、警察官の仕事のひとつに「職務質問」があります。

    不審な点がある人を呼び止め、質問したり、所持品をチェックしたりするものですが、職務質問に関連した報道が昨年末にあったので、法的に検証してみましょう。

    「刑法犯件数、11年連続減少へ 121万件、詐欺は増加」(朝日新聞デジタル)

    報道によると、警察庁が発表した2013年1~11月の刑法犯の認知件数は、2012年同期より5.1%少ない121万4004件で、年間件数は11年連続で減少しているとのことです。

    窃盗は90万6095件で、5.8%減。住宅などへの侵入盗や車上あらし、自販機あらしの減少が大きく、一方、詐欺は3万4795件で、9.9%増。振り込め詐欺は8285件で49.6%の大幅増となっています。

    また、容疑者を摘発した割合を示す検挙率は全体で30.4%。2012年同期比で1.7%減少しています。

    警察庁は検挙率低下の要因として、地域警察官の職務質問による事件の摘発の減少などを挙げているとのことです。

    この報道からだけでは、検挙率低下の原因が、職務質問の実施件数自体が減ったからなのか、それとも職務質問する警察官の質が低下したからなのかわかりませんが、とにかく警察庁としては、警察官の職務質問のブラッシュアップを望んでいる、ということなのでしょう。

    確かに、薬物事犯などでは、挙動不審な人に職務質問し、所持品検査をしてみたら、薬物が出てきた、というのは、よく聞くところです。

    職務質問が犯罪の減少に結びついていくのであれば、国民としては当然、大歓迎です。

    しかし、何も悪いことをしていないのに、街で警察官に職務質問され、腹立たしい経験をした人もいるでしょう。

    犯罪を見抜く目や感覚が低下しているならば、検挙率が下がるだけでなく、私たち国民が不当な職務質問を受ける可能性が高まるからです。

    では、私たちが自分の身を守るためにも、職務質問を拒否することはできるのでしょうか?

    そもそも、なぜ警察官は職務質問をするのでしょうか?

    法的根拠を見てみましょう。

    「警察官職務執行法」第2条
    1.警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者を停止させて質問することができる。

    この法律の規定に基づいて、警察官は職務質問をしている、ということです。

    この条文に、誰に職務質問ができるか、が書かれています。

    以下の2つのどちらかに該当する人に対して職務質問ができます。

    ・異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者

    ・既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知っていると認められる者

    これは、素人が見てもわかりそうな怪しい人ですね。

    まず、「異常な挙動そのほか周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯したか、犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」です。

    「うへへ~♪」と言いながら、道路をフラフラ歩いていて、如何にも覚せい剤を使用していたり、留守宅を物色しているように見える場合だったり、包丁を持っていたりしている人、などは、該当しそうですが、普通の格好で普通に歩いていたら、とても犯罪を犯すと疑うに足りる相当な理由があるとは思えないので、職務質問できないはずです。

    また、職務質問では、よく車のトランクを開けさせられたり、バッグの中を見せるように言われたりします。

    しかし、条文には所持品の検査に関する規定は明示されていません。

    なので、たとえばカバンを開けて中身を見せるように言われても、拒否することはできます。が……これを拒むのは、なかなか難しいでしょう。

    警察官は、任意でカバンの中身を自らの意思で見せるように促しますが、見せなければ、職務質問は延々と続く可能性があるからです。

    次のような質問が来ます。

    「何か見せられないような違法なモノが入っているのですか?」

    「入っていません」

    「では、見せてください」

    「嫌です」

    「やましいモノが入ってなければ見せられるはずですね。見せてください・・・・」

    こんなやり取りが続くでしょう。

    反論方法はあるのですが、ここでは割愛します。

    過去の判例では、「米子銀行強盗事件」というものがあります。

    1971年7月、鳥取県米子市で、銀行強盗で盗んだ札束を入れていたバッグを持つ男に対して、職務質問したところこれを黙秘。バッグ開けて中身を見せることも拒否したため、警察官が承諾を得ずに開けると大量の紙幣が見つかり逮捕に至った事件で、最高裁は、「所持品の検査については明文で規定していないが、職務質問に付随して行うことができる場合があると解するのが相当であり、捜査に至らない程度の行為は、強制にわたらない限り許容される場合がある」「銀行強盗という重大な犯罪が発生し犯人の検挙が緊急の警察責務とされていた状況の下において必要上されたものであって、またバッグの施錠されていないチャックを開披し内部を一べつしたにすぎないものであるから、警職法2条1項の職務質問に附随する行為として許容される」として、所持品検査は違憲、違法はないと判断した。(最高裁判決 昭和53年6月20日 刑集32巻4号670頁)

    微妙で難しい判断ですね。

    これを現場で判断するのは至難の技です。

    ところで、もしあなたが職務質問をされた場合、警察官も職務を遂行するために職務質問をしているわけですから、素直に従い、疑いを晴らすことをおすすめします。

    しかし、前記の要件が全くないにもかかわらず警察官が不当に職務質問をしてきたときは、次のように対応しましょう。

    ①「これは、職務質問ですか?」と聞く。
    ②「違う」と言えば、「では、法的根拠がないので、これで失礼します」と言って立ち去る。
    ③「職務質問だ」と言えば、「私のどこが警職法上の異常な挙動でしょうか?あるいは犯罪を犯したと疑うに足りる相当な理由がどこにありますか?もし、それがないのに職務質問したとしたら、違法な職務質問ですよ」と冷静に対応する。ここで暴れたりわめいたりすると、「犯罪を犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由」ができてしまう可能性があります。

    警察官は、この後不用意に踏み込んできにくくなるでしょう。

    しかし、この対応は、決して目出し帽やストッキングを頭からかぶっている時にはしないようにしてくださいね。

    では、最後になぞかけです。

    職務質問とかけまして、

    屋根に降った雨水と解きます。

    そのココロは・・・・

    どちらも「とい」(問い、樋)が必要です。

  • ひき逃げが殺人罪に!?

    2013年12月26日


    自動車運転に関する事故で、ひとつのケーススタディともいえる事件が発生したので、解説しておきたいと思います。

    「職務質問した警察官をひき逃げ 容疑の男逮捕」(埼玉新聞)

    埼玉県川口市で、職務質問した警察官が車にひかれて重傷を負った事件で、川口署は12月17日、無職の男(31)を公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕しました。

    報道によると、川口市の住宅街のT字路付近で「車が中央寄りに止まっている」との通報があり、署員2名が現場に直行。

    男性巡査(30)が運転手の男に職務質問したところ、男は突然、車を急発進。転倒した巡査の脚をひき、そのまま逃走していたようです。

    男は「ひき殺そうとはしていない」として容疑を否認しているということです。

    まず、この事件の逮捕容疑について確認しましょう。

    公務執行妨害と殺人未遂です。

    「刑法」第95条(公務執行妨害)
    ①公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    巡査の職務質問という公務に対して、男は車を発進させて、巡査の脚をひくという「暴行」を加えて「妨害」したので、これは公務執行妨害になります。

    ちなみに、職務質問を受けて、答えるのを拒否したり、ただ逃げただけでは公務執行妨害にはなりません。

    なぜなら、公務執行妨害罪の要件である「暴行または脅迫」がないためです。

    次に殺人未遂について考えてみましょう。

    「刑法」第199条(殺人罪)
    人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する。

    今回は、ひかれた巡査は死んでないので、未遂罪です。

    車でひき殺そうとしたが、未遂に終わった容疑ということです。

    ところで、ここでひとつ疑問が出てきます。

    自動車運転によって人を死傷させた場合の刑罰には、「自動車運転過失致死傷罪」(刑法211条2項)と「危険運転致死傷罪」(刑法第208条の2)がありますが、今回はなぜこれらの容疑ではなかったのでしょうか?

    報道内容からだけでは詳細はわかりませんが、おそらく「未必の故意」が疑われたのではないかと思われます。

    刑法上の重要な問題のひとつに「故意」と「過失」があります。

    「故意」とは、結果の発生を認識していながら、これを容認して行為をすることで、刑法においては「罪を犯す意思」のことをいいます。

    一方「過失」は、結果が予測できたにもかかわらず、その予測できた結果を回避する注意や義務を怠ったことです。
    では、どのような場合に故意が認められ、または過失が認められるのか?
    その境界線のように存在するのが「未必の故意」です。

    ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでもかまわないと考え、あえてその行為を行う心理状態を「未必の故意」といいます。

    容疑者の男は、100%巡査を殺そうとして車を発進させたのか、たんなる不注意だったのか。

    それとも、死ぬ確率は100%ではないが0%でもなく、死ぬかもしれないが「それでもかまわない」と思ってアクセルを踏んだのか、ということです。

    殺人罪の未必の故意があれば、殺人罪となります。

    ただ、このようなケースで「死んでも構わない」とまで思っているケースはそれほど多くありません。

    そうすると、殺人罪の故意がない、ということになりそうです。

    では、何罪が成立するのでしょうか?

    「死んでも構わない」とは思っていなかったとしても、今回のケース、「怪我をするかもしれないが、それでも構わない」くらいには思っていたかもしれません。

    そうすると、「怪我をさせる故意あるいは未必の故意」があったことになりますので、傷害罪になりそうです。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    ちなみに以前、ある知人で「未必の故意」を「密室の恋」だと思っていた人がいました。

    危険なにおいがします……

    さらには、「未筆の恋」だと思っていた人もいました。

    ラブレターを書く前に終わった恋ということでしょうか……

    「過失の恋」になると、人違いのようになってしまいます・・・。

    それはともかく、素手の場合、殺人も傷害も大変なことですが、自動車の場合には、ちょっとアクセスを踏むだけで実現できてしまいます。

    便利な反面、いつでも凶器になりうる危険なものです。

    事故が予測できるにもかかわらずアクセルを踏むなど、言語道断。

    冷静な判断をもってハンドルを握ることを、いつでも肝に銘じておくことが大切です。