相続 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
メニュー
みらい総合法律事務所
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階
弁護士20人以上が所属するみらい総合法律事務所の代表パートナーです。
テレビ出演などもしており、著書は50冊以上あります。
  • 特別受益の持ち戻しと遺留分の関係

    2019年10月16日

    今回は、特別受益の持ち戻し免除と遺留分の関係を解説します。

    特別受益とは、被相続人から共同相続人に対して、(1)遺贈され、または(2)婚姻や養子縁組のために贈与され、もしくは(3)生計の資本として贈与された財産を「特別受益」といいます(民法第903条1項)。

    特別受益があったときは、相続分の前渡しと評価され、相続の際に、特別受益財産を相続財産に計算上持戻して具体的相続分を計算することになります。

    これを「特別受益の持戻し」といいます。

    但し、被相続人は、特別受益の持戻しを免除することができます(民法第903条3項)。

    そして、改正相続法では、持ち戻し免除の意思表示がない場合でも、その意思表示を推定する規定が新設されました(民法第903条4項)。

    具体的には、

    (1)婚姻期間が20年以上の夫婦の一方である被相続人が、他の一方に対し、

    (2)居住の用に供する建物またはその敷地を遺贈または贈与したとき

    という要件を満たしたときは、持ち戻し免除の意思表示があったものと推定されます。

    この規定は、「推定」ですので、立証により覆される場合があります。

    したがって、遺言者が持ち戻し免除の意思を有している場合には、遺言書に持ち戻し免除を記載する方が望ましいと言えるでしょう。

    さて、この持ち戻し免除をすると、相続財産に持ち戻されなくなるので、「遺留分対策になるのではないか」と言われることがあります。

    しかし、これは誤りです。

    持ち戻し免除は、「遺留分を侵害しない限度」でしか行うことができません。

    もう少し正確に言うと、遺留分を侵害する持ち戻し免除の意思表示をすることができるけれども、遺留分侵害額請求権を行使されると、遺留分を侵害する限度で失効する、ということになります。

    この点、最高裁平成24年1月26日判決は、「本件遺留分減殺請求により、抗告人らの遺留分を侵害する本件持戻し免除の意思表示が減殺されることになるが、遺留分減殺請求により特別受益に当たる贈与についてされた持戻し免除の意思表示が減殺された場合、持戻し免除の意思表示は、遺留分を侵害する限度で失効し、当該贈与に係る財産の価額は、上記の限度で、遺留分権利者である相続人の相続分に加算され、当該贈与を受けた相続人の相続分から控除されるものと解するのが相当である。」としています。

    なぜなら、遺留分というのは、遺言者の意思に反してでも、一定割合を遺留分権利者に留保する制度だからです。

    持ち戻し免除は、遺言者の意思を尊重する制度ですから、遺留分制度の趣旨からすると、その意思は、遺留分制度には勝てない、ということですね。

    遺留分対策をするには、例えば、次のような方法を検討する必要があります。

    ・遺留分放棄許可

    ・早めの生前贈与(改正相続法による遺留分の期間制限)

    ・生前贈与+相続放棄(特別受益ではなくなる)

    ・経営承継円滑化法の「除外合意」「固定合意」

    ・遺贈に関する遺留分の負担の順序を遺言書で指定

    ・有償譲渡

    ・生命保険で代償金を準備

    ・種類株式の活用

    ・信託の活用

    遺留分対策が必要になった時は、ご相談ください。
    https://souzoku-sos.jp/flow

    【参考記事】
    遺留分を請求されたら、こう対処する!
    https://souzoku-sos.jp/416

  • 相続と遺言の本出版です!

    2015年10月12日

    61A3t0SpdQL._SX338_BO1,204,203,200_

    新刊出しました。今回は、【相続】です。

    自分が死んだ後、30年間、自分の思い通りに
    遺産をコントロールする方法を解説しました。

    マイケル・ジャクソンの遺産は、どうやって
    わけられたか、についても解説してあります。

    税理士が悩んでいる「名義預金」の回避法も
    説明してあります。

    名義預金の回避法はない、と言われていましたが、
    この方法はどうでしょうか?

    読んでみていただければと思います。

    会社を経営している人で、将来、会社が
    倒産してしまうとき、自宅を守れないか、
    と思っている人も多いと思います。

    ぜひ、読んでください。

    遺言書を書きたいけれど、遺留分が心配だ、
    という人がいるでしょう。

    ぜひ、読んでください。

    回避可能かもしれません。

    知識は力です。

    知っておくだけで、違います。

    「遺言と贈与はまだするな!
    「信託」で自分の死後三〇年間財産を支配し続ける方法 」
    (万来舎)

    http://www.amazon.co.jp/dp/4901221930/

  • 遺言公正証書が年10万件を突破したらしい

    2015年06月26日

    超高齢化社会

    超高齢化社会といわれる日本では、現在、4人に1人が65歳以上だそうです。

    そして10年後には、「2025年問題」が起きるともいわれています。
    いわゆる団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になることで、人口の4人に1人が75歳以上となり、社会保障財政のバランスの崩壊が懸念されているものです。

    厚生労働省のデータによれば、2012年には65歳以上の1人を現役世代(20~64歳)2.4人で支える構造になっていました。
    これが2050年には、65歳以上の1人を現役世代1.2人で支えなければいけなくなるということです。

    大変な時代がやって来るのでしょうか…。

    ところで、高齢者の方を巡る問題には遺産相続にまつわるトラブルがあります。
    相続=争族といわれるように、兄弟や親族間で骨肉の争いになることもあるのが相続問題です。

    そこで今回は、遺産相続トラブルを防止する方法としての「遺言」について法的に解説します。

    「遺言公正証書:年10万件 背景に家族の形多様化 確実な相続を期待」(2015年6月22日 毎日新聞)

    遺産相続を巡るトラブルを防ぐために、公証人の助言を受けて作られる遺言公正証書の年間作成件数が2014年に初めて10万件を突破したようです。

    日本公証人連合会(日公連)によると、1971年には約1万5000件だった遺言公正証書の作成件数は、2014年には10万4490件にまで増加。

    高齢化の進展に加え、家族の形態が多様化し、法律の定めとは異なる相続を望む人が増えていることが背景にある、としています。

    公正証書遺言とは?

    遺言には、「特別方式」と「普通方式」の2つの方式があります。

    特別方式は、死期が迫っている、一般社会から隔離されているなど特別な場合の遺言方式です。

    普通方式には、次の3つの遺言があります。
    ・「自筆証書遺言」…遺言者が遺言内容の全文、日付、氏名すべてを自分で記載して、捺印をするもの。
    ・「公正証書遺言」…公証人に作成してもらうもの。
    ・「秘密証書遺言」…遺言内容と氏名を自筆し、捺印した書面を封筒に入れ封印したものを公証人に証明してもらうもの。

    自筆証書遺言については以前、解説しました。
    詳しい解説はこちら⇒「自筆証書遺言の書き方」
    https://taniharamakoto.com/archives/1372

    「一度書いた遺言書を変更したくなったら!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1509

    自筆証書遺言は、自分で書ける手軽さはありますが、書き方には厳格なルールがあり、定められた方式でなければ無効となってしまいます。

    一方、公正証書遺言は、公証人に証明、作成してもらわなければいけないという手間がかかりますが、証書は公証役場に保管されるため、破棄、隠匿、改ざんの心配がないなどのメリットがあります。

    公正証書遺言の特徴、その他のメリットについて以下にまとめます。

    ・公証人が作成するので、不備などで無効になる心配がなく、内容が整った遺言を作成することができる。
    ・家庭裁判所で検認の手続を経る必要がないので、相続開始後は速やかに遺言の内容を実現することができる。
    ・病気などで自書が困難な場合でも公証人が作成してくれる。
    ・作成手数料は遺産額で決まる。たとえば、1000~3000万円の場合では相続人1人あたり2万3000円となっている。

    公正証書遺言の作成件数が増加している要因とは?

    では、なぜ公正証書遺言を作成する人が増えているのでしょうか?
    報道にもあるように、背景には複数の要因があると考えられます。

    「家族形態の多様化」
    ・子供のいない夫婦で、仲の良くない兄弟や、疎遠な親族などに財産を遺したくないと考える場合。
    ・事実婚だが、パートナーには遺産を遺したい場合。

    などのように、家族の形が多様化していることで、法律の定めに縛られずに遺言として生前に遺しておきたい人が増えているようです。

    詳しい解説はこちら⇒
    「子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1541
    「相続税などの増税」
    2015年1月1日から相続税・贈与税が改正されているのは、みなさんご存じだったでしょうか?

    今回の改正は、遺産から差し引くことができる基礎控除額が下げられたのが大きなポイントでした。

    以前の基礎控除額は、「5000万円+1000万円×相続人の数」でした。
    改正後の現在では、「3000万円+600万円×相続人の数」というように40%も引き下げられています。

    たとえば、8000万円の遺産を配偶者と2人のこどもが相続する場合、今までは、5000万円+1000万円×3人=8000万円で、相続税はかかりませんでした。
    これが、現在では法定相続分どおりに相続するとすると、単純計算で175万円かかることになります。
    また、見方を変えれば、4800万円の遺産があれば相続税が発生してしまうということになります。

    こうした増税にともなうトラブル防止のためにも公正証書遺言のニーズが高まっているようです。
    「認知症の急激な増加問題」
    超高齢化にともない、認知症の人が急激に増えています。

    厚生労働省の公表資料によると、65歳以上の高齢者のうち認知症の人は推計15%、約462万人。
    発症の可能性のある400万人も含めると、4人に1人が認知症とその予備軍だという調査結果があります。

    認知症が原因の行方不明者は2年連続で1万人を超えていますし、事故に巻き込まれる可能性があります。
    詳しい解説はこちら⇒「鉄道事故の賠償金は、いくら?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1421

    また、自筆証書遺言の場合、保管や管理の問題が出てきますし、死後に遺言の有効性そのものを巡って親族間の訴訟に発展してしまう例もあります。

    こうした事態を避けるために、生前に公正証書遺言を作成し公証役場でしっかり管理してもらいたいという人が増えているようです。
    以前は、遺言書を作るなんて縁起が悪いと考える人も多かったのですが、時代が変わり、価値観が多様化してきたことで遺言書の需要が高まっています。

    備えあれば憂いなし。
    自分の死後の争族を防止するためにも、財産についての備えも万全にしておきたいものです。

    相続に関する相談はこちらから⇒
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 遺言書で自分の取り分がなかったら?

    2014年12月21日

    ★遺言書で自分の取り分がなかったら?

    たとえば、親が亡くなって、相続が発生したと思ったら、遺言書が出てきて、自分以外の人に、全ての財産を相続させる、と書いてあったら、どうでしょうか?

    ショックですね。(>_<)

    自分の取り分がゼロになってしまいます。

    しかし、その場合でも、法律は、救済策を作っています。

    「遺留分」という制度です。

    遺留分というのは、遺言書でも取り上げることのできない、相続人の取り分のことなのです。

    たとえば、相続人が妻と長男、次男の3人だったとして、「妻に全ての財産を相続させる」という遺言書があるとします。

    その場合、長男と次男には、財産に対し、4分の1ずつの遺留分がありますので、妻から、その分を分けてもらうことができます。

    この遺留分は、一定の事実を知った後1年以内に請求しないと、権利が消滅してしまいますので、ご注意ください。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0903/

  • 老後の不安を解消する任意後見制度とは?

    2014年07月26日

    先日のブログで、相続問題について「成年後見制度」のうちの「法定後見」について解説しました。

    「認知症の父の相続問題にどう対処する?」
    https://taniharamakoto.com/archives/1572

    これは、認知症や精神障害、知的障害、頭部外傷による高次脳機能障害などで本人の判断能力が低下して十分な判断ができなくなってしまった人に代って、財産管理や法律行為を行う「後見人」を選ぶものです。

    一方、本人はまだ元気で判断能力も十分にあるけれど、病気やケガなどで、将来的に自分で判断できなくなってしまったら困るし、不安だという人もいます。

    そうした人が、転ばぬ先の杖として利用できる法的制度はあるのでしょうか?

    今回は、ある1人暮らしのご婦人の悩みから、老後の不安を解決する方法を探ってみます。
    Q)数年前、夫に先立たれ、また私たち夫婦には子供がいなかったため、現在は年金生活で1人暮らしをしています。やはり心配なのは、今後のことです。今はまだ体は元気ですが、この先、病気になったり認知症にでもなったとき、お金の管理などはどうすればいいのか? 兄はいますが、すでに高齢ですし、他の親族とはもう何十年も会っていなく疎遠なため、頼るのには抵抗があります。何かいい方法はないでしょうか?

    A)将来的なリスクに備え、本人がまだ元気で判断能力が十分にあるうちに後見人を決めておく「任意後見」を利用するとよいでしょう。
    【任意後見とは】
    自分であらかじめ選んだ代理人(任意後見人)に、自分の生活や療養看護、財産管理などに関する事務について代理権を与える契約(任意後見契約)を公証人の作成する公正証書によって結んでおくというものです。
    【任意後見契約の手続き】
    ①後見人になってくれる信頼できる人を探す。
    ②契約内容を決める。生活や財産管理について、自分の希望を盛り込んでおく。
    ③公証役場で、公証人に「公正証書」を作成してもらう。

    後見人の契約者を「任意後見受任者」といいます。
    これは、家族や親族である必要はありません。
    なお、周囲に適切な人がいない場合、弁護士会や司法書士会などに相談すれば、候補者を紹介する団体等を紹介してくれます。
    【任意後見契約の費用】
    〇公正証書作成の基本手数料:11,000円
    〇登記嘱託手数料:1,400円
    〇法務局に納付する印紙代:2,600円
    〇その他
    ※2014年7月現在
    【任意後見の開始】
    本人の判断能力が低下した場合、後見人を監督する「任意後見監督人」を選任するよう家庭裁判所に申立てをします。
    監督人の選任をもって、任意後見が開始されます。

    任意後見監督人は、後見人が役割を果たしているか、不正などがないかをチェックします。

    手続きの申立てができるのは、本人、配偶者、任意後見受任者、四親等以内の親族などとなっています。
    【その他の注意点など】
    任意後見契約の内容や後見人への報酬などは、関係者同士の話し合いで自由に決めることができます。

    本人が結んでしまった不利な契約などは、法定後見の場合は後見人が取り消すことができますが、任意後見の場合、後見人は取り消すことができません。
    報道によりますと、日本公証人連合会の調べでは、2013年の任意後見契約の締結数は9,032件で、年々増加傾向にあるようです。

    仏教では、生、老、病、死を「四苦」とされています。

    生まれること、老いること、病気になること、死ぬことは人が免れない苦しみである、ということですね。

    人間は誰でも、いずれは老いて最期を迎えるときが来ます。

    その時のために、前もって準備をしておくことは大切ですし、それが安心となって、今を充実して生きることができるなら、こうした制度を利用することを検討してみるのもいいかもしれません。

  • 認知症の父の相続問題にどう対処する?

    2014年07月21日

    高齢者の方が、よく言われるのが「ボケたくない」、「家族に迷惑をかけたくない」ということです。

     

    しかし、実際には日本の超高齢化は進行し、認知症になってしまう人が増え続けています。

     

    厚生労働省の発表では、認知症の人の数は推計で約460万人。発症の可能性のある400万人も含めると、65歳以上の高齢者のうち、4人に1人が認知症とその予備軍だということです。

     

    認知症の問題は本人だけでなく、現実的に家族にも大きくのしかかってきます。

     

    親が認知症になってしまったら、どうしたらいいのでしょうか?

    今回は、親の認知症と相続問題を法的に解説します。

     

     

    Q)75歳の父が認知症になってしまいました。実家は、地方で代々続く地主の家系で、父も数件の土地を先祖から相続して所有しています。そこで心配なのは、今後の財産の管理と相続についてです。いつか悪徳業者にだまされてしまうのではないかと不安でしょうがありません。母は今まですべて父に任せきりで何もわかっていません。おまけに長男である私と弟、妹も全員が実家を出ていて、別生計で家庭を持っています。私が実家に帰ることも考えていますが、仕事の関係もあり、すぐに行動できない状態です。早急に対応したいのですが、何をどのようにすればよいのでしょうか?

     

     

    A)高齢者や障害者などの財産管理や、生活支援をするための制度として、「成年後見制度」というものがあります。

     

    成年後見制度には、認知症や精神障害、知的障害、頭部外傷による高次脳機能障害などで本人の判断能力が低下してしまったときのための「法定後見」と、本人が元気で判断能力があるうちに将来のリスクに備えて自分で後見人を選ぶ「任意後見」があります。

     

    質問のように、親が認知症の場合は、法定後見制度を利用するのがいいでしょう。

     

     

    【法定後見】

    判断能力が不十分な人がいる場合、家族などが家庭裁判所に審判を申し立て、後見人が決定されます。

     

    後見人は、本人に代って財産の管理や法律行為などを行います。

     

    後見人制度は、本人の判断能力の程度に応じて、「後見」「保佐」「補助」の3つに分かれていて、本人の事情に応じて選択できるようになっています。

     

    「後見」

    〇判断能力がまったくない人が対象

    〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など

    〇後見人には、財産管理に関する全般的な代理権と取消権(日常生活に関する行為を除く)が与えられる

    〇制度を利用した場合、医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う

     

    「保佐」

    〇判断能力が著しく不十分な人が対象

    〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など

    〇民法13条1項の掲げられている借金・訴訟行為・相続の承認や放棄・新築や増改築などについて、本人に不利益でないかを検討して、問題がない場合の同意権が与えられる

    〇取消権(日常生活に関する行為を除く)が与えられる

    〇制度を利用した場合、医師・税理士等の資格や会社役員・公務員等の地位を失う

     

    「補助」

    〇判断能力が不十分な人が対象

    〇申立てができるのは本人・配偶者・四親等内の親族・検察官・市町村長など

    〇申立てにより、民法13条1項の掲げられている借金・訴訟行為・相続の承認や放棄・新築や増改築などの一部の同意権と、取消権(日常生活に関する行為を除く)などが与えられる

     

     

    たとえば、後見人は本人に代わって、所有している不動産の売却手続きをすることができます。

     

    また、悪徳業者によるリフォーム契約の取り消しをすることができます。

     

     

    【手続きなどでの注意点】

    〇申立てには、申立書などの書類や本人の戸籍謄本、申立て手数料や登記手数料などが必要です。

     

    〇法定後見を申立てる際、医師の診断書の添付を求められます。この診断書が、「後見」「保佐」「補助」の決定において重要視されます。

     

    〇審判では、医師による鑑定を必要とする場合もあるため、選任までに数ヵ月もかかることがあります。

     

    〇後見人の選任は家庭裁判所が決定するため、申立て人の希望に沿うとは限りません。候補者として家族や親族を挙げていても、本人が必要とする支援などの内容によっては、たとえば候補者以外の人で弁護士や司法書士、社会福祉士、税理士などの専門職や、法律又は福祉に関わる法人などが選ばれる場合があります。

     

     

    【後見人の役割や注意点】

    〇成年後見人制度は、あくまでも本人のための制度であるため、たとえば、相続税対策のための贈与や借入、投機的な運用等はできません。

     

    〇成年後見人から請求があった場合は、家庭裁判所の判断により、本人の財産から報酬が支払われることになります。

     

    〇成年後見人の仕事は、本人の財産管理や契約などの法律行為に関するものに限られています。そのため、食事の世話や介護などは一般には成年後見人の仕事ではありません。

     

    〇成年後見人は、行った仕事の報告を家庭裁判所に報告し、必要な指示等を受けます。これを、「後見監督」といいます。

     

    〇原則として、後見人は本人が死亡するまで任務が続くことになります。

     

     

    平均寿命の長さ、高齢者の数、高齢化のスピードなどから見ていくと、日本はすでに「超高齢化社会」に突入しているといいます。

     

    それにともない、さまざまな事故や問題も起きています。

    認知症の高齢者の徘徊による鉄道事故に関しては、以前、解説しました。

     

    「鉄道事故の賠償金は、いくら?」

    https://taniharamakoto.com/archives/1421

     

    また、2013年には親族に代って成年後見を申し立てた市区町村長の数が、本人の子供についで2番目の多さになったという報道がありました。この5年で2.7倍に増加しているということです。

     

    家族のいない、身寄りのない高齢者がいかに増加しているかが見てとれます。

     

    時代の変化に合わせて、法律と上手につきあっていくための知識が今後ますます求められているのかもしれません。

  • 遺産相続における特別受益とは何?

    2014年07月09日

    松下幸之助さんが生前、こんなことを言ったそうです。

    「嫉妬は狐色に焼くのがよろしい」

    焼きが足りなくてもいけないし、焼き過ぎてもいけない。
    嫉妬は、こんがり狐色くらいが程よく香りも立って、人間味も出て、さらには本人の向上心にもつながる。
    そんなことをユーモアで表現したのでしょう。

    とかく、人間が集まると嫉妬が芽生え始めるものです。
    それは会社の人間関係でも友人同士でも、家族の間でもあるものです。

    「お姉ちゃんばかり、ずるい!」
    「父も母も弟であるお前ばかり可愛がって、うらやましかった」

    子供の頃、兄弟姉妹でこんな不公平を感じていた人も大人になり何事もなく、それぞれの家庭を持って暮らしていたのに、ある問題がきっかけで、兄弟の仲が険悪になってしまうこともあります。

    今回は、不公平を感じてきた兄弟姉妹間の遺産相続問題を解説します。

    Q)父が亡くなり、兄弟間で遺産問題が起きてしまいました。問題は弟です。私たち兄弟は長女である私、次女、長男である弟の3人です。父も母も後継ぎとして、小さい頃から弟を可愛がってきました。それは姉である私たちも同じですが、やはり少し甘やかしすぎたようです。弟は大学進学資金、結婚費用を親から出してもらい、おまけに実家から飛び出し、マイホーム資金まで出してもらったにも関わらず、父の死後、「自分が後継ぎなんだから遺産を多くもらって当然だ」と主張します。今まで親からの援助を多く受けてきた弟が、さらに遺産相続も多くもらう権利があるなんて、おかしくないですか? もう、我慢できず法的に対応しようと考えています。どのように進めていけばよいのでしょうか? ちなみに、母は健在で父の遺言書はありません。

    A)被相続人から特別に財産をもらった相続人がいる場合、その財産も遺産の一部とみなして法定相続分から差し引いてから遺産分割することを「特別受益」といいます。

    つまり、特別受益とは、質問のように被相続人である父の生前に法定相続人の1人である弟が特別に利益を受けていた場合、遺産分割の際に弟が同じ相続分を受けられるとすれば、それは不公平になってしまいます。そのため、受けるべき財産額の「前倒し」を受けていたとして扱うことで、不公平を是正する制度ということです。(「民法」第903条)

    質問からは実際の金額がどのくらいかはわかりませんが、仮に、遺産が5,000万円、弟が受けていた利益を1,000万円とすると、具体的な法定相続分は以下のようになります。

    「みなし財産」
    5,000万円+1,000万円=6,000万円

    「各相続人の相続分」
    妻:6,000万円×2分の1=3,000万円
    長女:6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円
    次女:6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円
    長男:6,000万円×2分の1×3分の1=1,000万円

    ここで、長男である弟はすでに贈与として1,000万円を受けているので、差し引いた残額は0円。
    よって、単純に計算すると、今回の法定相続分は弟にはないということになります。

    ただし、注意点があります。

    ①みなし財産から控除する特別受益は、贈与時ではなく相続開始時で評価するため、住居などは現実の遺産分割時の不動産評価額を参考にして修正し算定することが多くあります。

    ②生活費の援助や結婚式費用など、社会通念上、遺産の前渡しとまではいいがたい範囲の金額は特別受益とはいえないとされる場合があります。

    ③法定相続人全員が合意すれば、遺産は法定相続分のとおりにきっちり分割する必要はありません。こうした話し合いを、「遺産分割協議」といいます。

    つまり、弟の「自分が後継ぎだから遺産を多くもらって当然」という考えは違法ではありませんが、法定相続人間で話がまとまらず合意が得られないため法的な対応を考えているなら、今後は家庭裁判所の調停の手続に入ることになります。

    家庭裁判所の調停は、場合によっては何年もかかることがあり、さらに親族間でもめて関係が悪化することも考えられますから、今後の対応については慎重に判断していただきたいと思います。

    ご相談は、こちらから⇒ http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 子供のいない妻は夫の遺産を100%相続できない!?

    2014年07月03日

    遺産の相続問題で、こんな話を聞くことがあります。
    「うちの夫婦には子どもがいないから相続が簡単。ラクでいい」

    確かに一見すると、簡単そうに思えますが、果たして法律的にはどうなのでしょうか?

    今回は、子供のいない夫婦の相続問題を法的に解説します。

    Q)夫を病気で亡くしました。59歳でした。突然のことだったので、遺言書は見つかっていません。私は相続のことなど考えてもいなくて、勉強もしていませんでした。私たち夫婦には子供がいなかったので、夫の遺産は私が相続するものだと、勝手に漠然と思っていたのです。しかし、49日が過ぎたころ、義理の姉とその息子がやってきて、「遺産を相続する権利が自分たちにもある」というのです。本当でしょうか? 私は義姉とは特に仲が良かったわけでもないので、心情的には納得がいきません。ちなみに夫の遺産は2人で住んでいたマンションとわずかな預金のみ。夫の父母は数年前に亡くなっています。(茨城県在住 S・Tさん 56歳 主婦)

    A)個人が亡くなった場合、その人は「被相続人」となり、権利義務
    を「相続人」が承継します。

    民法では、相続人の順位が決められています。

    〇第1順位:子(直系卑族)
    ※養子・非嫡出子・胎児を含みます
    ※子が死亡している場合は、孫や曾孫に代襲相続されます

    〇第2順位:父母(直系尊属)
    ※父母が死亡している場合は、祖父母が相続人になります
    ※第1順位の人がいない場合のみ、相続人になります

    〇第3順位:兄弟姉妹
    ※第1・第2順位の人がいない場合のみ相続人になります
    ※兄弟姉妹が死亡している場合は、甥・姪が相続人になります

    〇配偶者:夫または妻
    ※配偶者は、つねに相続人になります
    ※法律上の婚姻関係にある者で。内縁関係では相続人にはなりません

    S・Tさんのように子供のいない夫婦で旦那さんが亡くなった場合、まず配偶者であるS・Tさんは相続人になります。

    次に、子供はいないため、夫の父母に相続人である権利がありますが、どちらも亡くなっているため、第3順位の夫の姉に相続権が発生することになります。

    父母が健在なら、S・Tさんの法定相続分は3分の2、親が3分の1となりますが、今回のケースでは、義理の姉にも相続権があります。
    法定相続分は、S・Tさん4分の3、姉が4分の1となります

    ここでは仮に、マンションの評価額1,800万円、預金200万円として、義理の姉とお金で解決する前提で考えてみると、S・Tさんが義理の姉に支払わなければいけない金額は、法的には500万円になってしまいます。

    もし、S・Tさんに十分な預貯金がない場合は、マンションを売却するしかなくなってしまいます。
    すると、生活基盤である住まいを失い、S・Tさんの生活は一気に不安定な状況になってしまいます。

    さぁ、困ったことになってきました。
    果たして、こうした事態を回避する方法はあるのでしょうか?

    いくつかありますので、順に説明していきます。

    ①「法定相続人に相続放棄してもらう」
    被相続人が死亡すると自動的に相続が開始されますが、相続人は、自分が望まないのに無理矢理相続する義務があるわけではありません。また、被相続人に多額の借金がある場合、借金も相続されますので、なんとか相続を逃れない、という場合もあるでしょう。

    そんな時、相続人は「相続放棄」をすることができます。

    相続放棄をすれば、始めから相続人ではなかったことになります。今回の場合、義理の姉が始めから相続人でなかったことになり、S・Tさんが全ての財産を相続することができます。

    ただ、「遺産を相続する権利が自分たちにもある」という登場の仕方から考えると、相続放棄してもらえる可能性は低いでしょう。

    ②遺産分割協議をする。

    法定相続人全員が合意すれば、遺産は法定相続分のとおりにきっちり分割する必要はありません。
    こうした話し合いを「遺産分割協議」といいます。

    S・Tさんの場合は、法定相続人の1人である義理のお姉さんと話し合って、S・Tさんが支払える限度のお金の相続で我慢してもらうか、マンションの持分の一部を相続してもらって、そのマンションの分割を求めない旨の合意をすることも考えられます(但し、5年が上限です)。

    ②「遺言書を遺しておいてもらう」
    遺言を遺しておけば、財産の分け方を本人の意思で決めることができます。

    「自筆証書遺言の書き方」の詳しい解説はこちら
    ⇒ https://taniharamakoto.com/archives/1372

    ただし、法定相続人には最低限の財産を受け取る権利である「遺留分」が認められているので注意が必要です。

    たとえば、子供が2人いる場合、夫が「自分の全財産を妻に相続させる」という遺言を遺しても、子供は「遺留分」を受け取ることができます。
    この場合、遺産等の全体の2分の1が遺留分となり、そこに子供の法定相続分である4分の1を掛けた8分の1ずつが子供たちの遺留分となります。

    ところが、兄弟姉妹や甥・姪が法定相続人になる場合は遺留分が認められないので、S・Tさんの場合、「全ての財産を妻に相続させる」という遺言書を遺しておいてもらっていれば遺産の全額を相続できるということになります。

    S・Tさんの場合、誠意をもって義姉と話し合いをして理解してもらうか、もしくは旦那さんが遺言書を遺している可能性もあるので、公証役場で探しもらったり、遺品の整理をしてみることをおすすめします。

    ご相談は、こちらから。
    http://www.bengoshi-sos.com/about/0902/

  • 相続した不動産を兄弟間で争わずに分割する方法とは?

    2014年06月24日

    一定の年齢になると、多くの人はあの問題に直面します。

    お金も絡んでややこしく、時に争いにまで発展することもあるものといえば……相続問題です。

    父親も母親もまだ生きているから、後で考えよう。
    親の死なんて、縁起でもないことは考えたくない。

    そんなことを言っているうちに、いざという時がきて、あわてたり、親族間の争いが起こったりすることがあります。

    そこで今回は、相続に関する相談を法的に解説してみたいと思います。

    Q)いっしょに暮していた父(68)が亡くなり、財産を相続することになりました。しかし、父には現金の財産はほとんどなく、大きな遺産は実家の家と土地です。私には弟が一人いて、母はすでに亡くなっています。この家と土地を私と弟で相続するわけですが、争わずに分割するいい方法はありますか? (神奈川県在住 T・Hさん 40歳 会社員)

    A)相続問題で、よく相談されるもののひとつに相続した財産の分割問題があります。

    相続の問題というと、資産家や経営者一家の問題と考えている人もいるでしょうが、じつは一般的な家族にこそトラブルが起こりがちです。

    相談者であるT・Hさんの抱えている問題はその典型ともいえます。

    多くの一般家庭では、現金の財産は少なく、大きな財産といえば実家の土地と家ということがよくあります。
    この不動産を分割して相続するときにトラブルが起こりがちなのです。

    では、この土地と家を、どのように弟と分ければいいのでしょうか?

    遺産分割には、大きく分けると以下の3つの方法があります。

    ①現物分割
    ②代償分割
    ③換価分割

    【現物分割】
    相続した不動産(現物)を共同相続人と分割する方法。
    遺産が土地の場合は、区画に分けて(分筆して)相続しますが、狭い土地の場合は分割するのが難しい。
    また、建物は分割できないという問題があります。

    【代償分割】
    債務負担による分割方法。
    簡単にいうと、不動産を相続した人が他の相続人に対して、自分の預貯金から代償金を渡すわけです。
    ある程度、平等に財産を分割することができます。
    しかし、不動産を相続した人にまとまった現金がない場合は、他の相続人に代償金を渡すことができないという問題が発生します。また、不動産の価値で意見が分かれ、紛争に発展することもあります。

    【換価分割】
    不動産を売却して、その代金を相続人間で分割する方法。
    平等に分割することができるが、家と土地を売却するため、そこに住んでいる人がいる場合、問題が生じるケースがあります。

    遺産相続は、原則的には「現物分割」で行われますが、建物は分割できないという物理的問題や、分割することで著しく価値が損なわれるような場合には「代償分割」を考えます。

    「代償分割」の場合、T・Hさんが弟に渡すお金は厳密に法定相続分きっちりである必要はありません。
    兄弟で話し合って、お互いが納得できる金額にすれば問題はありません。

    しかし、小さな土地と一軒家でも都心に近ければ数千万円にはなるでしょうから、T・Hさんが弟に不動産の代償金を渡せるだけの現金をもっていなければ、事態は難しくなります。
    いずれにせよ、兄弟間での話し合いが必要となるでしょう。

    「換価分割」を選ぶなら、T・Hさんがこの家に住んでいるという部分をどうするか、検討する必要があります。

    相続人の間で話し合いがうまくいかなければ家庭裁判所の調停の手続に入ることになります。

    家庭裁判所の調停は、場合によっては何年もかかることがあり、親族間の関係もぎくしゃくしたものになってしまいます。

    お互いが譲り合い、尊重しあって兄弟仲良く生きて行きたいものです。