弁護士 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 10
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
  • 「今、そこにある秘密漏洩という危機」

    2015年03月11日

    近年、企業の営業秘密が不正取得され、漏えいする事件が多発しています。

    企業にとっては大問題ですが、一体そこにはどんな問題が潜んでいるのでしょうか? 対応策はあるのでしょうか?

    「エディオン情報不正取得で元課長再逮捕、誓約破り別の営業秘密取得」(2015年3月5日 産経新聞)

    大阪府警生活経済課は、家電量販大手「エディオン」をめぐる情報不正取得事件で、誓約書に従わずに営業秘密を不正に得ていたとして、同社元課長の男を不正競争防止法違反容疑で再逮捕しました。

    容疑者の男は、2003年12月、「(退職時に)営業秘密の資料を返還し、保有しない」とする誓約書を提出しながら、私物ハードディスクに保存した営業秘密データ86件を返還せず、不法に取得したようです。

    「そうした行為はしたが、利益を得たり会社に損害を与えたりする目的はなかった」などと供述しているようですが、容疑者の男の逮捕は今回が3回目で、すでに別の不正競争防止法違反で起訴されているということです。
    【不正競争防止法とは?】

    不正競争防止法は、事業者間の公正な競争及び、これに関する国際約束の的確な実施を確保するために、不正競争の防止と損害賠償等について定めています。(第1条)

    さまざまな禁止行為が規定されているのですが、今回はその中の「営業秘密」に関する不正です。

    営業秘密に関する不正行為には、以下のようなものがあります。

    ・企業が秘密として管理している製造技術上のノウハウ、顧客リスト、販売マニュアル等を窃取、詐欺、強迫、その他の不正の手段により取得する行為(第2条4号)
    ・または、不正取得行為により取得した営業秘密を使用したり、開示する行為(第2条4号)
    ・不正に取得された情報だということを知っている、もしくはあとから知って、これを第三者が取得、使用、開示する行為(第2条5号、6号)
    ・保有者から正当に取得した情報でも、それを不正の利益を得る目的や、損害を与える目的で自ら使用または開示する行為(第2条7号)

    これらに違反した場合、10年以下の懲役もしくは1,000万円以下の罰金、またはこれを併科となります。

    かなり重い罪ですから十分な注意が必要です。
    【今そこにある秘密漏えいという危機】

    ところで、別の報道によれば、容疑者の男は「再就職先で格好をつけたかった」と供述しているとのことですが、その犯行は段階を踏んでいることからも、用意周到に計画されたものだったようです。

    報道内容からだけでは正確には分かりませんが、おおよそ以下のような流れのようです。

    ・在職中に200件のデータを不正に転送。
    ・同じく在職中に遠隔操作ソフトをインストール。
    ・退職時には「営業秘密の資料を返還し、保有しない」との誓約書を提出。
    ・にもかかわらず、私物ハードディスクに保存した営業秘密データ86件を返還せず。
    ・退職の翌月、遠隔操作で4件のデータをエディオン社から転職先の会社のパソコンに不正に転送。
    ・ごていねいにも、転送したデータを転職先の会社のパソコンの共有フォルダに「エディオン」という名をつけて保存。
    ・不正が発覚し3回の逮捕

    一方、エディオン社は、データをUSBメモリーなどで持ち出せないようにしていたり、退職時に誓約書を書かせたり、営業秘密の漏えいに対しては、それなりの対策をとっていたようです。

    ところが、事務手続きの都合上、退職者のIDとパスワードを退職後90日間は利用可能な状態にしていたところ、容疑者は、その隙も狙って犯行に及んだということです。

    企業の秘密漏えいは死活問題にもなりかねませんが、その対策は、一筋縄ではいかないのが現実でしょう。
    【秘密漏えい問題で企業がとるべき対応とは?】

    しかし、ただ手をこまねいていても仕方がありません。
    秘密漏えいに対して、企業はどのような対策をとっておくべきなのでしょうか?

    法的にポイントとなるのは、社員への早期の対応と、社内規定の厳格化です。
    1.まず入社時に、営業秘密の漏えいに関する誓約書を提出させる。
    2.就業規則に秘密保持義務を規定するとともに、懲戒処分の規定に関して厳格に明記し、社員全員に周知させる。
    3.入社後、秘密情報を取得する可能性のあるプロジェクト等に参加するごとに、当該プロジェクトに関する秘密保持誓約書を提出させる。
    4.秘密情報の不正取得が犯罪であることを研修などの社員教育で徹底していく。
    5.退社時にも誓約書を提出させる。
    早い段階での教育と、社内規定の厳格化を徹底していくことで社員の中に、おのずと高い意識と倫理観が醸成されていくことが大切です。

    なお、国も対応を急いでいるようです。
    経済産業省は、相次ぐ企業の秘密漏えい事件に対して新法の成立は見送りましたが、罰金引き上げなど罰則を強化するほか、被害申告を必要としない「非親告罪」にするなど不正競争防止法の改正法案を2015年の通常国会で提出するとのことです。

    どのような内容になるのか、今後の動きを見守っていきたいと思います。

  • セクハラに対する懲戒処分について最高裁判決

    2015年03月06日

    先日、あるセクハラ行為に関する裁判で、最高裁による判決が出ました。

    今まで、セクハラ裁判では最高裁まで争われるケースは珍しかったのですが、今回の判決を受けて、セクハラに対する企業側の対応に「厳格化」が求められていくことになりそうです。

    「“セクハラ処分は有効”=無効判断の二審破棄―水族館職員の上告審・最高裁」(2015年2月26日 時事通信)

    大阪市の水族館「海遊館」の運営会社で行われたセクハラ行為に対して、
    懲戒処分を受けた管理職の男性2人が会社の処分を不当だとして訴えた裁判について、最高裁は「処分は無効」とした2審の判決を破棄。

    「職場内で女性に強い不快感や嫌悪感を与える発言を1年余りにわたって繰り返しており、不適切だ」、「今回のセクハラ行為の多くは第三者のいない状況で行われており、会社側が事前に警告や注意ができたとは言えない」として、会社が下した出勤停止と降格の懲戒処分は重過ぎるものではないと結論づけました。

    今回の事案について、簡単に時系列でまとめます。

    【セクハラ裁判の経緯】
    ・2010年11月~2011年12月にかけて、水族館の運営会社の管理職だった男性2人が、20~30代の派遣社員の女性人名に対してセクハラ発言を繰り返す。

    ・訴訟でセクハラと認定された発言の一部
    「俺の性欲は年々増すねん」
    「夫婦間は、もう何年もセックスレスやねん」
    「結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで」
    「もう、お局さんやで。怖がられてるんちゃうん」
    「男に甘えたりする?」
    「地球に2人しかいなかったらどうする?」

    ・派遣社員の女性2人が会社に被害を申告。その後、1人が派遣会社を辞め職場から去る。
    会社側は男性2人に事情を聴取し、弁解を聞いたたうえで2012年2月、それぞれ30日間と10日間の出勤停止を命令し、課長代理から係長に降格処分。
    男性2人は、「セクハラ発言には当たらない」、「事前に注意や警告もなく処分したのは不当」だとして提訴。

    ・1審の大阪地裁では、「上司という立場でありながら、繰り返しセクハラ行為をしており悪質」、「処分は社会通念上、妥当」だとして請求を棄却。

    ・しかし、2審の大阪高裁では、「女性が男性らに明確に抗議しておらず、会社側が男性らに適切な指導をしたかも疑問だ」と指摘。「処分は重すぎて無効」と判断。

    ・これを受けて会社は、「抵抗や抗議が困難な上下関係の中で非公然と行われたセクハラ行為。事前に注意や警告をすることが難しいセクハラ行為の特殊性を考慮していない」として上告。
    今回の最高裁の判決に至る。
    では次に、「何をするとセクハラになるのか」、「会社はどのような対応をとるべきなのか」について考えていきます。
    【セクハラとは?】

    そもそも、「セクシャルハラスメント」という言葉、概念は1970年代初めにアメリカで生まれたとされているようです。

    日本でセクハラという言葉が使われるようになったきっかけは、1986年に起きた「西船橋駅ホーム転落死事件」。
    加害者となった女性を支援する団体が使い始めたとされています。

    その後、1997年の「男女雇用機会均等法」の改正で性的嫌がらせへの配慮が盛り込まれ、範囲の拡大等の改正を経て現在に至ります。
    【セクハラの定義】
    「男女雇用機会均等法」では、セクハラを以下のように定めています。

    「事業主は、職場において行われる性的な言動に対するその雇用する労働者の対応により当該労働者がその労働条件につき不利益を受け、又は当該性的な言動により当該労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない」(11条1項)

    つまり、セクハラとは、「職場において行われる」、「労働者の意に反する」、「性的な言動」ということになります。
    【セクハラの判断】
    職場でのセクハラにあたるかどうかの判断には、次の3点を検討します。

    ①「職場において行われるものかどうか」
    職場とは当然、社員等(労働者)が所属する会社の事務所などの「働く場所」です。
    しかし、注意が必要なのは、法律上は会社の事務所だけでなく、労働者が業務を遂行する場所も「職場」とみなされるという点です。
    たとえば、取引先の会社の事務所、打ち合わせでの飲食店、顧客の自宅なども職場となります。

    ②「労働者の意に反するものかどうか」
    厚生労働省の「事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針」では、セクハラには「対価型」と「環境型」があるとしています。

    〇対価型セクハラ
    職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否したことで解雇、降格、減給などの不利益を受けること。

    典型的な例として以下のようなことが挙げられます。
    ・女性社員に性的関係を強要した社長が拒否されたため社員を解雇した。
    ・出張中の車中で上司が部下の体を触り抵抗されたために不利益な降格や配置転換を行った。
    〇環境型セクハラ
    性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に大きな悪影響が生じること。

    典型的な例として以下のようなことが挙げられます。
    ・上司のセクハラ的言動のため部下が苦痛に感じ就業意欲が低下した。
    ・労働者が抗議したのに上司が事務所内にヌードポスターを掲示しているために苦痛を感じ業務に専念できない。

    ③「行われた言動が性的なものかどうか」
    性的な言動の具体例としては以下のものなどがあげられます。

    〇性的な事実関係を尋ねること
    〇性的な内容の情報を意図的に流布すること
    〇性的な冗談やからかい
    〇食事・デートなどへの執拗な誘い
    〇個人的な性的体験談を話すこと
    〇性的な関係を強要すること
    〇必要なく身体に触ること
    〇わいせつな図画(ヌードポスターなど)を配布、掲示すること
    〇強制わいせつ行為、強姦等
    【会社が受ける損害】
    パワハラと同様、セクハラが行われた場合、会社には社員に対して以下のような義務や責任があります。

    〇「職場環境配慮義務」
    会社は、従業員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務=職場環境配慮義務を負います。
    社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。

    〇「使用者責任」
    ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた損害を賠償する責任があります(民法第715条)。
    ところで今回のケースでは、被害者女性が上司と会社を訴えたというものではなく、セクハラ行為をした社員が懲戒処分を不当として会社を訴えたというものです。

    通常、会社が社員に対して懲戒処分を下す場合、何度も注意して是正を求めることが前提となります。
    そのため、今回のケースでは会社の注意が十分だったかどうかも争点となっていました。

    そうした状況も含め、会社がとるべきセクハラ防止策には次のことが挙げられます。
    【会社がとるべきセクハラ防止策】
    ①「会社の方針の明確化及びその周知・義務」
    ・就業規則を含めた服務規律を定めた文書や社内報、パンフレット、ウェブサイトなどにセクハラ防止の方針を明文化して、研修や講習などの社員教育を徹底する。
    ・セクハラを行った者への懲戒規定を定め、その内容を社員に周知する。

    ②「相談対応の明確化」
    ・相談窓口の設置や担当者を明確にして周知する。
    ・相談を受けた場合のマニュアルや体制を整備する。

    ③「セクハラ事案の事後処理の迅速化と適切化」
    ・セクハラ被害にあった者と行為を行った者双方から聞き取りを行う。
    ・被害者と行為者双方への迅速かつ適切な対応。(紛争解決に向けた調停や配置転換、懲戒処分など)

    ④「相談者・行為者のプライバシー保護」
    ・プライバシー保護のための適切な措置。
    ・相談者や証言者が不利益にならないための措置など。
    さて、今回の判決では、会社はセクハラ禁止文書の作成や、全従業員の研修参加への義務づけなどに取り組んでいたことを認めています。

    また、管理職としてセクハラ防止を部下に指導すべき立場の人間がセクハラ行為を繰り返していたことを非難し、同時に会社側の事前把握の困難さを認めています。

    この判決の意義としては、セクハラ行為に対して会社が注意指導を前提とせず、初めから懲戒処分を科すことが許される場合があることを認めたところにあります。

    これからは、企業側にも、すべてのビジネスパーソンにも、セクハラは違法であるという認識と知識、そして高い倫理観と真摯な姿勢が求められる時代であることを理解してほしいと思います。
    労働トラブルのご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

  • パワハラと教育的指導の境界線とは?

    2015年02月28日

    仕事への意欲が湧かないとき。
    何かのトラブルを抱えて落ち込んでいるとき。

    そんなときは、「言葉の魔法」にかかりたいと思うことがあります。
    身近な人からのアドバイスや、先人や偉人の名言に救われたり、元気が出てくることがありますね。

    しかし逆に、会社や職場で「言葉の暴力」を浴びせられたら、どうでしょうか?

    最悪の場合には、心と体に変調をきたして仕事を続けられなくなってしまう人もいます。

    先日、言葉の暴力がパワハラと認定された裁判がありましたので、解説します。

    「“威圧され適応障害”…看護師長のパワハラ認定」(2015年2月26日 読売新聞)

    北九州市の病院に看護師として勤めていた女性(30歳代)が、元上司によるパワーハラスメントで適応障害になったとして、病院の運営元や元上司を相手取り、約315万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が福岡地裁小倉支部でありました。

    判決によると、女性は病院に勤務していた2013年4~5月頃、子供がインフルエンザにかかったり、高熱を出したりしたため、上司だった看護師長に早退を申し出たところ、有給休暇が残っていたにも関わらず、元上司は「もう休めないでしょ」、「子供のことで職場に迷惑をかけないと話したんじゃないの」などと発言。

    女性は、ミスを叱責されたこともあり、食欲不振や不眠から、同年11月に適応障害と診断されて休職。
    その後、2014年3月に退職したようです。

    裁判官は、看護師長の言動について、「部下という弱い立場にある原告を過度に威圧し、違法」と認定。
    被告に約120万円を支払うよう命じたということです。

     

    近年、パワハラに関する報道が増えていますが、そもそも何をするとパワハラになるのか? すべてのビジネスパーソンは正確に認識しておく必要があるでしょう。

    そこで、今回もう一度、パワハラについて復習しておきたいと思います。

    【パワハラとは?】
    厚生労働省の「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では、以下のように定義されています。

    「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」

    「上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」

    つまり、パワハラが成立するには次の3つの要件が認められるか検討していくことになります。

    ・それが同じ職場で働く者に対して行われたか
    ・職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に行われたものであるか
    ・業務の適正な範囲を超えて、精神的・肉体的苦痛を与え、また職場環境を悪化させるものであるか
    【パワハラにあたる6つの行為】
    具体的には、以下の6つがパワハラとなる行為とされています。

    ①身体的な攻撃(暴行・傷害)
    ②精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
    ③人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
    ④過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
    ⑤過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
    ⑥個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

    今回の事案は、②の言葉の暴力による「精神的な攻撃」ということになります。
    【パワハラによって発生する会社の損害とは?】
    パワハラが行われた場合、今回の事案のように民事裁判では、被害者は損害賠償を求めて訴訟を起こすことができます。
    それは、会社には社員に対して以下のような義務や責任があるからです。

    「職場環境配慮義務」
    会社は、従業員との間で交わした雇用契約に付随して、職場環境を整える義務=職場環境配慮義務を負います。
    社員等にパワハラやセクハラなどの被害が発生した場合、職場環境配慮をきちんとしていていないと、義務違反(債務不履行責任<民法第415条>)として、会社はその損害を賠償しなければいけません。

    「使用者責任」
    ある事業のために他人を使用する者は、被用者(社員)が第三者に対して加えた不法行為による損害を賠償する責任があります(民法第715条)。

    今回の事案のように、社員(看護師長)が別の社員(看護師)に対して損害を与えたと認められれば、その責任を会社が負い、損害を賠償しなければならなくなる場合があります。
    【パワハラを防ぐための5つの措置】
    パワハラを防ぐための措置として、次の5つが挙げられます。

    ①会社のトップが、職場からパワハラをなくすべきという明確な姿勢を示す。
    ②就業規則をはじめとした職場の服務規律において、パワハラやセクハラを行った者に対して厳格に対処するという方針や、具体的な懲戒処分を定めたガイドラインなどを作成する。
    ③社内アンケートなどを行うことで、職場におけるパワハラの実態・現状を把握する。
    ④社員を対象とした研修などを行うことで、パワハラ防止の知識や意識を浸透させる。
    ⑤これらのことや、その他のパワハラ対策への取り組みを社内報やHPなどに掲載して社員に周知・啓発していく。
    さて、ここまでパワハラについて解説してきましたが、それでも会社の社長や部下を持つ管理職の人たちからは、こんな声が聞こえてきそうです。

    「パワハラについては理解できたけれど、なんでもかんでもパワハラに
    されて訴えられたら、たまらない」

    「ミスをした社員をしかるのは当然でしょう。仕事上の叱責までパワハ
    ラにされたら、どうしていいのか…」
    実際、厚生労働省が公表した、「平成25年度個別労働紛争解決制度施行状況」によると、総合労働相談のうち、民事上の個別労働紛争の相談内容では「いじめ・嫌がらせ」が59,197件と、「解雇」や「退職」をおさえ、2年連続で最多となりました。
    いかにパワハラやセクハラの相談が増えているかがわかります。

    しかし、たとえばパワハラとなる行為の中でも、業務への過大な要求や過少な要求などは、業種や企業文化などによっても差異があるため、業務上の適正な指導との線引きや判断が難しいものです。

    法的な基準としては、「平均的な心理的耐性を持った人」が肉体的・精神的に苦痛を感じるかどうかが判断基準とされていますが、以下のポイントにも注意をして対策をとっていただきたいと思います。

    ・行為が行われた状況
    ・行為が継続的であるかどうか
    ・会社が相談や解決の場(相談窓口など)を設置したかどうか
    ・パワハラ行為を行った者への研修・教育を行ったか
    ・懲戒処分の決定とその後の措置は適切だったか

    なお、社員の能力不足や職務怠慢の場合、会社は社員を教育指導してからでないと解雇などはできないことになっているので、通常の仕事上の叱責はパワハラにはならないことは覚えておいてください。

    最近は、仕事上で叱責すると、すぐに「パワハラだ!」と言われることがありますが、仕事上の叱責はパワハラにはなりません。

    それが度を超え、人格に対する攻撃などになると、はじめてパワハラになるのです。

    パワハラ問題が起きてしまうと、被害者の肉体的・精神的苦痛はもちろん、会社にとっても大きな損害となってしまいます。

    判断・対応が難しい場合には、弁護士などの専門家に相談することをおすすめします。
    労働トラブルのご相談はこちらまで⇒「弁護士による労働相談SOS」
    http://roudou-sos.jp/

     

  • 2倍!2倍!未払い残業代の付加金とは?

    2015年02月26日

    2015年も、労働トラブルに関する報道が相次いでいます。
    今回は、未払い残業代の「付加金」について解説します。

    「佐川急便で残業代未払い 付加金も命じる 東京地裁」(2015年2月20日 産経新聞)

    佐川急便の元運転手2人が、「残業代の一部が未払いだ」として割増賃金などの支払いを会社に求めた訴訟の判決で、東京地裁は、制裁金に当たる付加金も含め計約215万円の支払いを命じました。

    元運転手の2人は、平成21年11月~24年に佐川急便の都内の営業所に勤務。
    IDカードで出退勤時刻を管理していたが、「記録上の時間より早く出勤し、遅く帰宅する日もあった」と主張していたようです。

    裁判官は、2人が通勤に使っていた高速道路の料金所通過記録と、記録上の出退勤時刻に差があることなどから、「記録上の時間は必ずしも実際の勤務時間を反映していない。営業所の勤務時間の管理が適切ではなかった」と指摘したということです。
    【未払い残業代の付加金とは?】
    労働に関する法律の中に「労働基準法」があります。
    これは、会社が守らなければいけない最低限の労働条件を定めたもので、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的があります。

    この中に「法定労働時間」が定められています(第32条)。
    会社(使用者)が、社員(労働者)を働かせることができる労働時間は、原則として一週間で40時間、かつ1日8時間(法定労働時間)までというものです。
    (※ただし、36協定を締結し、労働基準監督署長に届け出れば、労働者が法定労働時間を超えて働いても労働基準法には違反しません)

    この基準以上の時間、つまり法定労働時間外の勤務をさせたとき、会社(使用者)は社員(労働者)に「割増賃金」を支払わなければいけません(第37条)。

    割増賃金は、時間外労働(残業)、休日労働、深夜労働などによって発生します。
    今回の事案では、元社員が会社に管理され、記録されていた出退勤時間より実際は早く出勤し、遅く帰宅していたとして、その時間分の残業代が認められたわけですが、判決の中に「付加金」というものがありました。

    では、この「付加金」とは一体何でしょうか?
    条文を見てみましょう。

    「労働基準法」
    第114条(付加金の支払)
    裁判所は、第20条、第26条若しくは第37条の規定に違反した使用者又は第39条第7項の規定による賃金を支払わなかつた使用者に対して、労働者の請求により、これらの規定により使用者が支払わなければならない金額についての未払金のほか、これと同一額の付加金の支払を命ずることができる。ただし、この請求は、違反のあつた時から2年以内にしなければならない。
    付加金とは、簡単にいうと違反を犯したことへの制裁金ということになります。

    ところで、民事で労働者側が「未払い残業代」による訴訟を起こし、訴えが認められた場合、会社(使用者)が支払うものには次の3つがあります。

    ①「未払い残業代の支払い」
    認定された残業代の未払い分の全額を支払わなければいけません。

    ②「付加金の支払い」
    裁判所が必要と認めた場合、未払い残業代と同額を上限とした付加金を支払わなければいけません。
    会社側の違反が悪質な場合などでは、全額が認められるケースも多くあります。

    付加金は会社への制裁金という意味合いがあるため、裁判で判決までいったときに初めて付加されます。

    また、付加金は違反があったときから2年以内に請求しなければ無効となります。
    なお、「労働審判」では付加金はつかないので注意が必要です。

    ③「遅延損害金の支払い」
    未払い残業代と付加金には利息がつきますが、これを「遅延損害金」といいます。

    利息の利率は、社員(労働者)が在職中であれば6%、退職している場合は14.6%と2倍以上になります。
    人気アニメ『セーラームーン』では、「月に代わっておしおきよ!」の名セリフが有名ですが、未払い残業代で裁判にまで至ってしまった場合、会社(使用者)は法律におしおきされてしまいますから、経営者の方は十分注意してください。

    2倍得をするならいいですが、2倍のお金を支払わなければいけない可能性もあるのですから、労働時間に関して経営者の方は、社員の勤務時間の管理をきちんと行い、法律を順守することが大切です。

    残業代請求が認められるかどうかは、かなり難しい法律問題となりますので、労働者も、会社も、適切な専門家などに相談をした方がよいでしょう。

    労使双方が、お互いを尊重しながら、社員は働きやすい環境で十分能力を発揮することで、会社の業績も上がり、会社も社員もお客さんも得をする、まさに「三方よし」となることを願っています。

    未払い残業代の問題のご相談はこちら⇒
    http://roudou-sos.jp/

  • 「自動車運転死傷行為処罰法」の施行9ヶ月の適用状況

    2015年02月21日

    悪質な運転に対する罰則を強化した、「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されてから9ヵ月が経ちました。

    交通事故に関わる人間にとって、その適用状況はつねに気になるところですが、今回、警察庁が摘発件数などを取りまとめ公表したようです。

    納得できるところもあり、一方で意外な結果に驚く部分もありました。

    さて、どんな結果だったのでしょうか?

    「全国の昨年5~12月の摘発210件 自動車運転処罰法」(2015年2月19日 中日新聞)

    警察庁は19日、「自動車運転死傷行為処罰法」について、施行された2014年5月から12月末までの全国の警察での適用状況について明らかにしました。

    自動車運転死傷行為処罰法では、新しい犯罪類型が規定されたのですが、その中で、適用がもっとも多かったのは、酒や薬物、さらには病気の影響で「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で運転をして人身事故を起こしたケースで、摘発件数は128件。

    事故現場から逃走することで飲酒運転などの発覚を免れる「逃げ得」対策として新設された「発覚免脱」容疑の摘発は72件でした。

    また、210件のうち14件は無免許だったため、刑が重くなる「無免許運転による加重」を適用されたようです。

    2014年は、従来の規定を適用しての危険運転致死傷容疑の摘発も前年(2013年)より10件多い353件に上ったことを踏まえ、警察庁の担当者は、「適用しやすい新規定に流れたのではなく、厳しく処罰すべき対象の摘発を純粋に増やせた。今後も力を入れていく」と話したということです。
    では次に、その摘発内容や件数について見ていきながら、詳しく解説していきます。

    「アルコールによる影響」
    ・けが/94件(うち無免許3件)
    ・死亡/9件(うち無免許1件)
    計103件

    「薬物による影響」
    ・けが/11件
    ・死亡/1件
    計12件

    「病気による影響」
    ・けが/13件(うち無免許2件)
    ・死亡/0件
    計13件

    「発覚免脱」
    ・けが/67件(うち無免許7件)
    ・死亡/5件
    計72件

    「通行禁止道路の進行」
    ・けが/9件(うち無免許1件)
    ・死亡/1件
    計10件
    【酒・薬物・病気による影響とは?】
    「自動車運転死傷行為処罰法」の危険運転致死傷容疑は、酒や危険ドラッグなどの薬物、さらには病気の影響で「正常な運転に支障が生じる恐れがある状態」で運転して人身事故を起こしたケースにも適用できるようになったため、今回もっとも摘発件数が多くなったようです。

    ちなみに、「危険運転致死傷罪」は、致傷の場合には懲役15年以下、死亡の場合には20年以下の懲役。
    「準危険運転致死傷罪」は、致傷の場合には懲役12年以下、死亡の場合には15年以下の懲役となっています。
    【発覚免脱とは?】
    アルコールや薬物の影響で交通事故を起こした後に事故現場から逃走することで飲酒運転などの発覚を免れようとすることを「発覚免脱」といいます。
    いわゆる「逃げ得」対策として新設されたものです。

    逃げ得とは、たとえば酒で泥酔状態になって人身事故を起こした場合には危険運転致死傷罪が適用されますが、逃げて翌日に逮捕された場合、その時点では体内のアルコール濃度は減少しているため、危険運転致死傷罪が適用できず、過失運転致死傷罪と道路交通法違反(ひき逃げ)しか適用できないことで、刑が軽くなってしまうという問題です。

    ちなみに、発覚免脱罪の最高刑12年に、ひき逃げの最高刑10年が併合されると、最高18年の懲役刑を科すことが可能になっています。
    【通行禁止道路の進行とは?】
    「通行禁止道路」とは、具体的には以下のようなものです。
    〇自転車及び歩行者の専用道路
    〇一方通行道路(の逆走)
    〇高速道路(の逆走)
    〇スクールゾーンなどで通行を禁止されている場合

    この罪が成立するには、通行禁止道路を走行するという認識が必要なため、たとえば、一方通行道路だと知らずに逆走した場合は、この罪は成立しないということになります。
    【無免許運転による加重とは?】
    「無免許運転による加重」も新たに加えられた犯罪類型です。
    以下の罪を犯した者が、事故のときに無免許だった場合に成立します。

    〇危険運転致傷罪(死亡の場合や、「進行を制御する技能を有しない」犯罪類型を除く。死亡の場合を除くのは、すでに最高刑が規定されているため)
    〇準危険運転致死傷罪
    〇過失運転致死傷アルコール等影響発覚免脱罪
    〇過失運転致死傷罪

    過去、無免許のよる重大事故が発生したにもかかわらず、「自動車運転過失致死傷罪」と「道路交通法違反」という軽い罰則しか科せられず社会的批判が高まったことから、世論の後押しもあって新たに規定されたものです。
    警察庁のコメントによれば、「厳しく処罰すべき対象を摘発している」とのことで、自動車運転死傷行為処罰法の施行で一定の効果が出ているようですが、危険運転は、まだまだなくなってはいません。

    まずは身近なところから。
    このブログの読者に危険運転についての知識や法律を少しでも学んで理解していただくことで、危険運転や悪質運転が少しでもなくなっていくことを望んでいます。
    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら⇒
    https://taniharamakoto.com/archives/1236

  • 交渉でデッドロックに陥った時は?

    2015年02月21日

    交渉において、お互いの主張が対立し、デッドロックに陥ることがあります。

    そんなときは、どうしたら良いでしょうか?

    「交渉は妥結しなければ意味がない。対立点があれば、まずそれを解消すべきだ。解消できなければ交渉は決裂だ」

    そういう考え方もあるでしょう。

    しかし、対立点がデッドロックに陥り、どうしようもなくなった時は、それを一旦棚上げし、後にまわす、という方法もあります。

    そして、それによっていつの間にか交渉が妥結することがあります。

    それは、なぜでしょうか?

    2月23日(月)に発信予定のメルマガで解説します。

    ぜひ、ご登録ください。
    http://www.mag2.com/m/0000143169.html

  • 給料不払いの代償~刑事訴追

    2015年02月14日

    ことわざに、「ただより高いものはない」というものがあります。

    通常は、ただで物をもらったら、そのお返しでかえってお金を使うことになるとか、ただの裏側には有利になるように取り計らってほしいという相手の打算、意図があるから、よろこんでばかりいると面倒なことになる、というような意味で使われますね。

    ところが今回、ただで社員に仕事させていた会社の社長が、とんでもない高い代償を払うはめになってしまったという事件が起きたようです。
    一体、どんな代償を払ったのでしょうか?

    「8人が3ヵ月タダ働き…賃金不払い容疑で建設業者書類送検」(2015年2月10日 産経新聞)

    札幌中央労働基準監督署は、昨年2月に事実上倒産した札幌市北区の建設業の社長(56)と法人としての同社を、最低賃金法違反(賃金不払い)の疑いで書類送検しました。

    社長の男は、本社と関東営業所(埼玉県)に勤務する従業員計8人に平成25年12月から26年2月まで3ヵ月分の給料を出さず、北海道や埼玉県の最低賃金に当たる計約260万円を支払わなかったようです。

    昨年1月、関東営業所の従業員が川越労働基準監督署に相談して発覚したようですが、社長は「経営が悪化し、支払えなかった」と供述しているということです。
    給料の不払いについては以前、解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「給料の不払いが犯罪になる!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1395

    「金がないから払えない」とは、一見もっともな理屈にも思えますが、法律の前ではそんなことは通用しません。

    社員への給料不払いは、「最低賃金法」という法律に抵触します。

    第4条(最低賃金の効力)
    1.使用者は、最低賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならない。
    第34条(監督機関に対する申告)
    1.労働者は、事業場にこの法律又はこれに基づく命令の規定に違反する事実があるときは、その事実を都道府県労働局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官に申告して是正のため適当な措置をとるように求めることができる。

    簡単にまとめると、以下のようになります。

    〇社長は、従業員に対して国で決められた「最低賃金」よりも多く給料を支払わなければいけない。
    〇賃金が支払われなければ、労働者は労働基準監督署に訴えることができる。
    〇違反した場合は、6ヵ月以下の懲役又は30万円以下の罰金。

    ところで、厚生労働省が公表した統計データによれば、平成23年4月から平成24年3月までの間に、賃金不払いの是正を指導され割増賃金を100万円以上支払った企業は1312社で、支払われた割増賃金の合計額は、じつに145億9957万円にものぼります。

    また、今回のように社員の労働基準監督署への相談や内部告発は年々増加していて、2012年の「労働基準監督年報」によれば、受理した件数で最も多いのが賃金未払いに関するもので、全体の85.6%にも及んでいます。

    さらに、近年では会社と社員の間で、残業代の未払いに関する労働トラブルも増えています。

    「労働基準法」で定められた時間外労働に対しては、当然、会社は社員に残業代を支払わなければいけません。

    もちろん、社員などの労働者は、残業代をもらえず、ただ働きして泣き寝入りすることはありませんし、社長や経営陣は、残業代の未払いは違法であることを理解しなければいけません。

    裁判に発展すれば、未払い分と同等の「付加金」も追加され、2倍の金額を支払わなければならなくなる可能性があります。
    さらには、今回のようにメディアで全国に社名が報道されたり、取引先との信用、信頼は地に落ちてしまうでしょう。

    労働トラブルは、経営者にとっては不名誉なことですし、会社にとっては大損害になりかねません。

    昔の人は本当にいいことを言ったものです。
    会社の経営についても、「ただより高いものはない」のかもしれません。

    経営者の方には法令順守の徹底と、社員を守るという責任を今一度、自問自答して確認していただきたいと思います。
    「何を捨てるかで誇りが問われ、何を守るかで愛情が問われる」
    (スティーブ・ジョブズ/アメリカの実業家。アップル社の共同創立者のひとり)

    労働問題に関する相談は、こちらから⇒ http://roudou-sos.jp/

  • 犬を散歩させただけで、6300万円の賠償金を払う?

    2015年02月12日

    2014年2月下旬、北海道白老町の海岸で散歩中の女性が2匹の土佐犬に襲われ溺死した事件がありました。

    以前、この事件について解説しています。
    詳しい解説はこちら⇒「愛犬を散歩させたら、懲役2年6月!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1590

    被告の男(65)が、飼育する2頭の土佐犬を連れて海岸に散歩に出かけた。
    周囲を十分に確認せずに1頭の引き綱を放したところ、犬が浜辺を散歩中の主婦(当時59歳)を襲った。
    女性は、波打ち際で転倒して水死。
    男は重過失致死罪などに問われ、懲役2年6月、罰金20万円の判決を言い渡された…というものでした。

    今回、その後の民事裁判で多額の損害賠償金の支払い命令が出されたという報道がありましたので解説します。

    「犬に襲われ溺死、飼い主に6300万円賠償命令」(2015年2月6日 読売新聞)

    報道によりますと、被害者女性の夫ら遺族4人が受刑者の男を相手取り、損害賠償を求めた訴訟の判決が札幌地裁室蘭支部でありました。

    判決で裁判官は、「土佐犬が危害を加えないよう未然に防止する注意義務を怠り、死亡させた過失は重大」と認定。
    請求通り慰謝料など6300万円の支払いを命じたようです。

    被告側は訴訟で答弁書を提出せず、また遺族である夫の男性は、「刑事裁判後も私たちの心が安まるときはなかった。(判決を)妻の一周忌までには報告したかった」と話したということです。
    過去のブログでも判例を解説しましたが、犬に襲われた女性が転倒して脳挫傷で死亡した事件では、飼い主に5433万円の賠償命令が出されています。
    また、バイクを走行中の男が前方から近づいてきた中型犬を避けようとして転倒し脚を骨折した事件では、飼い主に約1500万円の損害賠償金の支払いが命じられています。

    詳しい解説はこちら⇒
    「犬も歩けば賠償金を払う」
    https://taniharamakoto.com/archives/1343

    「愛犬が隣人をかんで、損害賠償金が1,725万円!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1181
    飼い犬が起こした事件の責任は、飼い主が負うことになります。
    民事では高額な賠償金の支払いを命じられ、刑事では実刑判決を言い渡されて犯罪者になってしまう可能性があるのです。

    そして、飼い主の人に十分注意してもらいたいのは、これらの判例からもわかるように、飼い犬が起こした事件では人をかんだときだけ犯罪となり、賠償請求されるわけではないということです。

    6300万円もの賠償金を支払える人は、どれだけいるでしょう?
    もし支払えなかったら、被害者と遺族はどうやって補償してもらえばいいのでしょうか?
    愛犬が起こした事件で、犯罪者になりたい人はいるでしょうか?

    こうした致死傷罪の事件では、結局いつも、誰もが幸せにならないという後味の悪さが残ります。

    飼い主の男は、愛犬のためによかれと思ってしたであろうことの結果、1人の命がなくなるという重大な事件になってしまいました。
    被害者と遺族の無念は、とても癒されるものではないでしょう。

    すべての愛犬家やペット愛好家は、今一度、飼い犬やペット管理の徹底をすること、そして法律を学ぶことを希望します

    こうした事件、事故で2度と悲劇が繰り返されないように…。

    飢えた犬を拾って手厚く世話してやると、噛み付いてきたりはしない。それが犬と人間の主たる違いだ。 (マーク・トゥエイン)

  • 社労士限定「労働法における企業側反論モデル」勉強会開催

    2015年02月12日

    勉強会

     

    2015年2月10日に、社会保険労務士限定の労働法勉強会を開催しました。

    内容は、「労働法分野における企業側反論モデル」です。

    労働問題は多くありますが、中には、反論のパターンが決まってくるものがあります。

    それを知っていれば、社労士が企業から相談を受けた時に、適切なアドバイスができます。

    そこで、企業側反論モデルに関する勉強会を開催しました。

    活発な意見交換が行われ、有意義な勉強会となりました。

    また、やります!

  • チケット転売で逮捕!?

    2015年02月07日

    クイズです。

    「あさかぜ」「富士」「さくら」「出雲」「つるぎ」「はやぶさ」…さて、これらに共通することは何でしょうか?

    鉄道ファンなら、すぐにわかってしまうかもしれませんが…

    正解はブルートレインの名前です。

    ブルートレインの愛称で根強い人気があった寝台特急は、1970年代後半には、大人のマニアだけでなく小中学生までもがカメラを持って撮影するというブームが巻き起こりました。
    ベッドに食堂車もついたブルートレインに、当時あこがれた読者もいるかもしれませんね。

    しかし、その後、利用客の減少などで次々に廃止されていく中、ついに2009年には東京駅発着のブルートレインは全廃。

    最後に残った「北斗星」(上野駅‐札幌駅)も、今年の3月13日での運行終了が発表され、臨時列車としての最終運行日である8月22日(札幌発)をもって、ついに廃止となる予定だそうです。

    日本のブルートレインは、約60年の歴史の幕を閉じようとしています。
    さようなら、ブルートレイン!

    みなさん、ごきげんよう!
    と、なんだかもう終わりのような感じになってしまいましたが、今回のブログはまだ終わりません。
    ブルートレインに関係する事件が起きたようなので解説します。

    「ダフ屋行為:ブルトレ信州の切符ネットで高額転売」(2015年2月5日 毎日新聞)

    警視庁生活安全特別捜査隊は、JRの臨時快速列車「ブルートレイン信州」の指定席券を転売目的で購入したとして、無職の男(47)ら男女2人を東京都迷惑防止条例違反(常習ダフ屋行為)容疑で逮捕しました。

    報道によると、容疑者の男らは2014年の8月~9月、品川区のJR大崎駅でブルートレイン信州の指定席券4枚を含む切符6枚(3120円)を転売目的で購入した後、インターネットオークションに出品し、神奈川県の男性(53)ら3人に計約11万円で転売していたということです。

    男は、「2013年の夏ごろから(ダフ屋行為を)始め、他にもやった」と容疑を認めているようです。

    ブルートレイン信州は中央線富士見駅(長野県富士見町)の開業110周年を記念し、2014年9月28日に1日だけ運行。
    男は、全国各地で記念切符が発売される際、先頭に並んで購入する「熱心なコレクター」として、鉄道ファンの間で有名だったということです。
    以前、ダフ屋行為について解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「AKB総選挙とダフ屋行為」
    https://taniharamakoto.com/archives/155

    ダフ屋行為の禁止については、東京都内の場合には、「東京都迷惑防止条例」の第2条に規定されています。

    条例ですから、都道府県別に規定されているわけですね。

    ところで、ここに出てくるダフ屋とは、どんな人たちか、ご存じですか?

    野球場やライブ会場の付近で、「チケットあるよ~」とか言って、チケットがなくて入れない人達にチケットを転売している人達のことを言います。

    都道県の各条例では、このダフ屋行為が禁止されています。

    以下に詳しく見ていきます。

    【転売の対象となるもの】
    対象となるのは、乗車券や入場券、観覧券などのチケットです。

    野球やライブの入場券は、該当しますし、今回のブルートレインの乗車券も該当することになります。

    【違反となる転売の目的】
    ①不特定の者に転売する目的
    ②転売目的者に交付する目的

    ダフ屋は、もともと自分で行くつもりはなく、「チケットあるよ~」と不特定の人に転売する目的があるので、これにあたります。

    自分で行こうと思って買ったチケットだけど、行けなくなったので他の人に転売したという経験のある人もいると思いますが、そうした場合は初めから転売目的ではないため、罪には問われないということです。

    今回の容疑者も、自分でブルートレインに乗る目的ではなく、転売目的であった、と認定されたわけですね。
    【違反となる行為】
    転売目的で入手したチケットを「公共の場」あるいは「公共の乗り物」で売る行為についても以下の行為が禁止されています。
    ①売る
    ②うろつく
    ③つきまとう
    ④呼びかける
    ⑤ビラなどを配る
    ⑥展示して売ろうとする

    ちなみに条文では、公共の場とは、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所となっています。

    ダフ屋は、野球場やライブ会場の付近で「チケットあるよ~」と呼びかけているので、④に該当するわけですね。

    【法定刑】
    6月以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
    さて、今回の事件では、容疑者はチケットをインターネットのオークションで売っていました。
    ネットオークションとダフ屋行為は法的には問題となるのでしょうか?

    まず、迷惑防止条例の目的は、公衆に迷惑をかける行為を防止することです。
    そのため、売る行為自体に関しては、ネット上は「公共の場所」でも「公共の乗り物」でもないので違反とはなりません。
    では、なぜ、今回、逮捕されたのでしょうか?

    容疑者は、チケットを大崎駅で買っています。

    実は、東京都迷惑防止条例では、次のような行為も禁止されています。

    転売目的で、「公共の場」あるいは「公共の乗り物」での以下のような行為をすることです。
    ①買う
    ②うろつく
    ③つきまとう
    ④呼びかける
    ⑤ビラなどを配る
    ⑥列に並んで買おうとする

    駅は公共の場です。

    駅で、ブルートレインの乗車券を転売目的で購入すると、この規定に違反することになります。

    よって、東京都迷惑防止条例違反、ということになります。

    そうすると、公共の場で買わなければ、東京都迷惑防止条例違反にはならない、ということです。

    ネットオークションで買って、ネットオークションで売るような場合ですね。

    さて、今回の容疑者は、乗車券を買って、ネットオークションで売っただけですが、なぜ、【転売目的】と認定されたのでしょうか?

    行動だけを見ると、転売目的なのか、自分で行く目的なのか、わからないはずです。

    このあたりは、報道内容だけではわかりません。

    たとえば、過去にも、何度もチケットをネットオークションで出品していると、今回も転売目的ではないか、と推測が働きます。

    また、その時の枚数が多く、今回も6枚と比較的多いと、転売目的の推測が働きます。

    チケット購入からネットオークション出品までが短時間だと、乗車目的ではないのではないか、と推測されますね。

    今は、SNSの時代です。自分でSNSで、「入手困難のチケットを6枚ゲット!欲しい人は売りますよ~」などとつぶやいていると、転売目的バレバレとなります。

    「転売目的」は、あくまで内心のことですから、逮捕の後、転売目的であったことを自白するかどうかがポイントとなるでしょう。

    「えっ!?これって犯罪なの?」

    と思った人も多いかもしれません。

    このブログをよく読んで、十分気をつけて下さい。

    日常に犯罪行為は潜んでいます。

    「1日だけ幸せでいたいならば、床屋にいけ。
    1週間だけ幸せでいたいなら、車を買え。
    1ヵ月だけ幸せでいたいなら、結婚をしろ。
    1年だけ幸せでいたいなら、家を買え。
    一生幸せでいたいなら、正直でいることだ」(イギリスのことわざ)