ペット | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 犬を散歩させただけで、6300万円の賠償金を払う?

    2015年02月12日

    2014年2月下旬、北海道白老町の海岸で散歩中の女性が2匹の土佐犬に襲われ溺死した事件がありました。

    以前、この事件について解説しています。
    詳しい解説はこちら⇒「愛犬を散歩させたら、懲役2年6月!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1590

    被告の男(65)が、飼育する2頭の土佐犬を連れて海岸に散歩に出かけた。
    周囲を十分に確認せずに1頭の引き綱を放したところ、犬が浜辺を散歩中の主婦(当時59歳)を襲った。
    女性は、波打ち際で転倒して水死。
    男は重過失致死罪などに問われ、懲役2年6月、罰金20万円の判決を言い渡された…というものでした。

    今回、その後の民事裁判で多額の損害賠償金の支払い命令が出されたという報道がありましたので解説します。

    「犬に襲われ溺死、飼い主に6300万円賠償命令」(2015年2月6日 読売新聞)

    報道によりますと、被害者女性の夫ら遺族4人が受刑者の男を相手取り、損害賠償を求めた訴訟の判決が札幌地裁室蘭支部でありました。

    判決で裁判官は、「土佐犬が危害を加えないよう未然に防止する注意義務を怠り、死亡させた過失は重大」と認定。
    請求通り慰謝料など6300万円の支払いを命じたようです。

    被告側は訴訟で答弁書を提出せず、また遺族である夫の男性は、「刑事裁判後も私たちの心が安まるときはなかった。(判決を)妻の一周忌までには報告したかった」と話したということです。
    過去のブログでも判例を解説しましたが、犬に襲われた女性が転倒して脳挫傷で死亡した事件では、飼い主に5433万円の賠償命令が出されています。
    また、バイクを走行中の男が前方から近づいてきた中型犬を避けようとして転倒し脚を骨折した事件では、飼い主に約1500万円の損害賠償金の支払いが命じられています。

    詳しい解説はこちら⇒
    「犬も歩けば賠償金を払う」
    https://taniharamakoto.com/archives/1343

    「愛犬が隣人をかんで、損害賠償金が1,725万円!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1181
    飼い犬が起こした事件の責任は、飼い主が負うことになります。
    民事では高額な賠償金の支払いを命じられ、刑事では実刑判決を言い渡されて犯罪者になってしまう可能性があるのです。

    そして、飼い主の人に十分注意してもらいたいのは、これらの判例からもわかるように、飼い犬が起こした事件では人をかんだときだけ犯罪となり、賠償請求されるわけではないということです。

    6300万円もの賠償金を支払える人は、どれだけいるでしょう?
    もし支払えなかったら、被害者と遺族はどうやって補償してもらえばいいのでしょうか?
    愛犬が起こした事件で、犯罪者になりたい人はいるでしょうか?

    こうした致死傷罪の事件では、結局いつも、誰もが幸せにならないという後味の悪さが残ります。

    飼い主の男は、愛犬のためによかれと思ってしたであろうことの結果、1人の命がなくなるという重大な事件になってしまいました。
    被害者と遺族の無念は、とても癒されるものではないでしょう。

    すべての愛犬家やペット愛好家は、今一度、飼い犬やペット管理の徹底をすること、そして法律を学ぶことを希望します

    こうした事件、事故で2度と悲劇が繰り返されないように…。

    飢えた犬を拾って手厚く世話してやると、噛み付いてきたりはしない。それが犬と人間の主たる違いだ。 (マーク・トゥエイン)

  • ペットを捨てても拾っても犯罪になる!?では、どうすれば!?

    2014年05月21日

    jiji43

    夏目麻衣さん(仮名 26歳)は子どもの頃から動物好きで、中でも猫が大好きでした。

    夏目さんの住むマンションではペットを飼うことは禁止されていましたが、猫好きの彼女は、拾ってきた2匹の子猫を内緒で飼っていたのです。

    ところが、ある日、管理人に見つかってしまい、管理組合からペットを飼わないよう要求されました。

    動物愛護センターに届けてしまえば、この子たちは殺処分になってしまうかもしれない……でも、もういっしょにいることはできない……

    悩んだ末、夏目さんは近所の空き地に段ボール箱を置き、その中に2匹の子猫を入れて立ち去りました。

    「ごめんね…許してね…」
    彼女の頬を涙がつたいました。

    数日後、夏目さんの部屋のチャイムが鳴りました。
    「警察ですが」
    突然、彼女の部屋に警察が踏み込んできたのです……

    「捨て猫“逃がして”で書類送検…行政担当者困惑」(2014年5月20日 読売新聞)
    愛知県動物保護管理センター知多支所の男性支所長(53)が、県警東海署の男性職員(59)に対し、同署に届けられた捨て猫を逃がすようそそのかしたとして、動物愛護管理法違反(遺棄)の教唆容疑で名古屋地検に書類送検されていたことがわかりました。

    報道によりますと、事件が起きたのは2013年10月頃。
    愛知県大府市で段ボール箱に入れられ、捨てられているメスの子猫を獣医師が発見。東海署会計課に届けました。

    男性職員が知多支所長に保護を依頼したところ、支所長は「病気やケガがなく、自力で生きていけるような場合は引き取れない」と拒否。「逃がしてください」と、猫を遺棄するようそそのかしたということです。

    そこで男性職員は、近くの畑に子猫を遺棄。支所長と同じく動物愛護管理法違反(遺棄)容疑で書類送検されたとのことです。

    猫を捨てただけで書類送検!? と思う人も多いでしょうが、じつは動物愛護に関する法律があるのです。早速、条文をみてみましょう。

    「動物の愛護及び管理に関する法律」第44条
    1.愛護動物をみだりに殺し、又は傷つけた者は、二年以下の懲役又は二百万円以下の罰金に処する。

    3.愛護動物を遺棄した者は、百万円以下の罰金に処する。

    「愛護動物」は、以下のように規定されています。
    ①牛、馬、豚、めん羊、山羊、犬、猫、いえうさぎ、鶏、いえばと及びあひる
    ②人が占有している動物で哺乳類、鳥類又は爬虫類に属するもの

    金魚など魚類は、愛護動物に含まれないんですね。

    ちなみに、動物愛護管理法の第36条(負傷動物等の発見者の通報措置)では、道路や公園などの公共の場所で病気やケガをした犬や猫、または死体を発見した者は、すみやかに通報しなければならない、とあります。

    発見者には、通報義務(努力義務)があるわけです。これは覚えておいてください。

    ところで、冒頭の夏目さんのケースですが、彼女は初め子猫2匹を拾ってきました。
    じつは、ここにも犯罪の危険性があるのです。

    法律上、ペットは「物」なので、捨て犬や捨て猫を拾ってくると刑法の「遺失物等横領罪」になるかもしれません。

    他人の物を横領した人は、1年以下の懲役、又は10万円以下の罰金、若しくは科料に処される可能性があります。

    とにかく、拾ったものは何でも自分の家に持って帰らずに、届けるようにしたほうがいいですね。

    さて、その後の報道によると今回のようなケースでは、各自治体の対応がバラバラで統一されていないという問題が露呈してきたようです。

    愛知県の大村知事のコメント
    「今回の行為は遺棄にあたるとは考えていない。職員に違法性はない」

    岐阜県生活衛生課の担当者のコメント
    「保護すれば、殺処分される可能性もある。飼い主がいるかもしれない猫をむやみに引き取るわけにはいかない」

    三重県食品安全課の担当者のコメント
    「法律で捨て犬や捨て猫の引き取り義務が明記されている以上、原則として引き取る」

    そのうえで三重県は、飼い主を探したり譲渡先を見つけたりすることに力を注いでいるということで、福岡県や神奈川県も基本的には引き取っていると説明しているようです。

    同じ行為をしても、書類送検になる場合とならない場合があるようでは行政の担当者も困ってしまうでしょう。

    また、札幌市では昨年、飼い猫をノラ猫と間違えて殺処分した例があるようです。

    管轄する環境省では、「遺棄にあたるかどうか、現実には判断が難しいケースもある。問題点があれば対処する必要を感じている」と説明しているようですが、これだけペットを飼う人が多く、また遺棄するケースが増えている現代では、法律の決まりを明確にする必要がありますね。

    少なくとも法律を執行する行政機関で見解がわかれるなど、ナンセンスと言えるでしょう。

    どこからが遺棄にあたり、どこまではあたらないのかの解釈について、環境省から通達発信することを望みます。

    いずれにしても、犬や猫を捨てるのは犯罪である、ということは憶えておきましょう。

  • 犬も歩けば賠償金を払う

    2014年03月09日


    犬と人間のつきあいは古く、今から1万5千年ほど前の旧石器時代にまで遡るといいます。

    東アジアから中央アジアあたりで、オオカミから分化したと推定される犬は、徐々に家畜化していき、世界中に広まっていったというのが定説のようです。

    このころ、日本列島でも人間と犬の関係が始まったようで、歴史は下り、縄文時代後期~晩期のものと考えられる、愛知県田原市の吉胡(よしご)貝塚では、乳児と子犬が一緒に埋葬されている骨が2007年に発掘されています。

    縄文時代後期~晩期といえば、紀元前1000年あたり。少なくとも、今から3000年以上前には縄文人たちが犬といっしょに暮していたようです。

    それほど長い人間と犬の関係ですが、最近、犬好きの人にはショックな事件や判決が多発しています。

    「高松:中型犬が登校中児童4人かみつき、1人重傷3人軽傷」(2014年3月7日 毎日新聞)
    2014年3月7日、香川県高松市の路上で、登校中の児童4人が次々と犬にかみつかれ、2年生の男児が両足と左腕などをかまれ重傷。現場から逃げ去った中型犬は首輪をしていた。

    「犬に襲われ死亡…飼い主に5433万円賠償命令」(2014年3月7日 読売新聞)
    2011年8月、山梨県北杜市で、犬に襲われて転倒し脳挫傷で女性(当時56歳)が死亡。遺族が犬の飼い主の男性(71)を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、甲府地裁は6日、飼い主に慰謝料など計約5433万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

    「愛犬かみ殺され、賠償訴訟 地裁足利支部」(2014年3月7日 下野新聞)
    栃木県足利市で2013年、近所の飼い犬に愛犬をかみ殺されたとして、飼い主の60代の母親と30代の娘が、かみついた飼い犬の30代女性に慰謝料など約540万円の損害賠償を求めていた裁判の第1回口頭弁論が、6日開かれた。訴状などによると、2012年6月、原告の親子が当時住んでいた足利市内でトイプードルを抱いていたところ、近くの庭で放し飼いにされていた中型犬のボーダーコリーが飛びかかり、母親は転倒して肋骨を折るなど約2カ月間のけがをした。翌年2月、犬の散歩から帰宅した母親にボーダーコリーが再び飛びつき、トイプードルをかみ殺したという。原告側は「家族同様の犬を失った精神的苦痛は大きい」として、親子2人の慰謝料380万円と治療費などを請求している。一方、被告側は請求の棄却を求める答弁書を提出、争う構えをみせている。

    以前、このブログでも、俳優の反町隆史さんと松嶋奈々子さん夫妻の愛犬が隣人をかんだ事件を取り上げましたが、
    https://taniharamakoto.com/archives/1181
    飼い犬の管理は、飼い主の責任です。

    飼い主が損害賠償責任を負います。

    飼い犬が起こした事故というと、「かまれた」ことを想像する人が多いと思いますが、必ずしも、かまれなくても損害賠償請求は可能です。

    今年1月、以下のような判決が出されています。

    2008年1月、男性が原付バイクで走行中、前方から中型犬が近づいてきたため、避けようとしが接触し転倒。左足を骨折した男性が飼い主の女性に対して治療費など損害賠償を求めた裁判で、福岡地裁は「女性は管理義務を怠った過失がある」として、約1500万円の支払いを命じた。
    (2014年1月17日 読売新聞)

    「うちの犬は噛まないから大丈夫」という飼い主の言い分は通用しないということですね。

    飼い犬が第三者に与えた損害は、飼い主が賠償しなければなりません。

    先の例のように、約5433万円もの賠償命令が出されたら、払える人がどれだけいるでしょうか?

    破産するしかありませんね。

    でも、破産したら、噛まれた人は、どうなるでしょう?

    ひどい怪我を負って治療費もかかり、後遺症も残って、お金を払ってもらえないとしたら?

    そんな事態は避けなければなりません。

    さらにこわいこともあります。

    さらに、前出の高松市の事件では、刑法上、飼い主は「重過失傷害罪」に問われる可能性があります。

    重過失とは、重大な過失のことで、「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

    重過失と認められた過去の判例としては、闘犬用の犬2頭を農作業中に放し飼いにしていたところ、犬が隣接する公園で幼女2名を襲い、うち1名を死亡させ、他の1名に傷害を負わせた事案があります。(那覇地沖縄支判平7・10・31判時1571-153)

    飼い主が、飼い犬の行為で刑罰を受ける可能性がある、ということです!

    「可愛い子には旅をさせよ」と言いますが、可愛い愛犬には、決して旅をさせてはいけません。

    「犬も歩けば賠償金を払う」のです。

    きちんと鎖でつなぎ、決して他人に危害を与えないようしっかり管理しておくことが、愛犬を、そして飼い主を守ることになる、ということを肝に銘じておきましょう。