損害賠償 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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  • 幼稚園児の死亡事故で園長に有罪判決:業務上過失致死傷罪

    2016年05月31日

    幼稚園での事故により園児が死亡した事件で、園長に有罪判決が出たようです。

    今回は、学校事故と刑事事件について解説します。

    「元幼稚園長のみ有罪、愛媛 川遊び事故死判決、2人無罪」(2016年5月30日 共同通信)

    2012年、愛媛県西条市で宿泊保育中に川遊びをしていた私立幼稚園の園児らが流され、当時5歳の男の子が死亡、2人がケガをした事故について、業務上過失致死傷の罪に問われた当時の園長や教諭ら3人の判決がありました。

    松山地裁は、当時の園長(75歳)にのみ罰金50万円(求刑罰金100万円)の判決を言い渡し、共に起訴された教諭ら2人は無罪(いずれも求刑罰金50万円)としたとのことです。

    裁判長は判決理由の中で、「上流の天候を確認せず、遊泳場所の増水の危険性がないと判断したのは園長として安易な態度だった」と指摘したということです。

    では、条文を見てみましょう。

    「刑法」
    第211条(業務上過失致死傷等)
    1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

    今回は、宿泊保育中だということですので、園長は業務中という認定をされています。

    そして、園児に川遊びをさせる際には、川に流されてしまう可能性があるわけですから、自らあるいは教諭をして、常時看視し、監督しなければならないことになります。

    この注意義務を怠った場合には、業務上必要な注意を怠った、ということで、業務上過失致死傷罪が成立する可能性があります。

    教諭2人は無罪が言い渡されていますが、この理由は明らかにはなっていません。
    学校における子供の事故については以前にも解説しています。

    詳しい解説はこちら⇒
    「学校での柔道事故で8150万賠償命令【国家賠償法】」
    https://taniharamakoto.com/archives/2031

    「学校での人間ピラミッドや組み体操事故の法的責任は?」
    https://taniharamakoto.com/archives/2062

    学校(保育所)の管理下における子供の事故、災害では、被害者や親は学校に損害賠償請求することができます。

    この場合、公立校であれば国家賠償法、私立校ならば民法715条が適用されます。

    ちなみに、学校(保育所)の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中などが該当します。

    今回も、幼稚園、園長、教諭などに対しては、刑罰の他、民事の損害賠償請求ができる可能性があります。
    子供たちが傷つかず、安全に学校(保育所)生活が送れるよう、運営者を含めた関係者には今一度、注意義務の徹底を図ってほしいと思います。

    学校事故のご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • 東京税理士会日本橋支部にて講演

    2016年05月12日

    2015年5月11日に、東京税理士会日本橋支部で講演を行いました。

    タイトルは、「税理士賠償責任を回避するために(賠償責任裁判事例・顧問契約書の締結方法等)」です。

    税理士が仕事でミスをすると、修正申告による延滞税や加算税等で損害が明確になるので損害賠償請求を受けやすい特質があります。

    損害賠償リスクに十分備えておく必要があるでしょう。

    関連記事
    税理士が関与先からの損害賠償請求を防ぐ方法(その1)
    税理士が関与先からの損害賠償請求を防ぐ方法(その2)

  • 認知症の高齢者の監督義務に関する最高裁判決

    2016年03月02日

    愛知県大府市で、2007年12月に起きた、徘徊症状がある認知症の男性(91)がJR東海の電車にはねられ死亡する事故が発生した件に関し、同社が男性の親族に対して損害賠償訴訟を提起しておりました。

    第一審判決は、JR側の請求通り720万円の支払を命じ、第二審の名古屋高裁は、男性の妻に対して、359万円の支払を命じました。

    この件に関する最高裁判決が2016年3月1日に出されました。

    結論としては、JR側の請求を認めず、親族の賠償責任を否定しました。

    争点は、男性の妻や長男らが、民法714条の「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」と言えるどうか、という点です。

    ここで、民法714条を見てみましょう。

    「民法」第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)

    1.前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。

    つまり、男性は、認知症で判断能力ではないので、賠償責任については「責任無能力者」となります。

    その場合には、責任無能力者を監督する法定の義務を負う者が、責任無能力者に代わって賠償責任を負う、ということです。

    「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」というのは、子どもの親権者(民法820条)、親権代行者(民法833条・867条)、後見人(民法857条・858条)、児童福祉施設の長(児童福祉法47条)等です。

    たとえば、小学一年生の子どもが自転車を運転中、歩行者をひいて死なせてしまった場合などに、親の責任を問えるか、というような問題で、この条文が使われます。

    さて、第一審、第二審では、親族の賠償責任を認めたわけですが、最高裁は、これを否定しました。

    その理由としては、同居の妻や長男というだけでは、「法定の」監督義務者とは言えない。つまり、法律に書いていない、ということです。

    ただし、「法定の監督義務者」ではない人でも、賠償義務を負担する場合がある。それは、次の場合である。

    (1)衡平の見地から、「法定の監督義務者」と同視して賠償義務を負担させることが相当である場合

    (2)では、それは、どのような場合かというと、第三者に対する加害行為の防止に向けた監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情がある場合である

    (3)では、どのような場合に特段の事情があるかというと、第三者の加害行為の防止に向けて、その者が「現実に監督を行っている」、か、あるいはそのように監督することが可能かつ容易であるなど、それが単なる「事実上の監督」を超えているような場合である

    (4)では、それは、どのように判断するかというと、以下の要素を検討します。

    ・監督している人の生活状況や心身に状況

    ・精神障害者との親族関係の有無・濃淡

    ・同居の有無その他の日常的な接触の程度

    ・精神障害者の財産管理への関与の状況などその者と精神障害者との関わりの実情

    ・精神障害者の心身の状況や日常生活における問題行動の有無・内容

    ・これらに対応して行われている監護や介護の実態
    この観点からすると、同居しているだけの場合や介護を行っている、というだけでは賠償責任は否定されることになります。

    たとえば、過去に徘徊して他人に迷惑をかけたことから、そのようなことがないよう責任を持って監督するため、同居して日常介護し、徘徊できないように常時監視したり、施錠をしたりしている親族が、その監督を怠ったような場合に責任が認められることになるのではないか、と思います。

    先の第一審判決、高裁判決のニュースに接した高齢者を介護する人達は、戦々恐々としたかもしれませんが、ひとまずは安心ということになります。

    今後、高齢化社会がますます進行することから、介護に対する萎縮効果が生じないようにしたい、という政治的配慮が働いているのかもしれません。

    なお、この最高裁判決は、5人の最高裁判事により出されたものですが、3人の最高裁判事による補足意見が出されています。

  • 学校での人間ピラミッドや組み体操事故の法的責任は?

    2015年10月02日

    秋たけなわ。
    全国各地の学校では運動会や体育祭が行われているでしょう。

    そんな中、大阪の中学校の体育祭で、生徒が重軽傷を負うという事故が起きたようです。

    学校での子供の重傷事故は、一体、誰の責任になるのでしょうか?
    法的に解説します。

    「体育祭“10段ピラミッド”崩れ6人重軽傷」(2015年10月1日日テレNEWS24)

    大阪府八尾市の市立中学校で行われた体育祭で、組体操のピラミッドが崩れ、生徒6人が重軽傷を負いました。

    事故が起きたのは9月27日。
    1年生から3年生の男子生徒157人が参加した10段のピラミッドが崩れ、下から6段目の右端にいた1年生の男子生徒が右腕を骨折する重傷、5人が打撲するなどの軽傷とのことです。

    生徒の1人の証言では、練習でも1度も成功したことがなかったようで、八尾市教育委員会は今後検証を行い、対策を検討するとしています。
    「人間ピラミッド」は体育祭の大トリとして、成功すれば観客も生徒たちも大いに盛り上がるものです。
    しかし、2012(平成24)年には全国の小・中学校で合わせて約6500件の組体操での事故が起きており、2013(平成25)年にはさらに増えて約8500件もの事故が起きているとことから、近年、その危険性が指摘され、問題となっていました。

    ちなみに、10段の場合、高さは約7メートル、一番下にいる子供1人の背中には約200キロの重さがのしかかるそうですから、相当に危険な競技だと言わざるを得ないでしょう。

    ところで、学校で起こった子供の重傷事故は誰の責任になるのかというと、それは当然、学校の責任となります。

    以前にも解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒ 「学校での柔道事故で8150万賠償命令【国家賠償法】」
    https://taniharamakoto.com/archives/2031

    学校(保育所)の管理下における子供の事故、災害では、通常の場合、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    「学校(保育所)の管理下」とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中などです。

    しかし、この災害共済給付金だけでは損害賠償金額をすべて賄えないことが多いため、さらに被害者や親は学校に損害賠償請求することができます。

    その場合、公立校であれば国家賠償法、私立校ならば民法715条が適用されます。

    「国家賠償法」
    第1条
    1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
    「民法」
    第715条(使用者等の責任)
    1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    法律上、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、「代理監督者責任の義務」があります。
    そのため、教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになるのです。

    過去にあった組体操による事故の訴訟では、ほとんどの場合で教員の責任が認められ学校側が敗訴しています。
    「教員と学校は危険性に十分留意すべき」で、「事故を防ぐための適切な措置を講じる義務に違反した」と判断されるわけです。

    十段もの人間ピラミッドをやれば、ピラミッドが崩れ、下にいる生徒の身体に危険が及ぶのは当然予想できます。

    したがって、ピラミッドに参加させる生徒各自の体力、精神力、体調などを正確に把握し、その配置にも細心の注意を払う必要があります。

    さらには、途中で事故が起こっても対処できるよう適切に教員を配置しておく必要もあります。

    今回は、それらの義務を怠ったといえるでしょうから、学校の損害賠償責任が認められるのではないでしょうか。

    ちなみに、1993(平成5)年、福岡地裁では学校の設置者に対して1億円超の損害賠償支払いの命令が出されています。
    ある高校の授業で、8段の人間ピラミッドの練習中にピラミッドが崩れ、一番下にいた生徒が脊髄損傷などの障害を負った事故でした。

    人間ピラミッドの中学校の最高記録は10段だそうですが、これだけ危険性が指摘され、実際に事故も起きているのですから、教育委員会や学校、教員、保護者は考えを変えて早急に対応するべきでしょう。

    なお今回、事故が起きた八尾市の隣の大阪市では、9月1日に事故防止のため、ピラミッドの段数は5段まで、タワーの段数は3段までに制限することなどを正式に発表していました。
    また、愛知県長久手市では3月、人間ピラミッドの段数を4段までに制限したようです。

    スポーツの秋。
    今年も全国で、組み体操を体育祭の種目として予定している学校があるでしょう。

    しかし、事故が起きて痛く苦しい思いをするのは教員ではなく、子供たちであること、そして、生命の危険を冒してまで高さを競う必要はないということを、大人には今一度考えてほしいと思います。

    学校事故の相談は、こちらから。

    http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • 学校での柔道事故で8150万賠償命令【国家賠償法】

    2015年10月01日

    オリンピックの競技にもなっている柔道は日本で生まれた武道であることは、みなさんもご存知でしょう。

    歴史を紐解けば、そもそもは12世紀以降に武士たちの合戦で用いられた武芸の中から江戸時代に「柔術」として発展。
    時は下り、明治期に学習院の講師だった嘉納治五郎が各技を整理、体系化して「柔道」と名付け、1882(明治15)年に講道館を創設。
    その後、競技としての柔道が普及していったようです。

    学校教育に導入されたのは、1950(昭和25)年からで、現在では全国の中学校で必修、高校の多くでも必修科目となっており、部活動も盛んに行われています。
    しかし、柔道による生徒の事故が後を絶たないという問題も指摘されています。

    今回は、子供を持つ親が心配な学校での事故に関する損害賠償問題について解説します。

    「柔道練習で後遺症、学校側に8150万賠償命令」(2015年8月20日 読売新聞)

    2009年、広島県尾道市の私立尾道高校で、柔道部の練習中に頭を打ち、高次脳機能障害などの重い後遺症が残ったとして当時1年の男性(21)と両親が同校を運営する尾道学園に計約1億4400万円の損害賠償を求めた訴訟の判決がありました。

    裁判官は、「事故を防ぐための適切な措置を講じる義務に違反した」として、同学園に計約8150万円の支払いを命じたようです。

    判決によると、男性は2009年4月に入部。
    翌年5月の練習中に乱取りをしていて、頭を畳に強打。
    急性硬膜下血腫などで、記憶障害や言語障害などの高次脳機能障害や視野狭窄が残ったということです。
    【学校での子供の死傷事故では給付金が支払われる】
    学校(保育所)の管理下における子供の事故、災害では、通常の場合、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    ここで重要なのは、「学校(保育所)の管理下」ということです。
    授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中は、学校の管理下になります。

    しかし、この災害共済給付金だけでは損害賠償金額をすべて賄えないことが多いものです。
    その場合、被害者や親は誰に請求すればいいのでしょうか?
    【学校には代理監督者責任と使用者責任がある】
    被害者や親は、学校に損害賠償請求することができます。

    なぜなら、法律的には、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、「代理監督者責任の義務」があるからです。

    また、教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

    その場合、公立校であれば国家賠償法、私立校ならば民法715条が適用されます。

    「国家賠償法」
    第1条
    1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
    「民法」
    第715条(使用者等の責任)
    1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    なお、損害賠償請求に関しては第709条が適用されます。

    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
    【柔道では脳への重度の障害が残る事故が多いという事実】
    日本スポーツ振興センターにおける災害共済給付のデータによると、平成10~21年度の集計では、中学・高校での体育の授業、および運動部活動における死亡・重度の障害事故の発生件数は以下のようになっています。

    「中学・高校での体育の授業における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・陸上競技/87人
    ・水泳/24人
    ・バスケットボール/17人
    ・サッカー/16人
    ・器械体操等/10人
    ・柔道/9人
    ・バレーボール/8人
    「中学・高校での運動部活動における死亡・重度の障害事故の発生件数」
    ・柔道/50人
    ・野球/35人
    ・バスケットボール/33人
    ・ラグビー/31人
    ・サッカー/26人
    ・陸上競技/19人
    ・バレーボール/14人
    ・テニス/14人
    柔道の体育の授業での安全管理については一定の成果が出ているようですが、部活動での死傷事故の件数はもっとも多くなっています。

    特に柔道の場合、受け身が上手くできなかったことによる頭部や頸部へのケガが多く、一生涯介護を要するような重度の後遺症を負うこともあります。

    交通事故の被害者の場合でもそうですが、頭部の場合、外傷はなくても激しく揺さぶられることで内部の脳自体への損傷や出血が起きることがあります。
    そうした場合、重篤な障害が残るというケースが多いのです。

    もちろん、柔道を悪者にするわけではありませんが、やはり武術ですから相応の危険性があるのは当然でしょう。
    今後、国には、学校でのスポーツによる子供の事故例の分析、原因の究明、予防対策等をしっかりお願いしたいと思います。

    また、運動会や体育祭の組み体操でピラミッドが崩れ、生徒が重軽傷を負う事故も起こっています。
    学校側は十分な注意が必要です。

    関連記事 http://news.yahoo.co.jp/pickup/6176079

    なお、あってはならないことですが、万が一の事故の場合の損害賠償請求では専門的な知識が必要となりますので、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    ご相談はこちらから⇒http://www.bengoshi-sos.com/school/

  • 兵庫県条例で自転車保険の加入が義務化!

    2015年03月23日

    交通事故において、加害者と被害者双方の「その後」に大きく関わってくるもののひとつに「保険」があります。

    じつは、保険の歴史は古く、古代ローマ時代にまでさかのぼるといわれています。

    日本では、明治維新の頃に欧米の保険制度を導入して、現在の保険の仕組みができたようです。
    かの福澤諭吉が、著書の中で「生涯請合」(生命保険)や「火災請合」(火災保険)、「海上請合」(海上保険)の仕組みを紹介しているそうです。

    ところで先日、ある県が条例で、ある保険への県民の加入の義務化を決定したようです。

    全国初の試みです。

    「自転車にも賠償保険義務づけ、全国初の条例化」(2015年3月18日 読売新聞)

    兵庫県議会で18日、自転車の利用者に対し、歩行者らを死傷させた場合に備える損害賠償保険への加入を義務づける全国初の条例が可決・成立しました。

    自転車が加害者となる事故が増加傾向にあるため、利用者の意識向上と被害者救済を目的にしているとのことです。

    施行は2015年4月1日で、周知期間を設けるため義務化は10月1日から。
    なお、県交通安全協会では4月1日から、年間1000~3000円の保険料で5000万~1億円が補償される保険への加入を受け付けるということです。
    このブログでも以前から、自転車事故に関して解説をしてきました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「自転車での死亡事故が多発中!損害賠償金は一体いくら?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1648

    ⇒「子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1217

    今回の兵庫県の条例成立には、2013年のある裁判の判決がきっかけのひとつになっていると思われます。

    2008年9月、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた60代の女性に正面衝突。
    女性は頭を強打し、意識不明のまま寝たきりの状態が続いていることから、家族が損害賠償を求めて提訴。
    2013年、神戸地裁は少年の母親(当時40歳)に約9500万円の支払いを命じました。

    判決では、少年の前方不注視が事故の原因と認定。
    さらに、子供がヘルメットをかぶっていなかったことなどからも、「指導や注意が功を奏しておらず、親は監督義務を果たしていない」としました。

    損害賠償金の内訳は以下の通りです。
    ・将来の介護費用:3940万円
    ・事故で得ることができなくなった逸失利益:2190万円
    ・ケガの後遺症に対する慰謝料:2800万円
    ・その他、治療費など。

    この報道を知って、多くの人が驚かれたと思います。
    同時に、さまざまな意見や思いを持つ人がいたでしょう。

    「子供が起こした自転車の事故で9500万円とは高すぎないか?」
    「被害者は意識不明の状態が続いているのだから高額賠償金は当然だ」
    「なぜ親が支払わなければいけないのか?」
    「うちはとても、そんな金額は払えない。自己破産だ」
    「怖くなったので自転車の保険に加入しようと思う」

    実は、9500万円という金額は、法律家の立場からすると、けっして高額ではない、ということは言えます。

    車に轢かれようと、自転車に轢かれようと、生涯にわたって治らない後遺症が残った場合には、その補償をしてもらうのが当然です。金額に差異はありません。

    事故が起きたことは不幸なことですが、この事故と裁判は示唆に富み、我々に多くの教訓を与えてくれました。

    ・ヘルメットをかぶらせるなど、親には子供の「監督責任」があること。
    ・坂道を高速で下るなど、交通規則に反する行為が重大な事故を引き起こす可能性があること。
    ・自転車でも、ケガを負わせたり死亡させたりすれば高額な損害賠償金を支払わなければいけないこと。
    ・保険に加入していなければ、万が一の事故のときに加害者側は自己破産する可能性があること。
    ・加害者が自己破産してしまえば、被害者は補償を得られず金銭面でも救われないこと。
    ところで、今回の兵庫県の条例では、次のことが定められたようです。
    ・通勤・通学やレジャー、観光など、県内で自転車を運転するすべての人を対象とする。
    ・未成年者の場合は保護者に加入を義務化。
    ・営業など従業員が仕事で使用する場合は企業に加入を義務化。
    ・自転車の販売業には客に販売する際に保険加入の確認を義務化し、未加入の場合は加入を促進させる。
    ・レンタルサイクル業も販売業と同様。

    ただし、無保険を取り締まるのは困難なことから、①自動車のような登録制度はない、②違反者への刑罰は設けない、としています。

    実際、違反者への刑罰がないことからも、どの程度の効果があるのかは今後の状況を見守っていく必要があるでしょう。

    しかし、被害者救済は重要なことですし、自転車利用者1人ひとりの意識も変わっていくだろうと思います。

    自転車が歩行者を負傷させた事故は、2014年には全国で2551件あり、2001年の1・4倍に増えたという統計データもあります。

    また、自転車保険の加入については、京都府や愛媛県など4都府県が条例で努力義務を定めています。

    私としては、自転車にも自賠責保険を「法律で」義務づけて欲しいと思っています。

    自転車事故は他人事ではありません。

    各保険会社などが提供する自転車保険は以前よりも増え、補償内容も充実してきています。
    また、火災保険や自動車保険、傷害保険の特約で自転車保険をつけられる場合もあります。

    備えあれば患いなし。
    ご自身のためにも、また子供のためにも、これからは自転車保険の検討をする必要があるでしょう。

    万が一の自転車事故のご相談はこちらから
    ⇒「弁護士による交通事故SOS」
    http://samuraiz.net/

     

  • 犬を散歩させただけで、6300万円の賠償金を払う?

    2015年02月12日

    2014年2月下旬、北海道白老町の海岸で散歩中の女性が2匹の土佐犬に襲われ溺死した事件がありました。

    以前、この事件について解説しています。
    詳しい解説はこちら⇒「愛犬を散歩させたら、懲役2年6月!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1590

    被告の男(65)が、飼育する2頭の土佐犬を連れて海岸に散歩に出かけた。
    周囲を十分に確認せずに1頭の引き綱を放したところ、犬が浜辺を散歩中の主婦(当時59歳)を襲った。
    女性は、波打ち際で転倒して水死。
    男は重過失致死罪などに問われ、懲役2年6月、罰金20万円の判決を言い渡された…というものでした。

    今回、その後の民事裁判で多額の損害賠償金の支払い命令が出されたという報道がありましたので解説します。

    「犬に襲われ溺死、飼い主に6300万円賠償命令」(2015年2月6日 読売新聞)

    報道によりますと、被害者女性の夫ら遺族4人が受刑者の男を相手取り、損害賠償を求めた訴訟の判決が札幌地裁室蘭支部でありました。

    判決で裁判官は、「土佐犬が危害を加えないよう未然に防止する注意義務を怠り、死亡させた過失は重大」と認定。
    請求通り慰謝料など6300万円の支払いを命じたようです。

    被告側は訴訟で答弁書を提出せず、また遺族である夫の男性は、「刑事裁判後も私たちの心が安まるときはなかった。(判決を)妻の一周忌までには報告したかった」と話したということです。
    過去のブログでも判例を解説しましたが、犬に襲われた女性が転倒して脳挫傷で死亡した事件では、飼い主に5433万円の賠償命令が出されています。
    また、バイクを走行中の男が前方から近づいてきた中型犬を避けようとして転倒し脚を骨折した事件では、飼い主に約1500万円の損害賠償金の支払いが命じられています。

    詳しい解説はこちら⇒
    「犬も歩けば賠償金を払う」
    https://taniharamakoto.com/archives/1343

    「愛犬が隣人をかんで、損害賠償金が1,725万円!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1181
    飼い犬が起こした事件の責任は、飼い主が負うことになります。
    民事では高額な賠償金の支払いを命じられ、刑事では実刑判決を言い渡されて犯罪者になってしまう可能性があるのです。

    そして、飼い主の人に十分注意してもらいたいのは、これらの判例からもわかるように、飼い犬が起こした事件では人をかんだときだけ犯罪となり、賠償請求されるわけではないということです。

    6300万円もの賠償金を支払える人は、どれだけいるでしょう?
    もし支払えなかったら、被害者と遺族はどうやって補償してもらえばいいのでしょうか?
    愛犬が起こした事件で、犯罪者になりたい人はいるでしょうか?

    こうした致死傷罪の事件では、結局いつも、誰もが幸せにならないという後味の悪さが残ります。

    飼い主の男は、愛犬のためによかれと思ってしたであろうことの結果、1人の命がなくなるという重大な事件になってしまいました。
    被害者と遺族の無念は、とても癒されるものではないでしょう。

    すべての愛犬家やペット愛好家は、今一度、飼い犬やペット管理の徹底をすること、そして法律を学ぶことを希望します

    こうした事件、事故で2度と悲劇が繰り返されないように…。

    飢えた犬を拾って手厚く世話してやると、噛み付いてきたりはしない。それが犬と人間の主たる違いだ。 (マーク・トゥエイン)

  • 不倫で訴えられたら?

    2014年12月22日

    ★不倫の損害賠償を請求されたら?

    世の中、不倫の話をよく聞きます。

    不倫をする人は、相手の配偶者から損害賠償請求をされることをご存じなのでしょうか?

    相手の配偶者から内証証明郵便が来た段階で、ご相談にいらっしゃいます。

    言い分は色々あるでしょうが、訴えられた人の戦い方にはパターンがあります。

    不倫による損害賠償請求は、不法行為に基づく損害賠償請求です。

    要件は、

    ・故意または過失があること
    ・相手に損害があること
    ・違法性があること
    ・行為と損害との間に因果関係があること

    などです。

    そこで、この要件を切り崩してゆけるかどうか、検討することになります。

    【故意または過失がないこと】

    これは、

    「結婚しているとはしらなかった」
    「婚姻関係が完全に破綻していると聞いていた」

    などと言うものです。不倫していた人が騙されたような場合ですね。

    そう信じたことに過失がない場合で、主観面を重視しますが、客観的に立証しなければなりません。
    【相手に損害がないこと】

    これは、不倫相手の夫婦間の婚姻関係が破綻しているため、相手に精神的損害がない、と主張するものです。

    客観面を重視します。

    大きくは、上記2つで対応することになります。

    証拠が命です。

    上記戦略が取れないときは、なんとか和解で解決するよう交渉することになります。

    逆に、不倫をされた配偶者の方が損害賠償する時も、上記2つの主張をされないよう、証拠を固めておく必要があります。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • これは、酷い!パワハラ自殺で5790万円

    2014年12月03日

    パワー・ハラスメント(パワハラ)による損害賠償訴訟の判決のニュースが頻発していているので、解説しておきたいと思います。

    労働者にとっては精神的損害が、使用者側の企業にとっては経済的損失が大きい事例が増えています。

    「“バカ”“使えねえな”店長は自殺…ブラック企業、驚愕パワハラ実態」(2014年11月28日 産経新聞)

    東京都渋谷区のステーキチェーン「ステーキのくいしんぼ」の店長だった男性(当時24歳)が自殺した原因は、過酷な長時間労働とパワー・ハラスメントにあるとして、ステーキ店を経営する(株)サン・チャレンジに対して両親が損害賠償を求めた裁判で、東京地裁は11月、同社側に約5790万円の賠償を命じました。

    判決などによると、男性は同社に勤務していた父親に誘われ平成19年5月にアルバイトとして採用され、間もなく正社員に。
    その後、父親は同社の方針に疑問を感じ退社。
    ところが男性は、「もう少し頑張ってみる」と会社に残ったといいます。

    しかし、平成22年11月に遺書を残し、店舗の入るビルの非常階段で首をつって自殺。
    渋谷労働基準監督署は、平成24年に自殺を労災認定していたということです。

    判決では、驚愕のパワハラの実態が明らかにされました。

    〇パワハラをしていたのは複数の店舗指導するエリアマネージャーの男性で自殺した男性の上司だった。
    〇ミスをするたびに「バカ」「使えねえな」と叱責し、尻や頬、頭などを殴る。
    〇社長や幹部が出席する「朝礼」でさらし者にする。
    〇シャツにライターで火をつける
    〇自殺直前の7ヵ月の残業時間は、1日あたり12時間を超え、月平均190時間超、最大で230時間、月の総労働時間は平均560時間。
    〇7ヵ月間に与えられた休日は2日間のみで、残業代もボーナスも支払われなかった。
    〇たまの休日にも電話で使い走りを命じたり、仕事後に無理やりカラオケや釣りにつきあわせた。
    〇職場恋愛の交際相手が発覚すると、「別れたほうがいい」と干渉。上司に隠れて交際を続けると「嘘をついた」と叱責。

    裁判で上司は、「日頃から親しくしており、指導やじゃれ合いを超えた行為はなかった」と主張。
    しかし、東京地裁の判決では、「暴行や暴言、プライベートに対する干渉、業務とは関係ない命令など、社会通念上相当と認められる限度を超えるパワハラを恒常的に行っていた」、「自殺の理由はパワハラや長時間労働以外にはない」と一蹴。

    また、「自殺した本人に過失はなかった」として過失相殺による賠償額の減額を認めなかったことで、原告側代理人は「自殺をめぐる訴訟で過失相殺を認めないのは異例」としています。
    以前、パワハラについて解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒「職場のいじめは、法律問題です。」

    職場のいじめは、法律問題です。

    厚生労働省の公表では、パワハラの定義とは以下のようになります。

    「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう」
    また、パワハラの分類として以下のものが挙げられています。

    ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
    ②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
    ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    ⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

    ①~③は、業務の適正な範囲内であることは考えにくいので、原則としてパワハラに該当すると考えられますが、④~⑥については業種や企業文化などによっても差異があるため、業務上の適正な指導との線引きが難しく具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分があると考えられます。

    今回は、民事裁判でしたが、さらに、パワハラは刑事事件として罪に問われる可能性もあります。

    肉体的暴力によってケガをさせれば「傷害罪」(刑法第204条)、仮に言葉の暴力で「電車に飛び込んで死ね!」などと言って相手を自殺させた場合には「自殺教唆罪」(刑法第202条)に問われるかもしれません。

    いずれにせよ経営者側には、職場でのパワハラに対する認識をそろえ、その範囲を明確にする取り組みを行うことが望まれます。

    そのうえで、以下のようなパワハラ防止策を講じる必要があります。
    ・「トップによる、パワハラを職場からなくすべきである旨のメッセージ」
    ・「就業規則・労使協定・ガイドライン等によるルールの作成」
    ・「従業員アンケート等による実態の把握」
    ・「研修などの教育」
    ・「組織の方針や取組についての周知・啓発」
    ・「相談窓口等の設置」
    ・「再発防止措置等」
    パワハラは「職場のいじめ」では済まされない問題です。
    社内でパワハラ行為があれば、社員側も経営者側も不幸な結果が待っています。

    双方が互いに認め合い仕事をすることができれば、幸福な結果が待っているでしょう。
    会社は業績が上がり、社員は誇りとやる気を持って仕事に打ち込めるはずです。

    「人が本当に下劣になると、他人の悪口を言うことしか喜びをみいだせなくなる」(ゲーテ)

    もし、社内でパワハラの事実があるようであれば、不都合な事実から目をそらさず、隠ぺいなどせず、問題が大きくなる前に弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    ご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

  • 凄まじい言葉の暴力=モラハラへの法的措置とは?

    2014年11月28日

    性的な嫌がらせは、セクシャル・ハラスメント(セクハラ)、職場の権力を利用した上司などからの嫌がらせやいじめは、パワー・ハラスメント(パワハラ)と呼ばれます。

    現在、「ハラスメント」と定義されるものにはセクハラ、パワハラの他にも、モラル・ハラスメント、アカデミック・ハラスメント、ドクター・ハラスメント、マタニティ・ハラスメントなど20種類以上もあるといわれています。

    その中の「モラハラ」に関する損害賠償請求訴訟の判決に関する報道が先日あったので、法律的に解説したいと思います。

    「“死に損ないのブタ”“盗っ人”…凄まじき職場のモラハラの実態」(2014年11月24日 産経新聞)

    大阪市内の衣料関係会社に勤務する50代の女性が、職場で2年間にわたり、「ほんまに臭いわ!何食べて毎日くさいねん」、「死に損ないのブタ」などの暴言や暴力を受けたとして、60代の同僚女性に損害賠償を求めた訴訟の判決が11月に大阪地裁でありました。

    原告の女性は、被告の女性の口添えで平成19年に会社に入社。
    2人は別の会社でも一緒に勤務したことがあったようで、誕生日を祝い合う仲だったといいます。

    しかし、その後、急激に関係が悪化。
    原告女性は、被告女性から凄まじい罵詈雑言を浴びせられ、椅子を蹴り飛ばされたり、出勤台帳で背中を叩く、ボールペンを持って頭を叩くなどの暴力を受け、防戦すると被告女性自らが警察呼び、病院の診断を受けるなどした挙句、代理人弁護士を通じ、原告に慰謝料150万円を要求してきたということです。

    そこで、原告女性はICレコーダーで録音したり、机の下にビデオカメラを設置するなどして証拠を確保。
    平成25年初頭に、約220万円の損害賠償を求める訴えを大阪地裁に起こすと、被告女性もほぼ同額の損害賠償を求める反訴に打って出たようです。

    大阪地裁は、原告側のICレコーダーやビデオカメラによる録音・録画のほか、「原告が押し倒されたり、殴られるのを見た」とする同僚男性の証言を重視。
    判決で被告女性に165万円の支払いを命じ、被告女性の反訴については全面的に退けたということです。
    以前、パワハラについて解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒「職場のいじめは、法律問題です。」
    https://taniharamakoto.com/archives/1303

    近年、セクハラ、パワハラについては社会問題化し、報道されることも増えたので多くの人が知っていると思いますが、モラハラにつては馴染みが薄いかもしれません。

    実際、厚生労働省や法務省などのサイトやパンフレットにはパワハラについて扱ってはいても、モラハラの表記はほとんどないのが実情でしょう。

    というのも、モラハラの大半は職場や家庭内での言葉による嫌がらせ、いじめのため表面化しにくく、企業もあまり問題視してこなかったという背景があるように思います。
    そのため、身体的暴力に関しては「DV防止法」など、これまで法整備が進められてきましたが、精神的暴力に関しては法整備が遅れているといえます。

    モラハラの特徴としては、以下のようなものが挙げられるようです。
    ・最初はやさしいが豹変する
    ・通常、肉体的暴力は使わず言葉で人を侮辱、冒涜する
    ・相手の同情を誘ったり、自分を正当化する
    ・平気で嘘をついたり、言うことがコロコロ変わる
    ・職場や家庭内でのみ嫌がらせをする

    時として、モラハラは肉体的な暴力以上に人を傷つけるものです。

    今回の報道にもあるように、モラハラ被害にあっているという認識がある人は、「民法」で定める「不法行為」によって被った被害に対して損害賠償請求の訴訟を起こすことができるというのは覚えておいた方がいいでしょう。

    ところで、モラハラの特徴である言葉の暴力について、犯罪に問うことはできるでしょうか?

    じつは、「刑法」の「侮辱罪」が適用される可能性があります。

    「刑法」
    231条(侮辱)
    事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
    法律上、「公然」とは、不特定または多数の人が知ることのできる状態にあることをいいます。

    また、通説では事実を摘示しなくても成立するのが「侮辱罪」で、事実の摘示がある場合は「名誉棄損罪」が成立するとされています。

    侮辱罪について過去の判例では、2006年、山梨県大月市のスナックで20代の女性客に対して「デブ」と数回言った市議会議員の男が、「29日間の拘留」を言い渡されています。

    他の客のいる店舗や不特定または多数人のいる場所で相手を侮辱すると犯罪になる可能性があります。

    相手を見下して貶める、はずかしめるような言動をする人は、それによって自分の自尊心を満足させているのでしょう。

    しかし、同じ自尊心を満足させるなら、褒められて嬉しくなり、自尊心が満足した方がよいのではないでしょうか。

    そのためには、むしろ他人を褒めた方が良いはずです。

    褒められた人は、逆に褒め返してくれます。

    そうやって双方が良い気分になれば、世の中から侮辱罪がなくなるかもしれませんね。

    「自分の名誉を傷つけられるのは、自分だけだ」
    (アンドリュー・カーネギー/アメリカの実業家)