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解雇問題の金銭的解決実現なるか?


2015年6月19日

地獄の沙汰も金次第、そんなことわざがあります。
どんな問題でもお金で解決できる、という意味で使われますね。

ところで先日、解雇などの労働紛争の金銭解決についての調査結果の報道がありました。
今後、会社と従業員の関係が変わっていきそうな気配です。

そこで今回は、労働トラブルとお金の関係について解説したいと思います。

「<解雇など労働紛争>金銭支払いの解決が9割超える」(2015年6月15日 毎日新聞)

解雇などに関する労働紛争のうち、労働局による「あっせん」、「労働審判」と、「裁判での和解」の計約1500件を調査したところ、金銭の支払いによる解決が9割を超えていたことが厚生労働省の公表でわかりました。

労働局による「あっせん」は、2012年度に4つの労働局が受理した853件を調査。
使用者(会社)側と労働者(従業員)側が合意に至ったのは324件で、全体の約38%。
そのうち313件(96.6%)が金銭の支払いで解決しており、金額の中央値は15万6400円。
労使間の合意が成立するまでの期間は、中央値で1.4ヵ月でした。

「労働審判」は、2013年に4つの地裁が結論を出した452事例を調査。
金銭解決は434事例(96%)で、金額の中央値は110万円。
申立日から審判の終了までの期間は、中央値で2.1ヵ月。

「裁判での和解」は、2013年に4つの地裁で成立した193事例を調査。
金銭による和解は174事例(90.2%)で、金額の中央値は230万円。
民事訴訟の解決までには平均6ヵ月以上かかっているようです。

また、正社員は労働審判や裁判を活用する傾向が強く、非正規労働者は、あっせんを使う割合が高かったということです。

なお、この調査は、2014年に政府が閣議決定した「日本再興戦略改訂2014」で、新たな紛争解決の仕組みとして解雇の金銭解決を制度化するための基礎資料として使われる予定で、厚生労働省は2015年内に制度の骨格をまとめる方針。

一方、労働組合などからは、「解雇を容易にすることにつながる」との反発が出ているということです。
【あっせんと労働審判の違いとは?】
厚生労働省が6月に公表した「平成26年度個別労働紛争解決制度の施行状況」によると、総合労働相談件数は103万3047件で、前年比1.6%減ですが、7年連続で100万件を突破しています。

個別労働紛争の相談内容のトップは「いじめ・嫌がらせ」で6万2191件(21.4%)、2位が「解雇」で3万8966件(13.4%)、3位が「自己都合退職」で3万4626件(11.9%)。
また、労働者からの相談が全体の81.7%、事業主からの相談は10.4%となっています。

労働紛争の解決法には、主に①個別労働紛争解決制度(あっせん等)、②労働審判、③民事訴訟による裁判、があります。

あっせんとは、紛争調整委員会が紛争の当事者間の調整を行い、話し合いを促進することによって、紛争の解決を図る制度です。

対象となるのは、労働条件その他労働関係に関する事項についての個別労働紛争で、募集・採用に関するものは対象になりません。

平成26年度の統計では、助言・指導申出件数は23万8806件で、1ヵ月以内に97.3%が解決。
あっせん申請件数は5010件で、2ヵ月以内での解決は92.0%となっています。

労働審判とは、労働審判官(裁判官)1名と労働関係に関する専門的な知識と経験を有する労働審判員2名で構成された労働審判委員会が、原則として3回以内の期日で審理を行い、適宜調停を試みながら、調停による解決に至らない場合には紛争の実情に即した解決をするための労働審判を行うという紛争解決手続です。

労働審判手続によって労働紛争が解決しない場合には、訴訟手続に移行する点に大きな特色があります。
【金銭解雇の制度化は成立するのか?】
ところで、今回の報道にある「日本再興戦略改訂2014」とは何かというと、アベノミクスによる経済の成長戦略を一過性のもので終わらせずに持続させるための改革案ということのようです。

2014年6月に閣議決定され、その後、「労働市場改革」、「農業の生産性拡大」、「医療・介護分野の成長産業化」など規制改革にフォーカスして議論を重ね、1年後の今月に新たな答申をまとめ、これが公表されています。

保険調剤薬局の営業を病院内でもできるように医薬分業を規制緩和することや、税金が低く抑えられている農地(耕作放棄地)への課税強化などとともに提言されたのが、労働者の解雇の金銭解決です。
実際、アメリカなどの諸外国では解雇された従業員が裁判で争い、「解雇は無効」という判決が出た後、職場に戻る代わりに金銭を受け取る仕組みがあり、こうした制度も参考にしながら、経済界、産業界が硬直した雇用市場を改善するために解雇の金銭解決の制度化を求めていました。

実際問題として、私は多くの労働紛争を解決してきましたが、解雇された従業員が「解雇無効だ!」と会社を訴え、1年後に解雇無効の判決を勝ち取ったからといって、もう裁判を争った会社には戻りたくないし、会社の方でも戻って欲しくない、と思っているケースが大半なわけです。

そうだとすると、解雇の問題を金銭で解決しよう、というのは、それなりの合理性を持っていると言えます。

報道にもあるように、労働者から見ると、あっせんは短期間で解決しますが、手にする金額は低くなります。
対して、裁判では時間と費用がかかりますが和解金も高くなるという傾向があります。

政府は、こうしたバラツキをなくし、解雇問題の金銭解決の方法を知らない労働者の「泣き寝入り」を防ぐためにも、また経営者側に対しては解雇紛争の決着の仕組みを明確にできるメリットがあることからも、新制度を導入して利用しやすくするという目的があるとしています。

一方で、新制度が導入された場合、解雇数が増大するという懸念もあり、厚生労働省は5月末の段階では一旦、新制度導入については見送るとしていました。
ところが、今月に入って政府の規制改革会議が2015年内での検討再開を安倍晋三首相に提言したということです。

確かに、現行の労働関係法では社員は守られているため、会社は簡単に解雇をすることはできません。
いわゆる問題社員を解雇したくても、なかなかできないという問題を抱えている企業も増加しています。

また、2013年には解雇を巡る裁判が966件提訴され、そのうち195件で解雇無効が確定していますが、裁判で不当解雇との判決が出ても、結局は職場にいづらくなって会社を辞めてしまう労働者も多くいます。

私は、個人的には賛成なわけですが、労働者に不当に不利益がおよばないよう、労働者側の意見もよく聞いて、制度化していただきたいと思います。

そして、もし、トラブルになったら・・・・

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仕事中の待機時間に賃金は発生するのか?


2015年5月22日

「路線バス折り返しの待機中は“労働時間” 福岡地裁判決」(2015年5月20日 朝日新聞デジタル)

北九州市営バスの嘱託運転手14人が、路線バスの終点到着後、折り返し運転で発車するまでの待機時間の賃金支払いを求めた訴訟の判決が福岡地裁でありました。
原告側が2012年に提訴していたものです。

原告側は、「待機中も忘れ物の確認や車内清掃、乗客の案内をしており、労働から解放された休憩時間にはあたらない」と主張し、「待機時間も労働時間にあたる」として2年間の未払い金を請求。

一方、市側は「バスから離れて自由に過ごすことが許されている。休憩時間中に乗客対応をすることは求めていない」と主張。

裁判長は、「待機中も乗客に適切に対応することが求められており、労働時間にあたる」と認定。
市に対し、2010~11年分の未払い賃金として1人あたり約36万~120万円、計約1241万円を支払うように命じました。

市長は、「大変厳しい判決。内容を早急に検討し、今後の対応を決めたい」とのコメントを発表したということです。
さて労働時間については、「労働基準法」に定められています。
条文を見ながら解説していきます。

【労働基準法とは?】
労働基準法とは、会社に比べて立場の弱い労働者の保護を図る目的で制定されたもので、会社が守らなければいけない最低限の労働条件などを定めた法律です。
【労働時間とは?】
労働時間とは、休憩時間を除いた、現に労働させる時間(実労働時間)のことで、これには規定があります。

「労働基準法」
第32条(労働時間)
1.使用者は、労働者に、休憩時間を除き1週間について40時間を超えて、労働させてはならない。
2.使用者は、1週間の各日については、労働者に、休憩時間を除き1日について8時間を超えて、労働させてはならない。
これを、「法定労働時間」といいます。
仮に、会社が法定労働時間外の勤務を従業員にさせた場合、「割増賃金」として残業代などを払わなければいけません。
【休憩時間とは?】
会社が従業員に自由に利用させなければいけないもので、これにも規定があります。

第34条(休憩時間)
使用者は、労働時間が6時間を超える場合においては少くとも45分、8時間を超える場合においては少くとも1時間の休憩時間を労働時間の途中に与えなければならない。
【労働時間と休憩時間の違いとは?】
法令の所轄行政官庁の具体的判断、または取扱基準として発せられるものに「行政解釈」というものがあります。

たとえば、労働基準法に関するものであれば、厚生労働省から労働局や労働基準監督署に対して通達されるため、一般に「通達」とも呼ばれます。

過去の行政解釈に以下のものがあります。

「休憩時間とは、単に作業に従事しない手待時間を含まず、労働者が権利として労働から離れることを保障されている時間をいう」
(昭和22年9月13日 発基17)

これは、実際には作業を行っていなくても、使用者からいつ就労の要求があるかわからない状態で待機している場合は、休憩時間に含まれず、労働時間になるということです。

次に、労働時間に関する判例を見てみましょう。

「労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、右の労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんにより決定されるべきものではない」
(三菱重工業長崎造船所事件 最高裁一小平成12年3月9日民集54巻3号801頁)

つまり、労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間は労働時間になるということです。

なお、使用者の指揮命令は明示だけではなく、黙示の場合も含みます。
具体的には、業務の準備、後片付け、事業所の掃除などが義務づけられているならば指揮命令下にある時間となりますし、休憩時間中の電話番や店番なども、労働から解放されているわけではありませんので、使用者の指揮命令下にある時間と評価でき、労働時間にあたると考えられます。
【労働時間と認められる業務について】
以上のことからなど、労働時間にあたると考えられる業務についてまとめます。

・業務の準備、着替え、後片付け、事業所の掃除が義務づけられている場合。
・休憩時間中の電話番や店番など。
・所定労働時間外の社内研修等の参加時間(出席が義務づけられている場合や、実質的に出席の強制があると思われる場合)。
・仮眠時間(警備の業務に従事している労働者が、仮眠中でも警報が鳴った場合等には直ちに業務に就くことを求められているような場合など)。
よって、今回の訴訟のケースでは、バスの運転手が待機時間に行っていた業務、たとえば忘れ物の確認や車内清掃、乗客の案内などは、「労働者が使用者の指揮命令下に置かれた時間」=「労働時間」にあたると判断されたということです。

会社は、従業員の労働時間と休憩時間をきちんと管理しなければいけないことは肝に銘じておきましょう。

労使双方の行き違いやコミュニケーション不足、または労働法に関する知識の不足など、労働問題の原因はさまざまですが、労働時間については法律でしっかり定められているのですから、会社も従業員も、この機会に労働法をしっかりと覚えて、仕事にも生かしていただきたいと思います。

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会社の1億円の損害より1,000円のネコババの方が重い?


2014年12月28日

社員のミスによって会社に損害が生じてしまうことはよくあることです。

もっとも、その損害が多額である場合、例えば会社に1億円の損害がでてしまったとしましょう。会社は、ミスをした社員を即刻クビ、すなわち、懲戒解雇したいと考えるでしょう。

しかし、会社に巨額の損失が生じてしまったというだけで直ちに懲戒解雇してしまうと、実は、解雇が無効(つまり、クビにできない)であるとされてしまう可能性が高いのです。

そうであるにもかかわらず、不用意に懲戒解雇してしまうと、会社は、社員が変わらずに会社に在籍していたものとして解雇がなかったのと同様の給料を支払わなければならず、解雇したことによってかえって会社が損をしてしまうということになりかねないので、注意が必要です。

有効に懲戒解雇するためには、解雇することが、社員の行為の性質・態様等に照らして社会通念上相当なものである必要があります。

そして、社員のミスによって会社に損害が生じたことを理由に懲戒解雇することが社会通念上相当なものであるかは、会社の事業の性格、規模、社員の業務の内容、労働条件、勤務態度、ミスの態様、ミスの予防若しくは損害の分散についての会社の配慮の程度といった事情を考慮して総合的に判断されます。

そもそも、社員のミスは、もともと企業経営の運営自体に付随、内在化するものであって、業務命令自体に内在するものとして会社がリスクを負うべきであると考えられています。

「その仕事を、その社員ができるものと判断して任せた会社の判断ミスでしょう」

と言われるのです。

したがって、会社の損害が巨額であったというだけでは、懲戒解雇することが社会通念上相当であるとされる可能性は低いでしょう。

懲戒解雇が有効となるには、社員が度重なる注意にもかかわらずミスを繰り返した結果損失が巨額となったなど、社員のミスが悪質な態様の場合に限定されるでしょう。

これに対して、会社の損害は1,000円だけであるが、社員がスーパーのレジからお金をネコババしたような場合はどうでしょうか。

横領は、企業秩序を乱すことはもとより、財務面で会社の存立を危うくさせるおそれをはらむものであり、重大な企業秩序違反です。

会社の損害は1,000円だけですが、スーパーなどの小売業は日銭で回っていますから、たとえ1,000円であっても、会社は社員を懲戒解雇することができると考えられます。

先ほどのミスが「過失」に基づくものであるのに対し、1,000円のネコババは、窃盗罪という立派な犯罪であることも違いますね。

裁判例においても、例えば、タクシーのメーターの不倒行為やバス運転手の運賃手取り行為は、会社の収入源を奪う極めて重大な企業秩序違反行為として、解雇が有効と判断されています。

このように懲戒解雇することができるかどうかは、会社の損害の金額だけでなく、さまざまな事情を考慮して判断しなくてはなりませんので、懲戒解雇するにあたっては慎重な検討が必要です。

懲戒解雇をする前には、必ず顧問弁護士に相談することをおすすめします。

みらい総合法律事務所へのご相談は、こちら。
http://roudou-sos.jp/

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