税法 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
  • 相続税で不動産脱漏しても重加算税取消裁決

    2024年02月26日

    今回は、重加算税取消裁決をご紹介したいと思います。

    国税不服審判所平成10年5月28日裁決です。

    (事案)

    請求人は、次男が滞納している相続税の支払いにあてるため、所有する土地ABCの3物件を売却した。

    売却代金の合計額は7755万2000円であり、このうち約7000万円が次男の相続税等にあてられた。

    請求人は、税理士に依頼して譲渡所得に関して確定申告書を提出したが、C物件にかかる所得金額のみを記載し、他の2物件は記載しなかった。

    税務調査の結果、重加算税賦課決定がされた。

    (裁決)

    譲渡代金は請求人の振替納税口座として利用している公表預金口座に全額入金され、その後次男の相続税等の納税にあてられており、代金授受及び使徒につき隠蔽仮装はない。

    申告漏れとなつたA物件及びB物件の譲渡に係る売買契約書の作成及び所有権移転登記は、C物件と同様にいずれも適正に行われている。

    調査担当職員に対して、申告漏れとなつたA物件及びB物件の譲渡の事実を隠ぺいするような、虚偽の答弁、虚偽資料の作成・提出及び書類の隠匿・廃棄等の行為が認められず、本件調査を困難ならしめるような特段の行為がなかつた。

    本件確定申告書に、申告漏れとなつたB物件に係る売買契約書が添付されているが、少なくとも次男に隠ぺいする意図があつたならば、B物件の売買契約書を税理士に渡すはずもないことから、本件申告は、Tの何らかの思い込み又は誤認に基づいて行われたと見るのが自然

    → 隠蔽または仮装なし → 重加算税取消

    ======================

    以上です。

    3つの不動産があり、そのうちの1つの不動産分だけをつまみ出して申告をした場合、税務調査があってそれが判明すると、重加算税指摘になると思います。

    しかし、重加算税の賦課要件には、隠蔽又は仮装があり、この要件が満たされない限り、重加算税の要件を満たしません。

    本件では、預金口座の利用について事実を隠そうとする意図が見られないこと、売買契約の履行状況も名義を借用するなど仮装行為がないこと、調査時にも虚偽答弁など隠蔽仮装の意思が窺われるような行為がないこと、確定申告書に申告から除外したB物件売買契約書を添付するなど隠蔽仮装の意思と矛盾する行動が見られること、などから、隠蔽又は仮装を否定しました。

    一見、重加算税やむなしと思えるような事案でも、隠蔽又は仮装の要件を満たさないことがありますので、この点は税理士がよく吟味することが求められると思います。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 法人から個人への金員の移動の所得区分

    2024年02月01日

    今回は、法人から個人への金員の移動がどの所得区分になるかについて判断された裁判例をご紹介します。

    東京地裁平成23年5月31日判決です。

    (事案)

    ・B社が、B社名義の不動産を売却し、その売却代金の一部を唯一の株主である原告の口座に振り込ませた。

    ・B社の代表者は、原告の娘。(原告はB社の役員ではなく株主のみの立場)

    ・税務署長は、振り込まれた金員はB社から原告に対する配当所得に該当するとして更正処分等をした。

    (争点は2つ)

    (1)本件不動産等の譲渡による収益は、当初、B社に帰属したか、原告に帰属したか。

    (2)B社に帰属した場合、本件金員の移動は、原告の配当所得といえるか。

    (1)については、実質所得者課税の原則の「法律的帰属説」により法人に帰属するとされました。

    「法律的帰属説」というのは、課税物件の法律上の帰属につき、その形式と実質とが相違している場合には、実質に即して帰属を決定すべきとする説です。

    その上で、「配当」といえるかどうかについては、次のとおり判断しました。

    ・所得税法上の利益配当は、商法が前提とする、取引社会における利益配当の観念(損益計算上の利益を株主の出資に対して支払うこと)と同一の観念を採用しているものと解するのが相当であり、必ずしも、商法の規定に従って適法にされたものに限らず、商法が規制の対象とし、商法の見地からは不適法とされる配当も所得税法上の利益配当に含まれると解される(最高裁昭和35年10月7日判決)。

    ・(1)法人が、(2)その利益から、(3)その株主等に対し、(4)株主等たる地位に基づいて供与した利益は、その名目にかかわらずこれを利益の配当たる配当所得に含まれると解する・・・上記(2)については、一応の損益計算に基づいて会社に生じた積極財産を原資としているといえればよく、上記(4)については、株主に対し、取引上の債権債務関係など他の原因がないにもかかわらず供与されたものであればこれを満たすと解するのが相当である。

    (結論)
    配当所得と判断し、納税者が敗訴しました。

    控訴棄却、上告棄却です。

    =====================

    法人から個人に対する金員の供与の所得区分は、本件判決の判断枠組みを前提とすると、

    ・役員・従業員でその地位に基づいて供与した場合は給与・賞与・退職金。

    ・株主で法人の利益から取引上の債権債務関係など他の原因がないにもかかわらず供与の場合は配当。

    ・無関係の場合及び上記に当てはまらない場合は一時所得。

    となるかと思います。

    参考にしていただければと思います

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 代表取締役の退職の事実が争われた裁決例

    2024年01月18日

    今回は、代表取締役が取締役を辞任したことから支給した退職給与について、退職の事実がないとして否認された裁決例をご紹介します。

    令2年12月15日国税不服審判所裁決です。

    (事案)

    請求人の代表取締役及び取締役を辞任した元代表者が、辞任後も継続して請求人の事業運営上の重要事項に参画していたとして、みなし役員に該当するから、実質的に退職したとは認められないとして、支払った退職給与が否認された事案。

    (否認の理由)

    ・経営会議に出席していたこと

    ・金融機関と交渉していたこと

    ・新規事業の決定に関与していたこと

    (裁決)

    国税不服審判所は、以下の理由により処分を取り消しました。

    ・法人税法第2条第15号が取締役等の法的な地位を有していない者でも「法人の経営に従事している者」を法人の役員に含めた趣旨が、取締役等と同様に法人の事業運営上の重要事項に参画することによって法人が行う利益の処分等に対し影響力を有する者も同法上は役員とするところにあることからすると、上記の「法人の経営に従事している」とは、法人の事業運営上の重要事項に参画していることをいうと解される。

    (経営会議への出席)

    ・経営会議に出席したとの申述がある。

    ・本件経営会議において、請求人の経営方針・予算・人事等の事業運営上の重要事項につき、具体的な指示や経営に関する決定をしたこと及びその内容や方法を示す客観的証拠はない・

    ・本件申述においても、いつどのような内容の指示や決定を行ったかという具体的な状況については明らかとはいえない。

    ・したがって、本件申述をもって、本件辞任後の本件経営会議における、本件元代表者による請求人の事業運営上の重要事項に係る具体的な指示等の存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる的確な証拠はない。

    (金融機関との交渉)

    ・請求人は、本件辞任の日から平成28年3月31日までの期間において、金融機関から新規融資を受けていないと認められ、実際に新規融資に向けた具体的な交渉が行われたことを認めるに足りる証拠もない。

    ・本件辞任の約3か月後である平成25年3月7日に、その連帯保証人が本件元代表者から当時の代表取締役であるFに変更されたことが認められるところ、この事実は、本件辞任に対応した措置が金融機関との間で具体的に執られたことを示すものである上、Fが請求人の代表者としての自覚と責任のもとに自ら決定したことを推認させるものといえる。
    (新規事業の決定)

    ・請求人は、平成27年3月頃にY社から太陽光発電設備を購入していると認められるところ、当該購入は、本件辞任から約2年4か月後のことであり、そもそも、本件辞任後間もない時期に、請求人が太陽光発電事業を新規に開始することを決定したとは認められず、その他、本件元代表者が、本件辞任後に、請求人の事業運営上重要な新規事業を決定したことを認めるに足りる的確な証拠はない。

    =================

    以上です。

    顧問先の役員が退任して退職給与を支払う場合や分掌変更による退職給与を支払う場合には、退職給与が否認されないよう助言をすると思いますが、上記のような事案では、税務調査で否認されるリスクがある、ということです。

    分掌変更退職給与を含め、検討すべき事項には、以下のようなものがあります。

    (1)事業運営上の重要な意思決定に関与しているか。

    (2)営業面で重要な役割を果たしているか。 

    (3)金融機関との交渉に重要な役割を果たしているか。 

    (4)資金調達に重要な役割を果たしているか。  

    (5)経営会議に参加して意見を表明しているか。 

    (6)支出や経費、財務、設備投資に関し、意見を表明する等重要な役割を果たしているか。 

    (7)稟議書等を決裁しているか。 

    (8)人事に関与しているか。 

    (9)株主や取締役会構成員として以上に役員報酬や従業員給与等の決定に関与しているか。 

    (10)取締役会構成員として以上に予算作成に関与しているか。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 妻の管理する財産が夫の名義財産となった事例

    2024年01月11日

    今回は、名義財産と認定された裁判例をご紹介します。

    東京地裁平成20年10月17日判決です。

    (事案)

    Aが死亡して相続が開始され、相続税申告を行った。

    相続人は、妻である甲1名である。後日、税務調査が行われ、税務調査官から、甲名義の預金通帳について、名義預金であるAの相続財産であるとの指摘があった。

    (事情)

    以下のような事情がありました。

    預金の出捐者は被相続人である。

    贈与契約書は作成していない。

    預金通帳と印鑑は妻が管理し、預金取引自体も妻が行っていた?。

    (判決)

    以下の理由により、相続財産と認定しました。

    我が国においては、夫が自分名義の財産を妻名義の預金等で保有することは珍しいことでない。

    当該預金からのお金で妻名義で証券取引を行っていた?。

    生前贈与した土地建物は贈与契約書を作成し、贈与税がない申告書を提出したが、預金については贈与契約書も作成せず、申告もしていない。

    =====================ー

    本件では、被相続人の預金から出金された金員で妻名義で証券取引を行っていたことから、贈与と認定される可能性もありました。

    実際、納税者側は、贈与と主張し、時効主張をしていました。

    また、本件判決のように名義財産の認定がされることもあります。

    したがって、税理士が関与する場合には、真実の法律行為と認定されるように、証拠化をするよう助言することが望まれます。

    贈与である場合には贈与契約書の作成、贈与税申告等であり、名義財産である場合には、夫と妻で確認書や信託契約書等を締結しておく、などの方法です。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 求償権行使不能の時期の判定

    2023年12月28日

    今回は、求償権を行使することができなくなったのはいつか、が争われた裁判例をご紹介します。

    那覇地裁令和元年5月28日判決です。

    (事案)

    亡甲は、平成22年、自己所有の土地を譲渡した代金を、自らが代表取締役を務めていたA社の債務に係る連帯保証債務の履行に充て、確定申告において譲渡所得を計上しました。

    その後、ごく一部の回収額を除いてA社及び相連帯保証人らに対して求償権を行使することができなくなったため、回収額を超える部分について所得税法64条2項所定の事由が生じたとして更正の請求を行いました。

    ところが、税務署長は、更正をすべき理由がない旨の通知処分を行った。

    関係法令==================

    所得税法152条

    確定申告書を提出し・・・た居住者・・・は、当該申告書・・に係る年分の各種所得の金額につき・・第六十四条(資産の譲渡代金が回収不能となつた場合等の所得計算の特例)に規定する事実その他これに準ずる政令で定める事実が生じたことにより、国税通則法第二十三条第一項各号(更正の請求)の事由が生じたときは、当該事実が生じた日の翌日から二月以内に限り、・・更正の請求をすることができる。

    所得税法64条2項

    保証債務を履行するため資産・・譲渡・・があつた場合において、その履行に伴う求償権の全部又は一部を行使することができないこととなつたときは、その行使することができないこととなつた金額・・を前項に規定する回収することができないこととなつた金額とみなして、同項の規定を適用する。

    ======================

    更正の請求は、「当該事実が生じた日の翌日から二月以内」という期間制限があるので、求償権を行使することができないこととなったがいつか、が論点となりました。

    (時系列)

    ・平成25年11月1日、亡甲は、保証債務履行後、A社に訴訟を提起し、勝訴判決を得て、強制執行をして、求償権の一部を回収し終えました。

    ・平成26年3月20日、代理人弁護士から、訴訟の経緯や強制執行に関する報告がなされました。

    ・平成26年4月22日、亡甲は、更正の請求をしました。

    裁判所は、以下の理由により、原告(納税者)の請求を棄却しました。

    亡甲がその代表取締役を退任した平成18年11月25日以前から、A社は破産申立ての検討が必要になるほど、資金繰りに苦しんで億単位の債務超過に陥り、その財政状況が悪化していた。

    亡甲は、同社の資産の状況には、当然通暁していたものと解される。

    A社は、平成21年12月期事業年度に約2億3333万円の債務超過の状態にまで至っているなど、財政状況が好転したとうかがわせる事情は見当たらない。

    亡甲が、A社に対する前件訴訟の確定判決に基づく強制執行によって預金及び動産から本件回収額を取り立てた後、本件報告書が作成されるまでの間に、A社については何ら資産調査が行われた形跡もうかがえない。

    A社に対する関係では、本件回収額を取り立て終えた平成25年11月1日の時点と、弁護士から本件報告書が提出された平成26年3月20日の時点とで、求償権の残額全額の回収が不能であることについて、客観的な状況に何ら変化はない。

    後者の時点で求償権を行使することができない状態にあったといえるのであれば、既に前者の時点で求償権を行使することができないこととなっていたものと認めるのが相当である。

    法64条2項にいう求償権の全部又は一部を行使することができないこととなったときとは、客観的にみて求償債権を回収できる見込みのないことが明らかになったときをいうものと解されるのであって、納税者の恣意によって収入の不発生の時期が変動されることを許すべきでないという課税上の要請に基づき、回収不能の事実は客観的に判定されるべきであるというその趣旨に照らせば、求償債権者の代理人と本人の間の報告の有無によって客観的な回収可能性が左右されるかのような解釈は、到底採用することができない。代理人にとって客観的に回収不能であることが明らかになった以上、納税者本人にとっても客観的に回収不能であることが明らかになったものとして遇するのが相当である。

    ======================

    以上です。

    上記のとおり、求償権の行使ができないこととなったかどうかは、「客観的」に判定されることとなります。

    したがって、弁護士に委任して債権回収をし、回収不能の部分について更正の請求を検討しているような場合には、債権回収状況について、弁護士から速やかに報告を受ける必要がある、ということになります。

    納税者本人の主観的状況で判断されるわけではない、ということに注意が必要です。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 譲渡所得と弁護士費用

    2023年12月15日

    今回は、譲渡所得において、弁護士費用が取得費や譲渡費用が該当するか、についてまとめます。

    取得費とは、

    ・その資産の取得に要した金額

    ・設備費

    ・改良費

    です(所基通33-7)。

    まずは、通達から。

    ======================

    所基通38-2 取得に関し争いのある資産につきその所有権等を確保するために直接要した訴訟費用、和解費用等の額は、その支出した年分の各種所得の金額の計算上必要経費に算入されたものを除き、資産の取得に要した金額とする。

    ======================

    これは、例えば売買契約により不動産を購入したものの、契約の錯誤や取消を主張され、裁判になった場合に、勝訴判決を得て所有権を確保したような場合です。

    しかし、所有権を取得した後、第三者から所有権を主張された時に支出した弁護士費用は、取得費になりません。

    所有権を取得した後の紛争解決費用については、「取得に要した金額」ではなく、すでに取得した財産を維持・管理するための費用であるためです。

    遺産分割のために要した弁護士費用も土地の譲渡所得を計算するうえでの資産の取得費には該当しません(東京高裁平成23年4月14日判決)。

    遺産分割に要した費用は、一般的に当該資産の客観的価額を更正するものとは認められないとされています。

    次に、譲渡費用です。

    =======================

    所基通33-7

    資産の譲渡に係る次に掲げる費用(取得費とされるものを除く。)をいう。

    (1)資産の譲渡に際して支出した仲介手数料、運搬費、登記若しくは登録に要する費用その他当該譲渡のために直接要した費用

    (2)(1)に掲げる費用のほか、借家人等を立ち退かせるための立退料、土地(借地権を含む。以下33-8までにおいて同じ。)を譲渡するためその土地の上にある建物等の取壊しに要した費用、既に売買契約を締結している資産を更に有利な条件で他に譲渡するため当該契約を解除したことに伴い支出する違約金その他当該資産の譲渡価額を増加させるため当該譲渡に際して支出した費用

    (注)譲渡資産の修繕費、固定資産税その他その資産の維持又は管理に要した費用は、譲渡費用に含まれないことに留意する。

    =======================

    譲渡所得の原因となった売買契約に基づく売買代金未払いの場合の売買代金請求訴訟の弁護士費用は譲渡費用には該当しません。

    国税庁の質疑応答事例があります。

    =======================

    譲渡代金の取立てに要した弁護士費用等と譲渡費用

    【照会要旨】
     資産の譲渡代金(5億円余)の取立てに関して300万円余を弁護士に支払った事例がありますが、この弁護士費用は、譲渡費用として譲渡所得の金額の計算上控除することができますか。

    【回答要旨】
     照会の場合の弁護士費用は、譲渡代金の取立てに要した費用であり、「譲渡に要した費用」ではありませんから、譲渡費用として控除することはできません。

    =======================

    また、時効取得を原因とする土地所有権移転登記手続請求訴訟の弁護士費用は取得費にも譲渡費用にも該当しないとされた裁判例があります(東京地裁平成4年3月10日判決)。

    土地の時効取得は、時効の援用の意思表示により効果を生ずるのであり、所有権を取得した後、所有権移転登記を請求するのは、登記に要した費用であり、取得に要した費用でも譲渡に要した費用でもないためです。

    ちょっと複雑な案件としては、土地明渡請求訴訟を弁護士に委任して裁判中、和解の話になって、話し合いの結果、土地を第三者に売却することで解決した事案があります。

    この弁護士費用は、譲渡費用に該当するかが争われたものがあり、大阪地裁昭和60年7月30日判決は、譲渡費用に算入できない、としました。

    譲渡のために直接要した弁護士費用を明確にできないためです。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • インボイス開始で振込手数料を負担して欲しいと言われた。

    2023年10月27日

    今回は、【税理士を守る会】の質疑応答事例をご紹介します。

    (質問)

    インボイス制度開始された後、仕入先より振込手数料を民法485条に基づき、買手(振り込む側)が負担して欲しい旨の申し入れを複数受けています。

    そこで、この要請に応じる必要があるのか、法的見解を教えてください。

    (回答)

    1 契約書がある場合

    契約書を締結している場合には、弁済費用の負担について定めてあることが多く、その場合は契約書に従うことになりますので、契約書をご確認ください。

    たとえば、次のような条項です。

    「甲は、毎月末日までに、前項の報酬を乙の指定する銀行口座宛振り込んで支払う。振込手数料は甲の負担とする。」

    この「振込手数料は甲の負担とする。」が弁済費用の負担であり、契約書に従って負担します。

    2 契約書がない場合

    民法485条は次のように定めています。

    「弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。」

    したがって、1のような当事者間の特約がない場合は、原則として、支払義務を負う者(振り込む側)が振込手数料を負担します。

    そして、1の特約が、「別段の意思表示」ということになり、別段の意思表示が優先します。

    では、契約書に別段の意思表示がない場合にはどうなるか、・・・・

    【税理士を守る会】の会員は、全文を読むことができます。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 消費税の助言義務違反で税賠の裁判例(資本金額)

    2023年10月05日

    今回は、消費税の助言義務違反で税理士損害賠償請求をされた事案をご紹介します。

    東京地裁平成27年5月28日判決です。

    (事案)

    ・原告は、個人で医院を開業していた医師甲野が、法人成りをして、平成15年2月17日、資産の総額1億74万9000円として設立された医療法人である。

    ・平成14年、甲野が被告税理士に対し、医院を法人にする旨を相談し、税理士が医療法人の設立手続の一部についての事務を委任する契約を締結した。

    ・原告設立時に原告の資本金を設立後2期分の消費税の免除を受けられるなど税務上有利とするために、1000万円未満とするよう、Aに指導すべき義務があったにもかかわらず、これをったとして損害賠償請求をした。

    (判決)

    ・原告の設立の主な目的は節税であったことが認められ、そうであるとすれば、甲野から相談を受け、設立手続の一部に協力する旨の本件契約を締結した被告としては、その目的に沿うよう、甲野に対し、資産総額についても正しく説明・指導する義務があったと認められる。

    ・平成22年に甲野から電話で資産総額と消費税との関係について指摘を受けた際、日を変えて2度にわたり、消費税については、原告は個人経営から法人成りした経緯から、2期分の免除の適用はない旨、誤った認識に基づく回答をし、設立の際に正しい説明をしたことや、甲野の強い希望で資本金額を1億円以上としたことについては全く触れなかったことが認められる。

    ・他に被告が原告設立の際に正しい説明をしたことを示す客観的証拠もない。

    ⇒税理士敗訴

    というものです。

    これに対し、税理士は次のような主張をしましたが、認められませんでした。

    =========================

    資産総額について、1000万円未満とした場合には設立後2期分の消費税が免税となる旨説明したが、原告代表者が「資産総額だけでも他のクリニックに勝ってブランド化したい。」「設立から2期分の消費税の免税が受けられなくとも、課税される消費税が経費となるならそれでかまわない。」「運転資金が潤沢にあった方が運営しやすい。」などと述べて、資産総額を1億円超とした。

    ==========================

    つまり、税理士が説明した証拠がないため立証に失敗したということです。

    したがって、納税者が何らかの事情により税務上不利な方を選択した場合、そのやり取りを証拠化しておく必要があります。

    そうしないと、後日、「税理士が助言してくれなかったから不利になった」と主張された際、説明した事実と不利な方を選択した理由を立証できない。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 税理士法人と会計法人

    2023年08月03日

    今回は、【税理士を守る会】での質疑応答を一般化してご紹介します。

    (質問)

    私は個人開業税理士ですが、株式会社である会計法人(私が代表者)を持っており、記帳代行業務を外注しております。

    現在、税理士法人化を検討しているのですが、この業務形態で注意すべきことはあるでしょうか。

    (回答)

    税理士法人化する場合ですが、記帳代行業務を会計法人に再委託する場合には、税理士が会計法人の取締役に就任すると、税理士法違反となります。

    税理士法人で記帳代行業務を受託して、・・・・

    「税理士を守る会」に入会すると、全文を読むことができます。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/

  • 持分会社からの利益配当の計上時期

    2023年07月07日

    合同会社、合名会社などの持分会社において、利益の配当を受けた時には、いつの日の属する事業年度の収益又は年の所得に計上するか、という点について解説します。

    持分会社においては、定款に定めない限り、社員総会がありません。

    株式会社のような決算承認手続きが定められていません。

    したがって、社員総会を定款に定めていない持分会社については、社員総会で決算承認をしたとしても、法律上、その時点で決算が確定したことになりません。

    そして、持分会社の社員は、持分会社に対し、いつでも利益の配当を請求することができます(会社法621条)。

    この場合、利益配当請求の意思表示が会社に到達した時に具体的配当受領権が発生し、遅滞に陥ると解されています。

    そうすると、権利確定主義のもとでは、社員総会と関係なく、会社に意思表示が到達した時点の属する事業年度又は年に計上することとなります。

    ここまで読んで焦った先生もいらっしゃるかと思います。

    しかし、国税庁「その他法令解釈に関する情報」(法人税)「 5 収益等の計上に関する通則」 2-1-27(剰余金の配当等の帰属の時期)によると、法人が持分会社から利益の配当を受けた場合には、次に該当する事実があった時の事業年度に収益として計上する、とされています。

    ==============================

    1)ロ 利益の配当又は剰余金の分配 当該配当又は分配をする法人の社員総会又はこれに準ずるものにおいて、当該利益の配当又は剰余金の分配に関する決議のあった日。ただし、持分会社にあっては定款で定めた日がある場合にはその日

    ==============================

    (国税庁)
    https://www.nta.go.jp/law/joho-zeikaishaku/hojin/070313/06.htm

    つまり、課税実務では、定款に定めがない場合には、社員総会あるいは社員の過半数の同意があった日の属する事業年度で計上すればよい、ということになります。

    法律解釈と課税の実務上の扱いが異なる、ということです。

    上記取扱が変更になることも考えられるので、もし、株式会社と同様の扱いをしたい、ということであれば、定款に、利益の配当をしようとするときは、その都度、社員の過半数によって、

    (1)配当財産の種類・帳簿価額の総額

    (2)社員に対する配当の割当てに関する事項

    (3)当該利益の配当が効力を生ずる日

    を定めなければならない旨定めておくことをおすすめします。

    「税理士を守る会」は、こちら
    https://myhoumu.jp/zeiprotect/new/