交通事故 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 2
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  • TBSテレビ「いっぷく」出演

    2014年07月17日

    2014年7月16日のTBSテレビ「いっぷく」に出演しました。

    内容は、最近の飲酒運転による悲惨な事故に関し、法律改正(自動車運転死傷行為処罰法など)は効果を発揮しているのか、どうすれば飲酒運転をなくすことができるのか、という点について、交通事故の専門家としてコメントを求められたものです。

    飲酒運転による悲惨な事故がなくなることを祈ります。

  • TBSテレビ「ひるおび」生出演

    2014年07月17日

    2014年7月15日のTBSテレビ「ひるおび」に生出演しましした。

    最近、頻発する脱法ハーブによる事故やひき逃げ事故について、これまでの事故に関する法律改正状況(道路交通法、刑法、自動車運転死傷行為処罰法)を解説するとともに、どうすれば同様の事故が防げるか、などについて解説をしました。

  • 危険運転はなくならない!?-自動車運転死傷行為処罰法施行1ヶ月

    2014年06月29日

    危険・悪質な運転による死傷事故を厳罰化するために新設された「自動車運転死傷行為処罰法」が施行されて1ヵ月が経ちました。

    「自動車運転死傷行為処罰法」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1236

    この度、警視庁がまとめた1ヵ月の摘発状況が公表されたのですが、果たして、どのような結果だったのでしょうか?

    「新規定で18件摘発=悪質事故厳罰化1カ月―警察庁」(2014年6月26日 時事通信)

    警察庁の発表によると、自動車運転死傷行為処罰法の施行から1ヵ月間の摘発状況をまとめたところ、18件に適用されたということです。

    内訳は、「アルコール、薬物、病状の影響で運転に支障が生じる恐れを認識していた危険運転致死傷罪」が最多の8件、「通行禁止道路を進行した危険運転」が1件、「アルコールや薬物の影響の発覚を免れようとする免脱罪」は6件、さらに、これらの違反者が「無免許運転だった場合の罰則の加重」は3件あったとしています。

    そもそも、自動車運転死傷行為処罰法は、栃木県鹿沼市で起きた、てんかん患者の運転手の発作により小学生6人をはねて死亡させた「鹿沼市クレーン車暴走事件」(2011年4月)や「京都祇園軽ワゴン車暴走事故」(2012年4月)、無免許・居眠り運転が原因で起きた「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」などの重大事故の遺族の方などが危険運転の罰則の見直しを望んだことから世論の後押しもあって新設されたものです。

    しかし、単純計算すると、この1ヵ月では40時間に1件の割合で、危険・悪質事故が起きたことになります。

    先日、発生した脱法ハーブに絡んだ池袋の死傷事故など、依然として危険・悪質事故は絶えません。
    詳しい解説はこちら⇒「脱法ハーブで危険運転致死傷罪か!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1530

    新しい法律を作っても、それを国民に広く知らしめなければ、抑止効果は薄いと思います。

    今回の自動車運転死傷行為処罰法の施行については、国民に対する告知が足りないように感じています。

    危険な運転をすると、いかに重い処罰を受けることになるのか、広く国民に知ってもらい、少しでも悲惨な事故が減少するよう祈ります。

  • 軽傷のひき逃げで懲役15年!?

    2014年04月16日

    「後悔先に立たず」、「後の祭り」、「死んだ子の年を数える」「臍(ほぞ)を噛む」……同じような意味で使われることわざですが、なんだか文字を見ているだけで、つらい気分になってきます。

    人間、誰しも失敗や過ちを犯すことがあります。

    しかし、失敗や過ちをそのままにしておく、または隠蔽したり、そこから逃げてしまっては、傷口がさらに広がってしまったり、最終的には取り返しのつかないことになりかねません。

    まさに、ことわざ通り「後の祭り」にならないためには、冷静な判断と対応が大切です。

    ところが、気が動転していたのでしょうか? それとも単に怖くなって逃げたのでしょうか? その場しのぎでやった行為が、後で大きな代償を払うことになってしまった事件が起きてしまいました。

    <「保険に入ってなかった…」女児ひき逃げで男を逮捕>(2014年4月1日 テレビ朝日ニュース)

    千葉県我孫子市の交差点で、近くに住む小学生の女の子(10)が横断歩道を渡っていたところ、軽自動車にひき逃げされました。

    警察は、現場に残された車の破片などを分析。犯人の行方を追っていたところ、車を運転していた自称・会社員の男(32)が警察署に出頭し、逮捕されたということです。

    男は、「任意保険に入ってなかったので逃げた」「女の子が動いていたので、大したことはないと思った」と話しているようです。なお、女の子は救急搬送されましたが、あごを打つなどで軽傷とのことです。

    報道からは、逮捕容疑が何なのか分かりませんが、おそらくこの男は、「自動車運転過失致死傷罪」と、「ひき逃げ」による道路交通法違反(救護義務違反)の併合罪となるでしょう。

    自動車運転過失致死傷罪は、以下の条文に規定されます。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)
    2.自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。(以下省略)

    「ひき逃げ」とは、車両を運転中に人身事故を起こした際、必要な措置を講じずに事故現場から逃走する犯罪行為をいいます。

    ちなみに、人の死傷をともなわない事故の場合は「当て逃げ」となります。これには、物損事故、建造物損壊、他人のペットなども含みます。

    「道路交通法」第72条
    1.交通事故があつたときは、当該交通事故に係る車両等の運転者その他の乗務員(以下この節において「運転者等」という。)は、直ちに車両等の運転を停止して、負傷者を救護し、道路における危険を防止する等必要な措置を講じなければならない。(以下省略)

    人身事故を起こしてしまったら、運転者や同乗者は次のことを「義務」として行わなければ、罰せられます。

    ①直ちに運転を停止する義務
    ②負傷者の救護義務(安全な場所への移動、迅速な治療など)
    ③道路上の危険防止の措置義務(二次事故発生の予防)
    ④警察官への報告義務(事故の発生日時、死傷者、物損状況など)
    ⑤警察官が現場に到着するまで現場に留まる義務

    これらの義務違反をした場合、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第117条1項)

    さらに、人身事故での被害者の死傷が運転者の運転に原因がある場合に義務違反をしたときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。(第117条2項)

    実際、今回の事故の場合、被害者の女の子は軽傷なので、民事での賠償金は、おそらく最高でも数十万円というところでしょう。また、事故後に、しっかり対応していれば自動車運転過失致死傷罪で立件されない可能性が高いと思います。

    しかし、現場から逃げてしまったばかりに、自動車運転過失致死傷罪と、ひき逃げによる救護義務違反の併合罪となり、場合によっては最高刑で懲役15年にもなってしまう可能性があるということです。

    おまけに、テレビや新聞、ネットで全国ニュースにもなってしまうのですから、人生において大きなダメージを受けることにもなりかねません。

    やってしまったこと、起こってしまったことは消すことができません。しかし、その後の判断と対応で人生が大きく変わってしまう可能性があります。

    まずは、車を運転する際は細心の注意を払いましょう。
    仮に被害者が軽傷で、略式起訴の罰金刑になったとしても、前科一犯に変わりはありません。

    万が一、事故を起こしてしまった場合には、逃げない、うそをつかない。けが人がいれば、救護や連絡などの義務を果たす。

    そうでないと、罪の上にさらに罪を重ねてしまうことになります。

    ハンドルを握るときは、つねにこれらのことを肝に銘じておいてほしいと思います。

    後悔は、先には立ちません。

    先立つものは、カネ・・・、間違えました!

    先に立てるのは、「己を律する心」ということですね。

  • 自動車で人を死亡させて、たった100万円払えば許される!?

    2014年01月07日


    2013年1月、乗用車で男性をはねて死亡させたとして書類送検された、横手(旧姓千野)志麻元フジテレビアナウンサー(36)に昨年12月27日、罰金100万円の略式命令が出されました。

    報道によると、静岡県沼津市のホテル駐車場で看護師の男性(当時38歳)をはねて死亡させた千野アナは、2013年2月に自動車運転過失致死の疑いで沼津署により書類送検。

    同年12月27日、静岡区検は自動車運転過失致死罪で略式起訴。静岡簡裁が罰金100万円の略式命令を出し、千野アナは即日納付したということです。

    自動車で人をはね、死亡させたのに罰金がたったの100万円!? と疑問に感じる人もいると思うので、法律的に解説をしましょう。

    交通事故を起こした場合、①刑事手続き②民事手続き③行政手続き、という3つの手続きが発生します。これらの手続きは、それぞれ別個に進んでいきます。

    「刑事手続き」
    交通事故を起こしたとき、加害者には以下のような刑事処罰が科せられる場合があります。

    1. 自動車運転過失致死傷罪
    2. 危険運転致死傷罪
    3. 道路交通法違反罪

    今回の事故の場合、過失による致死ということで「自動車運転過失致死罪」で略式起訴されたわけです。

    「刑法」第211条(業務上過失致死傷等)2項
    自動車の運転上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、7年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。

    正式に起訴されず罰金だけ科す場合を略式起訴といいます。
    今回のケースでは、過失がスピード違反や飲酒運転、赤信号無視という大きなものではなかったため略式起訴になったと考えられます。

    以上は、刑事手続についてです。

    しかし、これで終わりではありません。

    100万円だけで終わりになることはないのです。

    なぜなら、被害者の補償、つまり「民事手続き」が別で発生するからです。

    交通事故を起こすと、加害者(運転者)は、被害者に対して不法行為が成立し、被害者が被った損害を賠償しなければならない義務が発生します。

    賠償の対象となる損害は、人身損害と物損害があり、手続としては、示談により解決する場合と調停や訴訟により解決する場合があります。

    加害者が賠償金を支払う場合、加入している自賠責保険や任意保険によって保険会社から支払われます。

    法により加入が義務つけられている自賠責保険では、被害者死亡の場合、最高3,000万円、重度の後遺障害の場合は最高4,000万円が支払われます。

    しかし、それだけでは被害者への賠償が足りないことが多く、損害保険会社による任意の自動車保険に加入している人が多くいます。

    賠償金額は、被害者が将来得られたはずの生涯賃金から算出されます。一般的には数千万円から、年収の多い人の場合は1億円を超えるまでになります。
    「行政手続き」
    運転者が道路交通法規に違反している場合には、違反点数が課せられます。違反点数が一定以上になると、免許取消や免許停止、反則金等の行政処分を受けることになります。

    行政手続も、刑事事件や民事事件とは全く別個に進行します。つまり、行政処分を受けて反則金を支払ったからといって、刑事処分を免れるわけではないということです。

    以上のように、仮に死亡事故を起こしてしまった場合、刑事罰の罰金100万円だけでは済まないのです。

    ちなみに、日本損害保険協会の資料によると、任意の自動車保険への加入率は、対人賠償保険73.1%、対物賠償保険73.1%、搭乗者傷害保険45.1%、車両保険42.1%となっています。(平成24年3月末現在)

    この統計から見えてくるのは、対人賠償保険に加入していない3割弱の人が死亡事故の加害者になった場合、数千万円にもおよぶ賠償金をどうやって支払うのか。また同時に、被害者の3割弱は損害賠償金を得られない事態が発生する可能性があるということです。

    交通事故では、いつ加害者・被害者になるかわかりません。

    転ばぬ先の大きな杖として、運転者は任意保険の無制限に加入しておくべきでしょう。

    また、自分の身は自分で守るためにも、自分の自動車保険に、「無保険者傷害特約」や「人身傷害補償特約」をつけておくことは仮に被害者になった場合、有効な手段だと言えます。

  • 時速40キロで危険運転致死傷罪!?


    今年9月、京都府八幡市で自動車が集団登校中の児童の列に突っ込み、5人が重軽傷を負った事件で、京都地検が「自動車運転過失傷害罪」で起訴した派遣社員の少年(19)について、「危険運転致傷罪」に訴因を変更するよう京都地裁に請求しました。

    なぜ危険運転致死傷罪の適用が可能となったのか? まずは、事件の経緯を見ていきましょう。

    報道によると、9月24日午前7時55分頃、当時18歳だった少年が自動車を運転中、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速してスリップ。

    歩道の柵をなぎ倒し、集団登校中だった小学生13人の列に突っ込み、スポーツカーはそのまま民家に激突。

    少年は昨年、2012年10月に自動車免許を取得したばかりで、すぐに親から車を買い与えられていたようです。

    父親は、「身の丈にあったものにしろといったが、本人は車関係の仕事に就きたいという思いもあり、小さい頃からの夢だった車を購入した。あこがれがあったと思う」と話しているといいます。

    自宅近所や事故現場付近では、少年がスピードを出したり、後輪をすべらせるドリフト走行など危険な運転を繰り返しているのがたびたび目撃され、その無謀運転は近所の人の間では有名だったようです。

    現場は以前にも事故が起こっていて、市に対してガードレールの設置要望をしていた市民もいたようで、事故直後は小学生たちが泣き叫ぶ声が響き、騒然とした空気に包まれていたといいます。

    少年は当初、自動車運転過失傷害容疑で現行犯逮捕されましたが、京都地検が危険運転致傷の非行事実で京都家裁に送致。しかし、家裁は自動車運転過失傷害の非行事実に切り替えて逆送し、地検も同罪で起訴していました。

    ところが、起訴後の調査で交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明。

    危険運転致傷罪の規定のひとつである、「進行を制御することが困難な高速度で自動車を走行させる行為」にあたると判断したとみられます。
    昨年から、京都では暴走車が通行人に死傷を負わせる交通事故が頻発しています。

    「京都祇園軽ワゴン車暴走事故」
    2012(平成24)年4月12日、京都市祇園で起きた暴走車による8名が死亡し、11人が重軽傷を負った事故。事故原因は、運転者男性の持病のてんかん発作によるものであるとされた。

    「亀岡市登校中児童ら交通事故死事件」
    2012(平成24)年4月23日、京都府亀岡市で当時18歳だった少年が運転する軽自動車が、小学校へ登校中の児童と引率の保護者の列に突っ込み、計10人がはねられて3人が死亡、7人が重軽傷を負った事故。事故原因は、少年の遊び疲れと睡眠不足による居眠り運転とされ、2013年9月30日、大阪高等裁判所は一審判決を破棄し、懲役5年以上9年以下の不定期刑を言い渡し、検察・弁護側双方が上告しなかったため、この判決が確定した。

    今回の事故の訴因変更請求は、悪質運転による死傷事故の罰則を強化する新法「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」が参院本会議で全会一致により可決・成立した矢先のことでした。

    さて、この事故について、「自動車運転過失傷害罪」から罰則の重い「危険運転致傷罪」へ変更される可能性はあるでしょうか?

    先にも書いたように、交差点への進入速度が時速40キロ以上だったことが判明したことが大きなポイントです。

    しかし、時速40キロでの事故は、日常的に起こる事故であって、珍しいことではありません。

    では、どうして時速40キロが重要なポイントとなるのでしょうか?

    危険運転致傷罪の「進行を制御することが困難な高速度」とは、速度が速すぎるため、道路の状況に応じて進行することが困難な状態で自動車を走行させることを言います。

    条文では、具体的に「速度●●キロ以上」と決まっているわけではありません。

    具体的な道路の道幅や、カーブ、曲がり角などの状況によって変わってくるし、車の性能や貨物の積載状況によっても変わってきます。

    ということは、高速道路であれば、時速100キロであっても進行を制御することが困難とは言えませんが、曲がりくねった細い道路では、時速40キロであっても「進行を制御することが困難」となりうる、ということです。

    今回の事故では、T字路を左折して府道に入ろうとした際、急加速して40キロに至った、ということですので、道路状況を合わせて考えると、40キロであったとしても、「進行を制御することが困難」であると判断したということでしょう。

    さて、検察は勝てるでしょうか。

    弁護側は、

    「40キロも出ていない。当時の速度を測定することは不可能である」

    「T字路を左折する際にアクセルを踏んだのはブレーキと踏み間違えたからである」

    「40キロでも進行制御は十分可能であるが、運転操作を誤っただけである」

    など、いろいろな反論をしてくるはずです。

    裁判の動向を見守りたいと思います

     

  • ひき逃げが殺人罪に!?

    2013年12月26日


    自動車運転に関する事故で、ひとつのケーススタディともいえる事件が発生したので、解説しておきたいと思います。

    「職務質問した警察官をひき逃げ 容疑の男逮捕」(埼玉新聞)

    埼玉県川口市で、職務質問した警察官が車にひかれて重傷を負った事件で、川口署は12月17日、無職の男(31)を公務執行妨害と殺人未遂の疑いで逮捕しました。

    報道によると、川口市の住宅街のT字路付近で「車が中央寄りに止まっている」との通報があり、署員2名が現場に直行。

    男性巡査(30)が運転手の男に職務質問したところ、男は突然、車を急発進。転倒した巡査の脚をひき、そのまま逃走していたようです。

    男は「ひき殺そうとはしていない」として容疑を否認しているということです。

    まず、この事件の逮捕容疑について確認しましょう。

    公務執行妨害と殺人未遂です。

    「刑法」第95条(公務執行妨害)
    ①公務員が職務を執行するに当たり、これに対して暴行又は脅迫を加えた者は、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。

    巡査の職務質問という公務に対して、男は車を発進させて、巡査の脚をひくという「暴行」を加えて「妨害」したので、これは公務執行妨害になります。

    ちなみに、職務質問を受けて、答えるのを拒否したり、ただ逃げただけでは公務執行妨害にはなりません。

    なぜなら、公務執行妨害罪の要件である「暴行または脅迫」がないためです。

    次に殺人未遂について考えてみましょう。

    「刑法」第199条(殺人罪)
    人を殺した者は、死刑又は無期もしくは5年以上の懲役に処する。

    今回は、ひかれた巡査は死んでないので、未遂罪です。

    車でひき殺そうとしたが、未遂に終わった容疑ということです。

    ところで、ここでひとつ疑問が出てきます。

    自動車運転によって人を死傷させた場合の刑罰には、「自動車運転過失致死傷罪」(刑法211条2項)と「危険運転致死傷罪」(刑法第208条の2)がありますが、今回はなぜこれらの容疑ではなかったのでしょうか?

    報道内容からだけでは詳細はわかりませんが、おそらく「未必の故意」が疑われたのではないかと思われます。

    刑法上の重要な問題のひとつに「故意」と「過失」があります。

    「故意」とは、結果の発生を認識していながら、これを容認して行為をすることで、刑法においては「罪を犯す意思」のことをいいます。

    一方「過失」は、結果が予測できたにもかかわらず、その予測できた結果を回避する注意や義務を怠ったことです。
    では、どのような場合に故意が認められ、または過失が認められるのか?
    その境界線のように存在するのが「未必の故意」です。

    ある行為が犯罪の被害を生むかもしれないと予測しながら、それでもかまわないと考え、あえてその行為を行う心理状態を「未必の故意」といいます。

    容疑者の男は、100%巡査を殺そうとして車を発進させたのか、たんなる不注意だったのか。

    それとも、死ぬ確率は100%ではないが0%でもなく、死ぬかもしれないが「それでもかまわない」と思ってアクセルを踏んだのか、ということです。

    殺人罪の未必の故意があれば、殺人罪となります。

    ただ、このようなケースで「死んでも構わない」とまで思っているケースはそれほど多くありません。

    そうすると、殺人罪の故意がない、ということになりそうです。

    では、何罪が成立するのでしょうか?

    「死んでも構わない」とは思っていなかったとしても、今回のケース、「怪我をするかもしれないが、それでも構わない」くらいには思っていたかもしれません。

    そうすると、「怪我をさせる故意あるいは未必の故意」があったことになりますので、傷害罪になりそうです。

    「刑法」第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

    ちなみに以前、ある知人で「未必の故意」を「密室の恋」だと思っていた人がいました。

    危険なにおいがします……

    さらには、「未筆の恋」だと思っていた人もいました。

    ラブレターを書く前に終わった恋ということでしょうか……

    「過失の恋」になると、人違いのようになってしまいます・・・。

    それはともかく、素手の場合、殺人も傷害も大変なことですが、自動車の場合には、ちょっとアクセスを踏むだけで実現できてしまいます。

    便利な反面、いつでも凶器になりうる危険なものです。

    事故が予測できるにもかかわらずアクセルを踏むなど、言語道断。

    冷静な判断をもってハンドルを握ることを、いつでも肝に銘じておくことが大切です。

     

  • 子供が起こした事故の高額賠償金、あなたは支払えますか?

    2013年12月03日


    過去、こんな相談を受けたことがあります。

    「息子(小3)が通う小学校で、“事件”が起きた。

    それは、社会科見学に出発する前、体育館に3年生が全員集合しているときだった。

    一列に座って並んでいた待機中、A君の後ろにいたB君がちょっかいを出してからかった。

    怒ったA君は、カッとなり持っていた水筒をB君に向けて投げつけた。
    B君は、それをヒョイッとかわした。すると水筒がB君の後ろにいたC君の顔面を直撃。

    それまでC君は、そのまた後ろのD君の方を向いて話していたのが、D君に促されて、ちょうど前を向いた瞬間、自分めがけて水筒が飛んできたのだそうだ。

    C君は前歯4本を折って流血し、病院へ緊急搬送。

    単純には決めつけられないけれど、この問題、一体誰の責任なのだろう?

    A君、B君、教師、学校、親……。あれこれ考えたら、怖くなってきた」

    子供同士のささいなケンカから起こった事故とはいえ、大けがをしていることで親御さんとしては、いろいろと考えるところがあったようです。

    学校(保育所)の管理下における事故、災害では、通常、学校が加入している日本スポーツ振興センターから災害共済給付金(医療費、障害・死亡見舞金)が支払われます。

    学校の管理下とは、授業中(保育所における保育中を含む)、部活動や課外授業中、休憩時間(始業前、放課後を含む)、通学(通園)中をいいます。

    ただ、この給付金では、損害賠償額を全て賄うには足りないことが多いでしょう。

    そうなると、足りない慰謝料などは、誰に請求すればよいでしょうか?

    考えられるのは、水筒を投げたA君、A君の親、学校、などが考えられるでしょう。

    ただ、A君はまだ小学3年生です。賠償金を支払う資力があるとは思えません。

    そこで、A君の親は、どうでしょうか?

    法的には、未成年者の損害賠償責任については、その未成年者に物事の是非善悪を理解する能力がある場合には、その未成年者本人が賠償義務を負い、その能力がない場合には親などが責任を負う、とされています。

    そして、その能力は、11~12歳くらいが境界線とされています。

    今回のA君は、小学校3年生ですので、おそらく責任能力が否定されて、親の責任が問われることになるでしょう。

    また、学校は親に代わって子供を監督する立場であるため、代理監督者責任があります。

    教職員の故意または過失によって生じた事故では、その使用者として学校が損害賠償義務を負うことになります。

     

    親の「監督者責任」が問われれば多額の損害賠償金を支払わなければいけない場合も

     

    じつは近年、子供が起こした事故で、親が多額の損害賠償を求められるケースが増えています。

    多額の損害賠償が求められるということは、被害者に重大な障害が残ったり、死亡したり、というケースです。

    どのような状況か、というと、多いのが、自転車による事故です。

    親の監督責任は別として、未成年者による自転車事故で、多額の賠償金が認められた裁判例を挙げてみましょう。

    ・歩道上で信号待ちしていた女性(当時68歳)に、当時17歳が運転する自転車が右横から衝突。女性は大腿骨頚部骨折を負い、後遺障害8級の障害が残った。賠償金額は約1,800万円。親の監督責任は否定された。
    <平成10年10月16日 大阪地裁判決 交民集31巻5号1536頁)>

    ・白線内を歩行中の女性(当時75歳)が電柱を避けるために車道に出たところ、対向から無灯火で進行してきた14歳の中学生の自転車と衝突。女性は頭部外傷で、後遺障害2級の障害が残った。賠償金額は3,124万円。親の監督責任は否定された。
    <平成14年9月27日 名古屋地裁判決 交民集35巻5号1290頁)>

    ・赤信号で交差点の横断歩道を走行していた男子高校生が、男性(当時62歳)が運転するオートバイと衝突。男性は頭蓋内損傷で13日後に死亡。賠償金額は4,043万円。親の監督責任は求めなかった。
    <平成17年9月14日 東京地方裁判所・自保ジャーナル1627号>

    ・15歳の中学生が日没後、幅員が狭い歩道を無灯火で自転車走行中、反対側歩道を歩行中の男性(当時62歳)と正面衝突。男性は頭部を強打して死亡。賠償金額は約3,970万円。母親の監督責任は否定された。
    <平成19年7月10日 大阪地裁判決 交民集40巻4号866頁>

    ・男子高校生が自転車横断帯のかなり手前から車道を斜めに横断。対向車線を自転車で直進してきた男性会社員(当時24歳)と衝突。男性は言語機能の喪失等、重大な障害が残った。賠償金額は約9,266万円。親の責任は求めず親が支払約束したと請求したが、請求は棄却した。
    <平成20年6月5日 東京地方裁判所判決・自保ジャーナル1748号>

    こうした中でも、今年7月に自転車事故を起こした少年(11歳)の母親に約9,500万円の損害賠償命令が出された、神戸市の自転車事故のケースは大きな話題になりました。

    平成20年9月22日、神戸市の住宅街の坂道で当時11歳の少年がマウンテンバイクで走行中、知人と散歩をしていた女性に正面衝突。
    女性は頭を強打し、意識不明のまま現在も寝たきりの状態が続いているとのことです。

    世間では、この金額に対して賛否両論の意見がありました。

    確かに、金額だけを見れば驚く人も多いでしょうが、被害者の状況と過去の裁判例から見ていけば、高額すぎる金額ではありません。

    この女性は散歩をしていただけです。そして、突然自転車に衝突され、寝たきりになってしまいました。

    人生を狂わされた慰謝料もあるでしょう。今後働いて得られたはずの収入もあるでしょう。寝たきりであれば、介護費用の負担もあるでしょう。

    それを考えると、損害額は1億円を超えてもおかしくはありません。

    それらを、この女性が負担すべきか、というと、それはあまりに酷というものです。

    しかし、これほどの金額になると一般の家庭では簡単に支払えるものではないでしょう。

    加害者である子供の親が自己破産してしまえば、被害者は賠償金を回収できなくなってしまいます。これからも続くであろう介護の費用は、どうすればいいのでしょうか?

    交通事故では、結局、被害者も加害者もお互いが不幸な結果になってしまうことも多いものです。

    自転車については、自動車の自賠責保険のような強制保険制度がありません。

    また、自転車事故における任意保険制度もとても脆弱です。

    火災保険や自動車保険、傷害保険の特約でつけられる場合がありますが、知らない方も多いのではないでしょうか?

    これ以上、不幸を繰り返さないためにも、自転車の強制保険や任意保険の整備は急務でしょう。

    そして、まずは子供たちに対して、交通事故の怖さや自転車の危険性を教育していく「親としての責任」について、大人がきちんと理解し自覚する必要があると考えています。

  • こんなことで逮捕とは…ブレーキなし自転車(ピスト)で全国初逮捕


    ブレーキなしの自転車運転で全国初の逮捕者が出てしまいました。

    警視庁交通執行課は11日、後輪にブレーキがついていない自転車を運転したとして、東京都の男性を道路交通法違反(制御装置不良自転車運転)容疑で逮捕しました。

    男性は、昨年3月に同じ自転車を運転しているところを同容疑で摘発されたにもかかわらず、出頭要請を7回も無視し続けたことで同課は逮捕する必要があると判断したようです。

    男性は、「こんなもので逮捕されるとは思わなかった」と供述しているとのことです。

    参考人ならまだしも、被疑者としての出頭要請ですから、出頭すべきですね。

    ところで、ブレーキのない自転車=ピストバイクとはどういうものなのか簡単に説明しておきましょう。

    ピストバイクは競技用の自転車(トラックレーサー)で、もともとは公道を走るためのものではありません。

    そのためブレーキがついておらず、しかも固定ギアのためペダルを逆回転に回して自転車を止めるのですが、制動力は脚力に依存するため、相当の脚力がないと、急に止まることができないでしょう。

    2000年代半ばに日本にも輸入されるようになり、そのシンプルなスタイリングが美しいということで、ストリートカルチャーやファッションの面で人気になりました。
    壊れにくく、乗り心地が独特ということで愛好家もいます。

    しかし、2年前にはお笑い芸人がブレーキなしのピストバイクを運転していて道路交通法違反(制動装置不良)で交通違反切符を切られたように、このところ摘発者が増えているようです。

    みなさん、ここでもう一度、確認してください!
    ブレーキなしの自転車を運転することは法律で禁じられています。
    もちろん、前輪後輪両方ついていなければいけません。

    道路交通法 第63条の9第1項(自転車の制動装置等)

    自転車の運転者は、内閣府令で定める基準に適合する制動装置を備えていないため交通の危険を生じさせるおそれがある自転車を運転してはならない。

    道路交通法施行規則 第9条の3

    1.前輪及び後輪を制動すること。
    2.乾燥した平たんな舗装道路において、制動初速度が10キロメートル毎時のとき、制動装置の操作を開始した場所から3メートル以内の距離で円滑に自転車を停止させる性能を有すること。

    これに違反すると、道路交通法の第120条により5万円以下の罰金となります。

    今年7月に施行された東京都の「自転車安全利用条例」によって、道路交通法に違反する自転車の販売が禁止されたので、ブレーキのない自転車の一般販売も禁止される、ということになります。この動きは全国に広がっています。

    また近年、交通事故は減少しているにもかかわらず、自転車による事故は全体の約2割にも達し増加の一途をたどっています。

    自転車は道路交通法上、「軽車両」です。

    格好いいからという理由だけでブレーキなしの自転車には乗らないこと。
    自分も人も傷つけないよう、安全に十分配慮して自転車を楽しんでほしいと思います。

  • 亀岡市登校中児童ら交通事故死事件の刑が確定

    2013年10月24日


    ある日突然、愛する人が交通事故で亡くなったら、あなたはどうしますか?
    もし、大切な人が交通事故で誰かを傷つけてしまったら?

    昨年4月、京都府亀岡市で集団登校中の小学生と引率の保護者ら10人が暴走車に次々とはねられ、3人が死亡、7人が重軽傷を負った事故を記憶している人も多いでしょう。

    無免許運転で10人を死傷させた事故が、なぜ危険運転ではないのか? そもそも、危険運転とはどういうものなのか? 事故後、マスコミや世論で、かなり議論が高まりました。

    ところで、無免許で車を運転して、自動車運転過失致死傷罪と道交法違反(無免許運転)の罪に問われていた無職少年(19)の刑が今月の16日、確定しました。
    懲役5~9年の不定期刑、というものでした。

    この事故では、少年が「危険運転致死傷罪」にあたるかが争点になりました。

    危険運転致死傷罪(『刑法』第208条2項)の中に、進行を制御する技能を有しないで自動車を運転して事故を起こし、他人に怪我をさせたり、死亡させたりした場合、最長懲役20年に処する、というものがあります。

    車を発進させたものの、ハンドル操作ができずにまっすぐ走れない。あちこちぶつけたり、フラフラと蛇行運転する。ブレーキ操作がわからず、つねに急ブレーキになるなどの状態を危険運転としています。

    事故の前夜から、入れ替わり友人らを乗せながら、少年は京都市内と亀岡市内で30時間以上ドライブを続け、翌朝、居眠り運転で児童たちの列に突っ込みました。

    当初、京都地検や京都府警は「自動車運転過失致死傷罪」(『刑法』第211条2項)よりも罰則の重い、危険運転致死傷罪の適用を視野に入れていました。
    被害者側も重い罰則を求めていました。

    しかし京都地検は、少年は以前から無免許運転を繰り返しており、事故の直前も無事故で長時間運転していたことから、運転技術はあると判断し、自動車運転過失致死傷罪で起訴。

    一審判決では、懲役5年以上8年以下の不定期刑が言い渡されました。

    そして今回、二審の判決の後、検察側と弁護側双方が上告しなかったため、刑の確定となったわけです。

    ではなぜ、無免許運転にも関わらず、この事故は危険運転と認められなかったのでしょうか。

    2001(平成13)年の刑法改正まで、自動車事故はすべて「業務上過失致死傷罪」(『刑法』第211条)で処罰されていました。最長5年の懲役です。

    しかし当時、危険な運転による事故が多発していたことで、危険運転致死傷罪という重罰を作りましょうということになりました。

    ここでは、特に危険な5つの運転行為を危険運転致死傷罪として定めたために、免許の有無ではなく、運転技術の有無が重視されることになったのです。
    つまり運転技術があれば、たとえ無免許でも危険運転にはならないということです。

    ただ近年、無免許による重大事故が頻発しているように思います。
    無免許を危険運転としなくてもいいのか、という議論もだんだんと盛りあがってきています。

    日本には運転免許制度があり、免許がなければ自動車の運転はできない国なのです。
    そうであるにも関わらず、自分が無免許であることを知りながら運転して事故を起こす。

    これが危険運転ではなくていいのかという議論は、当然なされていい。危険運転致死傷罪や自動車運転過失致死傷罪をさらに重罰にするような改正論議がなされていいのではないかと私は考えます。

    平成25年6月7日の衆議院本会議で、改正道路交通法が可決しました。

    その内容の一つに無免許運転の罰則強化があります。

    旧法では、無免許運転の法定刑は、「1年以下の懲役または30万円以下の罰金」でしたが、改正道路交通法では、「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」です。

    しかし、それでも無免許による重大事故を起こした者を罰するには刑が軽すぎるのではないか、という議論がなされていました。

    そこで、第183回国会に、「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案」が提出されましたが、まだ成立していません。

    この法律では、無免許運転で自動車事故を起こした場合の刑を重くする内容が含まれていますので、議論の動向を見守りたいと思います。

    詳しくは、また機会があるときに解説したいと思います。

    交通事故被害者が知って得する無料小冊子は、こちら。
    http://www.jiko-sos.jp/report/?blog