損害賠償 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 2
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  • アイドルとつきあって800万円の損害賠償請求!?

    2014年09月15日

    NHKの「朝の連続テレビ小説」(朝ドラ)の影響で、最近、道ならぬ恋が話題になっているようですが、アイドルとファンが、内緒でつきあっていたことが発覚して、アイドルグループの運営会社が損害賠償請求をしているという報道がありました。

    一体、何がどうなったのでしょうか?

    「アイドルと交際、ファンに損害賠償」(2014年9月12日 日刊スポーツ)

    アイドルグループ「青山☆聖ハチャメチャハイスクール」の中心メンバーだった2人が、突然、グループを脱退。
    グループの運営会社はメンバー2人とその親権者、さらには交際相手であるファン2人に対して損害賠償請求をしているようです。

    先月、都内で開催されたファンイベントで運営会社のプロデューサーは、「重大な契約違反があった。2人はファンと交際していた」などと理由を説明し、相手の実名まで暴露。
    会社は、823万2400円の損害賠償を求める内容証明書を交際相手であるファン2人に送付したということです。

    プロデューサーは、「メンバー2人の親権者は“ファンと恋愛関係にならない”“ 職場放棄をしない” などの項目が書かれた契約書にサインしていた。他のメンバーやファン全員を裏切り、許されることではない」と発言。

    また、請求額については、「2人は契約が1年残っていた。稼ぐはずだったであろう収益と、処分することになったグッズ、慰謝料などを含めた金額」と説明。
    提訴も含めた今後の対応は検討中、としているようです。

    一方、ファン側も弁護士を雇う意思を見せている、ということです。

    今回は、アイドルとファンに請求は別に考えなければなりません。

    まず、契約であと1年間の活動期間があるにもかかわらず、正当な理由なくアイドルが脱退した、ということであれば、アイドルには損害賠償責任が発生する可能性があります。

    運営会社は、活動計画をたて、プロモーション活動に投資をし、アイドルがその後活動することによって投資を回収するものですから、正当な理由のない脱退は許されるものではありません。

    しかし、交際を理由として、運営会社側から契約解除したのであれば、法的に見ると、無理がある請求だと思います。

    まず、アイドルと運営会社の契約で交際禁止規定があるそうですが、交際は、本人の「精神的自由」と「行動の自由」、そして「婚姻の自由」に関わるものであり、「基本的人権にかかわる自由」です。

    よって、この契約は本人の自由意思が最大限尊重されるべき事項に制限を加えるものであって、当然に有効、というわけではなく、その有効性は限定的に解釈されることになります。(クラブ従業員とコンサルタントの関係につき、東京地裁平成22年10月15日判決)

    確かに、アイドルがファンと交際することで、人気が落ちることはあり得ることなので、ただちに禁止規定が無効とは言えないでしょう。

    しかし、人気が落ちるのは、ファンであっても、ファンでなくても同じですね。

    ファンと交際しても広く知られることとならなければ人気に影響することはなく、アイドルと運営会社との関係を破壊するほどの事由にはならず、契約解除までは認められないものと考えます。

    したがって、運営会社側が交際を理由に一方的に契約解除をしたのであれば、その契約解除は無効であり、損害賠償も認められないでしょう。

    次に、今回、ファンの2人にも損害賠償を求めていますが、ファンは運営会社と契約関係になく、「交際しない義務」を負っていませんから、アイドルを無理矢理脱退させた、などの悪質な事情がない限り、損害賠償は認められないと思われます。

    ファンの側としては、びっくりですね。

    また、交際相手であるファン2人も弁護士をつける意思があるようなので、実名を暴露したことが、交際相手の「プライバシーの侵害」として、逆に運営会社が損害賠償請求を受ける結果となる可能性もあります。

    アイドルやタレントは、私生活を切り売りすることがあるといっても、私人のプライバシーを暴くことに関しては、慎重な対応が求められるところです。

  • セクハラの代償・・・

    2014年08月11日

    先日、セクハラについて解説しました。

    詳しくはこちら⇒「会社の飲み会への強制参加はセクハラになる!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1586

    会社の強制参加の飲み会が苦痛だという、ある女性社員のお悩みについて、上司や先輩社員からの「まだ結婚しないの?」などの発言、肩を抱かれるなどの行為も含めて、強制参加が行われている場合は、飲み会の席は実質的に職場の延長と判断されるため、セクハラになるというものでした。

    ここでは、被害に遭った女性社員の立場からセクハラを解説したわけですが、今回は逆に、加害者と企業の法的責任について考えてみたいと思います。
    「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」(厚生労働省告示第615号)というものをご存じでしょうか?

    これは、「男女雇用機会均等法」第11条2項に基づいて厚生労働大臣が定めるもので、職場における男女双方に対するセクシュアルハラスメント対策として、事業主に措置を講ずることが義務づけられているものです。

    全部で9つの項目が定められているのですが、以下に抜粋します。

    〇事業主の方針を明確化し、管理・監督者を含む労働者に対してその方針を周知・啓発すること。

    〇相談、苦情に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること。

    〇相談があった場合、事実関係を迅速かつ正確に確認し、適正に対処すること。

    〇相談者や行為者等のプライバシーを保護し、相談したことや事実関係の確認に協力したこと等を理由として不利益な取扱いを行ってはならない旨を定め、労働者に周知・啓発すること。
    会社が、これらを怠ったり、相談・苦情に適切に対応しなかった場合、被害者が泣き寝入りせず、取り得る手段にはどのようなものがあるでしょうか?
    【労働基準監督署や労働局などに相談】
    各都道府県の労働基準監督署や労働局、労働委員会などにある窓口に相談すると、事業所への助言、行政指導、勧告、立ち入り調査などが行われます。

    これを受けて、事業主(会社)は行為者(加害者)に対して、減給・停職などの懲戒処分を行います。
    また、申立者(被害者)への慰謝料などの解決金の支払いや、再発防止策の徹底を行います。
    【民事訴訟】
    被害者は、加害者と会社に対して責任の追及と賠償請求をすることができます。

     

    過去のセクハラ裁判で有名なものに「北米トヨタ自動車セクハラ訴訟事件」というものがあります。

    これは、2006年、北米トヨタ自動車で社長アシスタントをしていた日本人女性(当時46歳)が、日本人社長からセクハラを受けたとして、同社と社長などを相手取って総額1億9,000万ドル(当時のレートで200億円以上)の損害賠償請求を起こした事件です。
    最終的には和解が成立し、女性は巨額の和解金を手にしたといいます。

    一体、いくら手にしたのでしょうか……。
    【刑事訴訟】
    被害者の訴えにより、セクハラは刑事事件になる場合もあります。
    現在、セクハラに直接抵触する法律はありませんが、加害者の刑事責任を追及する法律には次のようなものがあります。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
    ※怪我をさせた場合ですが、精神を衰弱させるような精神的傷害にも適用

    「刑法」第223条(強要)
    1.生命、身体、自由、名誉若しくは財産に対し害を加える旨を告知して脅迫し、又は暴行を用いて、人に義務のないことを行わせ、又は権利の行使を妨害した者は、3年以下の懲役に処する。

    「刑法」第230条(名誉棄損)
    1.公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    「刑法」第231条(侮辱)
    事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。

    その他、場合によっては、暴行罪や強制わいせつ罪、強姦罪が適用される可能性もあります。
    「これくらいは平気だろう」と勝手に考えて行った言動が、相手にとっては不快なセクハラ行為と受け取られれば、セクハラになってしまいます。

    その結果、民事、刑事で告訴されることもあるということです。

    北米トヨタのセクハラ事件ほど巨額の賠償請求は、日本においてはそうあるわけではないとしても、民事でも刑事でも訴訟に発展すれば、社会的な信用を失うことにもなってしまいます。
    失うものは大きいですね。

    職場での言動には十分注意して、お互いが気持よく働ける職場環境を、会社も従業員も目指していきたいものです。

  • 愛犬を散歩させたら、懲役2年6月!?

    2014年08月03日

    以前、愛犬が起こした事件について解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「愛犬が隣人をかんで、損害賠償金が1,725万円!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1181

    「犬も歩けば賠償金を払う」
    https://taniharamakoto.com/archives/1343

    家族同然の愛犬が人をかむなどして死傷させるようなことがあると、飼い主の責任になります。

    民事訴訟では、高額な損害賠償金を飼い主が支払わなければいけない可能性があります。

    また、飼い主が刑事事件として罪に問われる可能性もあります。

    ところで、今年2月、飼い犬が散歩中の主婦を襲い死亡させてしまったという事件がありましたが、その飼い主が、重過失致死傷罪という犯罪にとわれています。先日、その飼い主に対する刑事事件の判決が出されたという報道がありました。

    「土佐犬に襲われ死亡 飼い主に懲役2年6月判決」(2014年7月31日 毎日新聞)

    今年2月、北海道白老町で、近くに住む主婦(当時59歳)が土佐犬に襲われて死亡した事件で、札幌地裁苫小牧支部は、重過失致死罪などに問われた飼い主の男(65)に対し、懲役2年6月、罰金20万円(求刑・懲役4年、罰金20万円)の判決を言い渡しました。

    判決によると、被告の男は飼育する2頭の土佐犬を連れて海岸に散歩に出かけ、周囲を十分に確認せずに1頭の引き綱を放したところ、犬は浜辺を散歩中の主婦を襲って波打ち際に転倒させて水死させた、としています。

    裁判官は判決理由で、「犬が重大な危害を及ぼす恐れがあるのを知りながら綱を放した。被害者の恐怖や苦痛は察するに余りある」と指摘したということです。
    「重過失致死罪」とは、「過失致死罪」に重過失、つまり重大な過失により人を死亡させることで、「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)
    1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。

    つまり、この飼い主は2年6ヵ月の間、刑務所に入らなければならないということになります。

    飼い主は、愛犬を散歩に連れて行き、愛犬が走り回りたいだろうから、手綱を放したのでしょう。

    愛犬を思ってのことです。

    しかし、その愛犬が他人に危害を加えたことで、飼い主が懲役刑に問われてしまったのです。

    さらに、今後は民事で損害賠償の訴えも起きてくることが予想されます。

    過去の判例では、犬に襲われ転倒し、脳挫傷で女性が死亡した事件で、飼い主の男性に対し、慰謝料など約5,433万円の賠償命令が下されたものもあります。
    犬を飼っている人にとっては衝撃の結果かもしれません。

    しかし、被害者側は、どうでしょうか?

    今回の事件では、被害者の夫の方のコメントが報道されていました。
    「被告から謝罪されたとは思っていないし、懲役2年6月というのは短く、納得できない。重過失致死の罪はもっと重くしてほしい」

    そう。何の落ち度もない被害者が、突然犬に襲われて命を落としてしまったのです。

    遺族の悲しみ、苦しみは大きいでしょう。

    亡くなった人はもう帰って来ません。
    重傷を負ってしまったら、治療費がかかり、後遺症も残る可能性が高いでしょう。

    悲劇を繰り返さないためにも、犬の飼い主には生き物を飼うことの責任と、飼い犬が他人を傷つけてしまう可能性があることを、今一度自覚してほしいと思います。

     

  • 犬も歩けば賠償金を払う

    2014年03月09日


    犬と人間のつきあいは古く、今から1万5千年ほど前の旧石器時代にまで遡るといいます。

    東アジアから中央アジアあたりで、オオカミから分化したと推定される犬は、徐々に家畜化していき、世界中に広まっていったというのが定説のようです。

    このころ、日本列島でも人間と犬の関係が始まったようで、歴史は下り、縄文時代後期~晩期のものと考えられる、愛知県田原市の吉胡(よしご)貝塚では、乳児と子犬が一緒に埋葬されている骨が2007年に発掘されています。

    縄文時代後期~晩期といえば、紀元前1000年あたり。少なくとも、今から3000年以上前には縄文人たちが犬といっしょに暮していたようです。

    それほど長い人間と犬の関係ですが、最近、犬好きの人にはショックな事件や判決が多発しています。

    「高松:中型犬が登校中児童4人かみつき、1人重傷3人軽傷」(2014年3月7日 毎日新聞)
    2014年3月7日、香川県高松市の路上で、登校中の児童4人が次々と犬にかみつかれ、2年生の男児が両足と左腕などをかまれ重傷。現場から逃げ去った中型犬は首輪をしていた。

    「犬に襲われ死亡…飼い主に5433万円賠償命令」(2014年3月7日 読売新聞)
    2011年8月、山梨県北杜市で、犬に襲われて転倒し脳挫傷で女性(当時56歳)が死亡。遺族が犬の飼い主の男性(71)を相手取って損害賠償を求めた訴訟で、甲府地裁は6日、飼い主に慰謝料など計約5433万円の支払いを命じる判決を言い渡した。

    「愛犬かみ殺され、賠償訴訟 地裁足利支部」(2014年3月7日 下野新聞)
    栃木県足利市で2013年、近所の飼い犬に愛犬をかみ殺されたとして、飼い主の60代の母親と30代の娘が、かみついた飼い犬の30代女性に慰謝料など約540万円の損害賠償を求めていた裁判の第1回口頭弁論が、6日開かれた。訴状などによると、2012年6月、原告の親子が当時住んでいた足利市内でトイプードルを抱いていたところ、近くの庭で放し飼いにされていた中型犬のボーダーコリーが飛びかかり、母親は転倒して肋骨を折るなど約2カ月間のけがをした。翌年2月、犬の散歩から帰宅した母親にボーダーコリーが再び飛びつき、トイプードルをかみ殺したという。原告側は「家族同様の犬を失った精神的苦痛は大きい」として、親子2人の慰謝料380万円と治療費などを請求している。一方、被告側は請求の棄却を求める答弁書を提出、争う構えをみせている。

    以前、このブログでも、俳優の反町隆史さんと松嶋奈々子さん夫妻の愛犬が隣人をかんだ事件を取り上げましたが、
    https://taniharamakoto.com/archives/1181
    飼い犬の管理は、飼い主の責任です。

    飼い主が損害賠償責任を負います。

    飼い犬が起こした事故というと、「かまれた」ことを想像する人が多いと思いますが、必ずしも、かまれなくても損害賠償請求は可能です。

    今年1月、以下のような判決が出されています。

    2008年1月、男性が原付バイクで走行中、前方から中型犬が近づいてきたため、避けようとしが接触し転倒。左足を骨折した男性が飼い主の女性に対して治療費など損害賠償を求めた裁判で、福岡地裁は「女性は管理義務を怠った過失がある」として、約1500万円の支払いを命じた。
    (2014年1月17日 読売新聞)

    「うちの犬は噛まないから大丈夫」という飼い主の言い分は通用しないということですね。

    飼い犬が第三者に与えた損害は、飼い主が賠償しなければなりません。

    先の例のように、約5433万円もの賠償命令が出されたら、払える人がどれだけいるでしょうか?

    破産するしかありませんね。

    でも、破産したら、噛まれた人は、どうなるでしょう?

    ひどい怪我を負って治療費もかかり、後遺症も残って、お金を払ってもらえないとしたら?

    そんな事態は避けなければなりません。

    さらにこわいこともあります。

    さらに、前出の高松市の事件では、刑法上、飼い主は「重過失傷害罪」に問われる可能性があります。

    重過失とは、重大な過失のことで、「注意義務違反」の程度が著しいことをいいます。

    重過失と認められた過去の判例としては、闘犬用の犬2頭を農作業中に放し飼いにしていたところ、犬が隣接する公園で幼女2名を襲い、うち1名を死亡させ、他の1名に傷害を負わせた事案があります。(那覇地沖縄支判平7・10・31判時1571-153)

    飼い主が、飼い犬の行為で刑罰を受ける可能性がある、ということです!

    「可愛い子には旅をさせよ」と言いますが、可愛い愛犬には、決して旅をさせてはいけません。

    「犬も歩けば賠償金を払う」のです。

    きちんと鎖でつなぎ、決して他人に危害を与えないようしっかり管理しておくことが、愛犬を、そして飼い主を守ることになる、ということを肝に銘じておきましょう。

  • DVで5,000万円の損害賠償が認められた件

    2014年02月12日


    弁護士をしていると、日々さまざまな相談を受けます。

    中には離婚の相談もあるのですが、じつはその中で多いのがドメスティックバイオレンス(DV)の問題です。

    DVは、なかなか人には言えない問題でもあるため、表面化しないだけで実態は想像以上に多いのかもしれないという印象です。

    愛し合って結ばれたはずの2人なのに、暴力でしかつながれないのは悲しいことです。

    紀元前のローマの劇作家、テレンティウスが言ったそうです。

    「恋人同士のけんかは、恋の更新である」と。

    恋が更新されるのは良いことです。更新される度に2人の関係が深まっていきます。

    しかし、これは対等の立場でのけんかを前提にした言葉でしょう。

    2人の関係が対等でない場合は、どうなるでしょうか?

    体力で言えば、女性より男性の方が圧倒的に強いのが通常です。男性が暴力に訴えたら、女性は太刀打ちできません。

    もはや恋の「更新」はありません。

    「恋人への暴力は、恋の契約解除である。そして、損害賠償である」

    となるでしょう。

    そんなDV事件の判決が北海道で出されました。

    「自殺未遂、DVが原因 交際相手に5千万賠償命令、札幌地裁」(2014年2月6日 北海道新聞)
    札幌市の女性(26)が、交際相手の男性(26)からのDVを苦に自殺を図り、重度の障害を負ったとして、5千万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が、5日に札幌地裁でありました。

    裁判長は、「女性は暴力を受け思い詰めていた。自殺は予見可能だった」と指摘して、請求通り全額の支払いを命じたもようです。

    報道によると、2人の交際は2008年5月ごろからスタート。

    しかし、間もなく男性が女性を怒鳴ったり、殴ったりするなどの暴力をふるうようになったようです。

    そして2009年1月、女性は自宅マンション14階の非常階段から飛び降り、意識不明の重体となり、現在も意思疎通が困難な状態が続いているということです。

    男性側は暴行を否定しているようですが、裁判長は女性の友人の証言から「七ヵ月間にわたる暴行で思い詰め、当日も殴られて自殺を図った」と認定。

    また、女性は男性に「いつか自分で自分の命を終わらせてしまいそうで怖い」というメールを送っていたということで、「男性は自殺を予見できた」と結論づけたようです。

    男性は、2011年7月と2008年8月に女性に対して全治1週間のケガを負わせたとして札幌簡裁から罰金20万円の略式命令を受けているそうです。

    DVは、家庭内の問題というだけではなく、一線を超えれば「暴行罪」や「傷害罪」になります。今回の場合、刑法上は「傷害罪」です。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    犬も食わぬ、という痴話喧嘩で済んでいればいいのですが、暴力によって、あまりに相手を精神的、肉体的に追い詰めすぎると、このような不幸なことになってしまいます。

    ちなみに、DVに関する法律には全30条からなる「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律」(通称「DV防止法」)があります。

    DVの被害者は女性が多いことから、この法律の前文では「男女平等」「被害者の保護」「女性に対する暴力の根絶」などに触れています。

    たとえ、歪んだ愛の形の果てがDVだとしても、暴力は絶対に許されることではありません。

    「法は家庭に入らず」という法諺があります

    家庭内で窃盗などを行っても、法律では取り締まりをしない(刑が免除される)、ということです。

    しかし、暴力は別です。法がずかずかと家庭に入ってきて取り締まります。

    特に男性諸氏は肝に銘じておきましょう。

    口喧嘩で頑張るのです。

    どうしても口喧嘩で勝てない時は、次の本を読んでみるとよいでしょう。

    「弁護士の論理的な会話術」(あさ出版)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/4860633997/

    もし、口喧嘩が嫌だ、ということであれば、上手に交渉してみましょう。
    次の本が参考になるでしょう。

    「弁護士が教える気弱なあなたの交渉術」(日本実業出版社)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/453404433X/

    それでもダメな場合は、自分の心をコントロールするしかありません。
    そんな時は、この本があなたを導いてくれるでしょう。

    「やっかいな相手がいなくなる上手なモノの言い方」(角川書店)谷原誠著
    http://www.amazon.co.jp/dp/404110565X/

  • いじめアンケート問題の判決で学校や行政の隠蔽体質に痛烈な一撃

    2014年01月25日

    2011年10月、滋賀県大津市でいじめを受けた男子生徒(当時13歳)が自殺をした問題はマスメディアで大きく取り上げられ、社会に大きな波紋を投げかけました。

    事件後、学校は自殺の原因究明のために全校生徒を対象にした「いじめアンケート」を行ったようです。

    その際、中学校側からアンケートの内容を口外しないとの確約書を取られ精神的苦痛を受けたとして、男子生徒の父親(48)が市に対して100万円の損害賠償を求めていた訴訟の判決が先日、大津地裁でありました。

    報道によると、判決が出たのは1月14日。

    裁判長は、「原因調査のためアンケートを利用しようとした親の心情は理解できる。一切の利用を禁止した確約書は違法で、また、個人名以外まで不開示とした処置も不適切」として、父親の訴えを認め、市に対して30万円の支払いを命じました。

    父親は、生徒が自殺した約2週間後、学校から全校アンケート結果を受け取る際、「個人情報が含まれ、部外秘にする」との確約書の提出を求められ、さらには、情報公開請求をして開示された資料も大半が黒塗りされ、活用できなかったとしています。

    市は「適切な情報開示ができなかった結果、遺族の心情を損なった」として遺族に謝罪しているということで、市長は「遺族にあらためておわびしたい」と述べ、控訴しないことを表明したようです。

    生徒の父親は、「いじめに関するアンケートの開示を後押しする画期的な判決」、「自殺原因の調査を阻む確約書は違法だという司法判断は、(遺族の)『知る権利』確立にとって大きな第一歩」と述べ、判決の意義を強調。

    また、「全国の自治体や教育委員会はプライバシーを理由に非公開の範囲を拡大し、いじめの調査を阻んできた」、「司法判断を重く受け止め、今後はいじめアンケートの積極的な開示を進めてもらいたい」とも語ったようです。

    真偽は確認できておりませんが、この大津市の事件後、複数の同級生が行った、さまざまな事実が報道されました。

    〇体育館で男子生徒の手足を縛り、口を粘着テープで塞いで虐待を行った。
    〇男子生徒の自宅から貴金属や財布を盗んだ。
    〇自殺後も男子生徒の顔写真に穴を開けたり、落書きをしていた、など。

    また、学校と教育委員会の隠蔽体質が問題視されました。

    〇クラスの担任は、自殺した生徒から相談を受けたり、暴力によるいじめの報告を受けていたにも関わらず、適切な対応を取らなかった。
    〇担任は、自殺後の保護者説明会に出席せず、遺族への謝罪もないまま直後に休職してしまった。
    〇学校と教育委員会は、いじめには気づかなかった、知らなかったと主張し続け、ケンカだと認識していたと説明。当初、自殺の原因はいじめではなく家庭環境が問題と説明していた、など。

    これまでも、子供が子供に対して行った暴力行為は、大人たちが「いじめ」や「ケンカ」で済まそうとしてきました。

    しかし、これが大人の場合であればどうでしょうか?

    いじめられた子が怪我をした場合、被害者が訴え出れば「傷害罪」になります。

    逮捕され前科がつくかもしれないし、民事で争われれば損害賠償請求の対象になります。これは当然、犯罪です。

    それを、「いじめ」の一言で済ましてしまった瞬間、犯罪ではないかのような気がしてきます。

    教育の問題であり、学校内で解決すべき問題のように思えてきます。

    隠蔽し、見て見ぬふりをして済ましてしまおうとしてきたのです。

    確かに、あまりに直接的な言葉や表現を控えることは、被害者の精神的苦痛に配慮するという面もあるでしょう。

    しかし、罪状をぼやかし、婉曲表現することで加害者や親に犯罪という自覚がなくなってしまう恐れがあるのも事実でしょう。

    また、マスメディアのこうした報道を読む者、聴く者も、犯罪という印象がなくなってしまう恐れがあります。

    司法、教育、報道など立場は違っても、それぞれの分野で今後検討していくべき大きな問題を、この事件は突きつけているのではないでしょうか。

    報道によると、判決の1週間後の1月22日、大津市は「いじめ防止対策推進法」(2013年9月施行)に基づく、いじめ防止基本方針の素案をまとめたようです。

    市関係者によると、素案には、男子生徒が自殺した際、遺族への学校や市教委の説明が不十分だった反省から、「学校からの情報提供」を義務付けたということです。

    素案には、
    1.児童や生徒の課題を記し、進級時に教諭が引き継ぐ「子どもカルテ」を導入する、
    2.インターネット上のいじめに対応するため、市に有識者会議を設けて対策を検討する、
    3.各学校がネットの専門家を招き、スマートフォンの無料通話アプリの危険性を子どもに指導する、
    などが盛り込まれたといいます。

    今回の判決を機に、学校や自治体による「いじめ」問題に対する取り組み、そして、教育現場の情報開示がどのように進んでいくのか。

    また、被害者や加害者や関係者、さらには多くの一般市民の犯罪への自覚がどう変わっていくのか、今後の動きを注意深く見守っていきたいと思います。

  • ジョージ・ワシントンは、器物損壊罪か!?

    2014年01月15日


    2014年の年明け早々、全国的になにやら物騒な器物損壊事件が立て続けに起きているようです。

    「公用車のタイヤ29本がパンク 器物損壊事件として捜査 千葉」(2014年1月6日 産経新聞)

    6日午前8時20分ごろ、千葉県佐倉市の県印旛合同庁舎の駐車場に止まっていた15台の公用車のタイヤ計29本がパンクさせられているのを県の女性職員が見つけ、佐倉署に通報した。タイヤは千枚通しのような鋭利なもので刺されていた。

    「兵庫県警察の捜査車両10台がパンク 年末年始の休み中に被害か」(2014年1月6日 産経新聞)

    兵庫県警は6日、本部本館(神戸市中央区)の地下1~3階にある駐車場で、捜査車両10台のタイヤ計16本が何者かにパンクさせられたり、傷をつけられたりしたと発表した。

    「パンク、落書き…駐車場の車40台以上被害 茨城」(2014年1月4日 産経新聞)

    茨城県土浦市で3日午後から4日早朝にかけ、40台以上の乗用車がパンクさせられたりスプレーで落書きされたりする被害に遭った。土浦署によると、車は数百メートルの範囲のアパートや住宅敷地内の駐車場に止められており、窓ガラスを割られた車もあった。

    これら以外にも、福島県郡山市では昨年10月以降、数十件のタイヤパンク被害が相次いでおり、大阪市では市営地下鉄の車両側面へのスプレーでの落書きが昨年5月以降、6回確認されているようです。

    アメリカの初代大統領であるジョージ・ワシントン(1732‐1799)の有名な逸話がありますね。

    子供のころ、父が大切にしていた桜の枝を切ってしまったことを、「僕がやりました」と正直に告白。

    父は怒るどころか、「お前の正直さは、桜の木1,000本よりも価値がある」と逆にほめられた、という逸話です。

    何事も、正直に告白することは大切です。犯人は速やかに罪を申し出てほしいものです。

    しかし当然のことながら、他人の車のタイヤをパンクさせたり、電車に落書きをすることは、「器物損壊罪」という犯罪になります。

    「刑法」第261条(器物損壊等)
    前3条に規定するもののほか、他人の物を損壊し、又は傷害した者は、3年以下の懲役又は30万円以下の罰金若しくは科料に処する。

    と、いうことは、ワシントンも日本で桜の枝を折れば、器物損壊罪の可能性がありました。でも、そうであったとしても、時効ですね。(^_^)

    また、器物損壊罪は、親告罪なので、お父さんが告訴しないと、刑罰を科すことができません。

    さて、それはそれとして、今回のパンクの件、いたずらであっても、腹いせであっても、アートであっても器物損壊に変わりありません。

    犯罪なので、犯人が逮捕されれば刑事罰を受けることになります。同時に、民事で損害賠償の問題も出てきます。

    また、仮に子供が、たとえいたずらだったとしても、同様のことをやってしまったら、損害賠償の話になります。

    未成年者の損害賠償責任について法的には、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    ちなみに、子供の責任能力については、11~12歳くらいが境界線とされています。

    「民法」第712条(責任能力)
    未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。

    「民法」第714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)
    1.前2条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
    2.監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

    繰り返される、いじめの問題。最近急増している子供による自転車事故など、あなたの子供もいつ「加害者」になってしまうかもわかりません。

    きっかけは、ほんの些細な出来心やいたずら、または怒りの衝動だったとしても、法律の一線を超えれば、犯罪は犯罪です。

    起こしてしまった罪は、もうしょうがありません。償っていくだけです。

    しかし、犯罪を未然に防ぐことはできます。

    子供たちが犯罪の加害者にも被害者にもならないよう、まずは親や大人が見守りながら、犯罪について是非善悪をしっかり教えていくことが大切です。

    新年を迎え、心も新たに、法を社会の隅々に伝えていくことが私の役割だと感じています。

  • 自動車で人を死亡させて、たった100万円払えば許される!?

    2014年01月07日


    2013年1月、乗用車で男性をはねて死亡させたとして書類送検された、横手(旧姓千野)志麻元フジテレビアナウンサー(36)に昨年12月27日、罰金100万円の略式命令が出されました。

    報道によると、静岡県沼津市のホテル駐車場で看護師の男性(当時38歳)をはねて死亡させた千野アナは、2013年2月に自動車運転過失致死の疑いで沼津署により書類送検。

    同年12月27日、静岡区検は自動車運転過失致死罪で略式起訴。静岡簡裁が罰金100万円の略式命令を出し、千野アナは即日納付したということです。

    自動車で人をはね、死亡させたのに罰金がたったの100万円!? と疑問に感じる人もいると思うので、法律的に解説をしましょう。

    交通事故を起こした場合、①刑事手続き②民事手続き③行政手続き、という3つの手続きが発生します。これらの手続きは、それぞれ別個に進んでいきます。

    「刑事手続き」
    交通事故を起こしたとき、加害者には以下のような刑事処罰が科せられる場合があります。

    1. 自動車運転過失致死傷罪
    2. 危険運転致死傷罪
    3. 道路交通法違反罪

    今回の事故の場合、過失による致死ということで「自動車運転過失致死罪」で略式起訴されたわけです。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)2項
    自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    正式に起訴されず罰金だけ科す場合を略式起訴といいます。
    今回のケースでは、過失がスピード違反や飲酒運転、赤信号無視という大きなものではなかったため略式起訴になったと考えられます。

    以上は、刑事手続についてです。

    しかし、これで終わりではありません。

    100万円だけで終わりになることはないのです。

    なぜなら、被害者の補償、つまり「民事手続き」が別で発生するからです。

    交通事故を起こすと、加害者(運転者)は、被害者に対して不法行為が成立し、被害者が被った損害を賠償しなければならない義務が発生します。

    賠償の対象となる損害は、人身損害と物損害があり、手続としては、示談により解決する場合と調停や訴訟により解決する場合があります。

    加害者が賠償金を支払う場合、加入している自賠責保険や任意保険によって保険会社から支払われます。

    法により加入が義務つけられている自賠責保険では、被害者死亡の場合、最高3,000万円、重度の後遺障害の場合は最高4,000万円が支払われます。

    しかし、それだけでは被害者への賠償が足りないことが多く、損害保険会社による任意の自動車保険に加入している人が多くいます。

    賠償金額は、被害者が将来得られたはずの生涯賃金から算出されます。一般的には数千万円から、年収の多い人の場合は1億円を超えるまでになります。
    「行政手続き」
    運転者が道路交通法規に違反している場合には、違反点数が課せられます。違反点数が一定以上になると、免許取消や免許停止、反則金等の行政処分を受けることになります。

    行政手続も、刑事事件や民事事件とは全く別個に進行します。つまり、行政処分を受けて反則金を支払ったからといって、刑事処分を免れるわけではないということです。

    以上のように、仮に死亡事故を起こしてしまった場合、刑事罰の罰金100万円だけでは済まないのです。

    ちなみに、日本損害保険協会の資料によると、任意の自動車保険への加入率は、対人賠償保険73.1%、対物賠償保険73.1%、搭乗者傷害保険45.1%、車両保険42.1%となっています。(平成24年3月末現在)

    この統計から見えてくるのは、対人賠償保険に加入していない3割弱の人が死亡事故の加害者になった場合、数千万円にもおよぶ賠償金をどうやって支払うのか。また同時に、被害者の3割弱は損害賠償金を得られない事態が発生する可能性があるということです。

    交通事故では、いつ加害者・被害者になるかわかりません。

    転ばぬ先の大きな杖として、運転者は任意保険の無制限に加入しておくべきでしょう。

    また、自分の身は自分で守るためにも、自分の自動車保険に、「無保険者傷害特約」や「人身傷害補償特約」をつけておくことは仮に被害者になった場合、有効な手段だと言えます。

  • 子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?

    2013年12月03日


    過去、こんな相談を受けたことがあります。

    「息子(小3)が通う小学校で、“事件”が起きた。

    それは、社会科見学に出発する前、体育館に3年生が全員集合しているときだった。

    一列に座って並んでいた待機中、A君の後ろにいたB君がちょっかいを出してからかった。

    怒ったA君は、カッとなり持っていた水筒をB君に向けて投げつけた。
    B君は、それをヒョイッとかわした。すると水筒がB君の後ろにいたC君の顔面を直撃。

    それまでC君は、そのまた後ろのD君の方を向いて話していたのが、D君に促されて、ちょうど前を向いた瞬間、自分めがけて水筒が飛んできたのだそうだ。

    C君は前歯4本を折って流血し、病院へ緊急搬送。

    単純には決めつけられないけれど、この問題、一体誰の責任なのだろう?

    A君、B君、教師、学校、親……。あれこれ考えたら、怖くなってきた」

    子供同士のささいなケンカから起こった事故とはいえ、大けがをしていることで親御さんとしては、いろいろと考えるところがあったようです。

    学校(保育所)の管理下における事故、災害では、通常、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    学校の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。

    ただ、この給付金では、損害賠償額を全て賄うには足りないことが多いでしょう。

    そうなると、足りない慰謝料などは、誰に請求すればよいでしょうか?

    考えられるのは、水筒を投げたA君、A君の親、学校、などが考えられるでしょう。

    ただ、A君はまだ小学3年生です。賠償金を支払う資力があるとは思えません。

    そこで、A君の親は、どうでしょうか?

    法的には、未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    そして、その能力は、11~12歳くらいが境界線とされています。

    今回のA君は、小学校3年生ですので、おそらく責任能力が否定されて、親の責任が問われることになるでしょう。

    また、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、代理監督者責任があります。

    教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

     

    親の「監督者責任」が問われれば多額の損害賠償金を支払わなければいけない場合も

     

    じつは近年、子供が起こした事故で、親が多額の損害賠償を求められるケースが増えています。

    多額の損害賠償が求められるということは、被害者に重大な障害が残ったり、死亡したり、というケースです。

    どのような状況か、というと、多いのが、自転車による事故です。

    親の監督責任は別として、未成年者による自転車事故で、多額の賠償金が認められた裁判例を挙げてみましょう。

    ・歩道上で信号待ちしていた女性(当時68歳)に、当時17歳が運転する自転車が右横から衝突。女性は大腿骨頚部骨折を負い、後遺障害8級の障害が残った。賠償金額は約1,800万円。親の監督責任は否定された。
    <平成10年10月16日 大阪地裁判決 交民集31巻5号1536頁)>

    ・白線内を歩行中の女性(当時75歳)が電柱を避けるために車道に出たところ、対向から無灯火で進行してきた14歳の中学生の自転車と衝突。女性は頭部外傷で、後遺障害2級の障害が残った。賠償金額は3,124万円。親の監督責任は否定された。
    <平成14年9月27日 名古屋地裁判決 交民集35巻5号1290頁)>

    ・赤信号で交差点の横断歩道を走行していた男子高校生が、男性(当時62歳)が運転するオートバイと衝突。男性は頭蓋内損傷で13日後に死亡。賠償金額は4,043万円。親の監督責任は求めなかった。
    <平成17年9月14日 東京地方裁判所・自保ジャーナル1627号>

    ・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3,970万円。母親の監督責任は否定された。
    <平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>

    ・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9,266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
    <平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>

    こうした中でも、今年7月に自転車事故を起こした少年(11歳)の母親に約9,500万円の損害賠償命令が出された、神戸市の自転車事故のケースは大きな話題になりました。

    平成20年9月22日、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた女性に正面衝突。
    女性は頭を強打し、意識不明のまま現在も寝たきりの状態が続いているとのことです。

    世間では、この金額に対して賛否両論の意見がありました。

    確かに、金額だけを見れば驚く人も多いでしょうが、被害者の状況と過去の裁判例から見ていけば、高額すぎる金額ではありません。

    この女性は散歩をしていただけです。そして、突然自転車に衝突され、寝たきりになってしまいました。

    人生を狂わされた慰謝料もあるでしょう。今後働いて得られたはずの収入もあるでしょう。寝たきりであれば、介護費用の負担もあるでしょう。

    それを考えると、損害額は1億円を超えてもおかしくはありません。

    それらを、この女性が負担すべきか、というと、それはあまりに酷というものです。

    しかし、これほどの金額になると一般の家庭では簡単に支払えるものではないでしょう。

    加害者である子供の親が自己破産してしまえば、被害者は賠償金を回収できなくなってしまいます。これからも続くであろう介護の費用は、どうすればいいのでしょうか?

    交通事故では、結局、被害者も加害者もお互いが不幸な結果になってしまうことも多いものです。

    自転車については、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がありません。

    また、自転車事故における任意保険制度もとても脆弱です。

    火災保険や自動車保険、傷害保険の特約でつけられる場合がありますが、知らない方も多いのではないでしょうか?

    これ以上、不幸を繰り返さないためにも、自転車の強制保険や任意保険の整備は急務でしょう。

    そして、まずは子供たちに対して、交通事故の怖さや自転車の危険性を教育していく「親としての責任」について、大人がきちんと理解し自覚する必要があると考えています。

  • 都市伝説の真相に迫る─自殺部屋の家主に告知義務はあるのか?

    2013年10月31日


    よくある都市伝説や怪談のひとつに、こんな話がありますね。

    引っ越した部屋に住み始めたら、なぜか体調が悪くなってきて、
    病院に行ったけれど、どこも悪くないと言われた。

    そのうち、部屋に誰か人がいる気配がしたり、物音がしたり、夜中に金縛りにあったり。
    しまいには、仕事で大失敗したり、車にはねられてケガをしたり、
    悪いことばかりが立て続けに起きるようになった。

    友人に話してみると、真顔でこんなことを言うのです。
    「その部屋で何かあったんじゃない? 殺人とか、自殺とか……」

    怖くなってきた住人の女性はしかし、好奇心も湧いてきて部屋中を調べてみた。すると、そこにあったのは……

    最近、こんな判決がありました。

    「自殺があったことを告げずに部屋を賃貸。家主の弁護士に賠償命令」

    自殺があったことを告げずにマンションの部屋を賃貸したのは不法行為だとして、部屋を借りた男性が家主の弁護士の男性に対して約144万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が10月28日、神戸地裁尼崎支部でありました。

    弁護士の男性は2011年5月に競売で兵庫県尼崎市内のマンションを取得。ところが、それまで住んでいた女性が3日後に部屋で自殺。
    そうした事実を説明せずに2012年8月、男性とこの部屋の賃貸借契約を結んでいたようです。

    男性は引っ越しした後に近所の住人から自殺の話を聞き、翌日には退去。同年9月20日に契約解除を通告したということです。

    裁判で弁護士の男性は、「競売後の手続きは他人に任せており、自殺の報告を受けないまま部屋の明け渡し手続きを終えた」と主張したが、女性の死後に弁護士が部屋のリフォームを指示したことから、
    「およそありえない不自然な経緯」「部屋の心理的な瑕疵(かし)の存在を知らないことはありえない」と裁判官は指摘。
    「一般の人でもこの部屋は住居に適さないと考える。部屋には嫌悪すべき歴史的背景に起因する心理的な欠陥という瑕疵がある」として、賃料や慰謝料など約104万円の支払いを命じました。

    ところで、こんな都市伝説? というか噂がネットにあるようです。

    殺人や自殺があった賃貸物件は、その後に誰か(1人目)が入居したら、
    その次の入居者(2人目)には事実を伝えなくてもいい。
    しかし、1人目は最低1カ月は住まなければいけないので、大家さんはそのためにバイトを雇って住んでもらう。
    バイトは大抵、殺人や自殺や幽霊を気にしない人がやるが、中にはそんな人でも1カ月も住めずに逃げ出してしまう部屋がある。
    だから、その部屋は今でもずっと空室のまま……

    では、バイトの件は置いておいて、そうした“いわくつきの部屋”について法律で解説してみましょう。

    貸室の入居者の自殺は、その後に賃借する人にとっては一般的に嫌悪感を生じる原因となるので、自殺の事実はその部屋を借りるかどうかの重要な要素になります。
    したがって民法95条により、賃借人は事実を知らなかったことを理由に賃貸借契約の無効を主張することができます。

    民法第95条(錯誤)
    意思表示は、法律行為の要素に錯誤があったときは、無効とする。ただし、表意者に重大な過失があったときは、表意者は、自らその無効を主張することができない。

    また、賃貸人は自殺後間もない時期に新たに部屋を賃貸する場合には、契約締結の際に事実を告知する義務があります。
    これを怠ると、賃借人は賃貸人に対して告知義務違反を理由として、民法96条により詐欺として契約を取り消したり、解除することができます。
    さらには、賃借人は引っ越し費用や慰謝料などの損害賠償請求もできます。

    民法第96条1項(詐欺又は強迫)
    詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。

    ちなみに、宅地建物取引業者、つまり仲介の不動産屋さんも自殺の事実を知っている場合には、告知義務があります。

    したがって、仲介業者がいた場合には、賃借人は、賃貸人と仲介業者を同時に訴えることになります。

    ただし、仲介業者は、事前に自殺があったことを調査する義務まではないと考えられます。

    ところで、賃借人が、部屋を善良な管理者の注意に基づいて使用しなければなりません。

    部屋の中で自殺をすれば、その部屋は心理的瑕疵となり、一般の人に貸すことができなくなるわけですから、部屋の中での自殺は、善管注意義務違反、ということになります。

    そうすると賃借人が善管注意義務に違反して、物件に損害を与えた場合には、賃貸人には賃貸借契約に基づき、連帯保証人や賃借人の相続人への損害賠償請求が認められることになります。

    さまざまな理由があっての自殺なのでしょうが、残された人には精神的ダメージに加えて、金銭的な負担ものしかかってきます。

    自殺を自分の命を絶つだけだと考えている人がいるかもしれませんが、とんでもないことです。

    周りの人に迷惑をかけてしまうことを憶えておかなければなりません。

    それにしても、今回のニュース、たまたま賃貸人の職業が弁護士だったということでニュースになってしまったのでしょう。

    弁護士が犯罪を起こした場合も、すぐにニュースになります。

    それだけ高い規範意識が求められている、ということだと思います。

    弁護士には高い職業倫理が求められますので、いっそう身を引き締めて日々生活していきたいと思います。