法律解説 | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 3
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 中傷投稿やツイートに対抗する法的手段とは?

    2014年01月29日


    SNSにおける投稿者情報の開示に関する案件

    近年、多くの人が利用し、便利、楽しいと同時にさまざまな問題の原因にもなっている、SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)。

    先日、「ツイッター」を舞台にした、ある異例な判決が出されました。

    <「詐欺師」「自己中」「ぶさいく」中傷ツイートの投稿者情報、開示求める 東京地裁>(2014年1月21日 産経ニュース)

    ツイッターで「詐欺師」などと中傷された静岡県の男性(62)が、投稿者を特定するため、アメリカのツイッター社に対して接続情報の開示を求める仮処分を東京地裁へ申し立て、認められていたことが分かりました。

    原告側の代理人によると、男性は平成23年ごろからツイッター上で特定の人物から、「この詐欺師!」「自己中ぶさいく」などの中傷投稿を繰り返し行われていたということです。

    そこで2013年4月、ツイッター社に対して投稿者の接続情報を開示するよう求める仮処分を申請。

    東京地裁は同年7月、男性への名誉棄損を認め、ツイッター社に対して「IPアドレス」(ネットワーク上の識別用の番号、住所)の開示を命じたようです。

    その後、原告側は開示された情報をもとに、プロバイダー(接続事業者)であるソフトバンクBBに対して投稿者の氏名や住所の開示を求める訴えを起こし、今月16日、東京地裁は開示を認める判決を言い渡したということです。

    既に投稿は削除されているようですが、原告側は投稿者と直接連絡を取り、今後は中傷しないように求めるようです。

    報道では、今まで接続情報の開示は「2ちゃんねる」などの掲示板が多かったのですが、ツイッターに対して開示が認められたのは極めて異例なこととしています。

    実際、ネット上の掲示板やツイッターなどの中傷投稿で困っている人もいると思いますので、本件をサンプルとして、投稿者に対する不法行為(名誉棄損)に基づく「発信者情報開示請求」について、ここでその手続き方法等を簡潔に解説しておきましょう。

    投稿者の特定のための請求

    ネット上の掲示板などは、通常、匿名での書き込みのため、投稿者に対して損害賠償請求を行うためには、まずは当該加害者を特定する必要があります。
    そのために、発信者情報開示請求ができます。(プロバイダ責任制限法4条1項)

    開示請求することができる発信者情報

    ①氏名又は名称
    ②住所
    ③電子メールアドレス
    ④IPアドレス
    ⑤侵害情報の係る携帯電話端末又はPHS端末からのインターネット接続サービス利用者識別符号
    ⑥侵害情報に係るSIMカード識別番号(個体識別番号)
    ⑦IPアドレスが割り当てられた電気通信設備、⑤又は⑥に係る携帯電話端末等から情報送信された年月日及び時刻(タイムスタンプ)

    発信者情報開示請求の手順

    一般的に、掲示板等に書き込みをする場合、どのような仕組みなのかを簡単に説明しておきます。

    ①インターネット接続契約をしている経由プロバイダに接続
    ②経由プロバイダにおける認証サーバがIPアドレスの割り当て、タイムスタンプを記録
    ③当該経由プロバイダを経由して、掲示板管理者であるコンテンツプロバイダに接続
    ④コンテンツプロバイダのウェブサーバにおいて当該IPアドレス及びタイムスタンプを記録

    以上のように、通常、掲示板を管理するコンテンツプロバイダのウェブサーバには、タイムスタンプと経由プロバイダから割り振られたIPアドレス等が記録されるのみで、投稿者の氏名や住所などの情報は記録されません。

    そのため、投稿者を特定するための発信者情報開示請求は、2段階に分けて行う必要があります。

    ステップ1

    掲示板管理会社(コンテンツプロバイダ)に対する、IPアドレス及びタイムスタンプなどの発信者情報開示請求

    情報を得たIPアドレスについて「WHOIS」検索を行い、これを保有する経由プロバイダを特定

    ステップ2

    経由プロバイダに対して、投稿者の氏名・住所・メールアドレス等の発信者情報開示請求

    その際、プロバイダ責任制限法4条1項に基づく請求であるため、以下の要件を主張する必要があります。

    ①「請求権者」
    特定電気通信(プロバイダ責任制限法2条1号)による情報の流通によって自己の権利を侵害された者であること

    ②「被請求権者」
    開示関係役務提供者(当該特定電気通信の用に供される特定電気通信設備を用いる特定電気通信役務提供者)であること

    ③侵害情報の流通によって当該開示の請求をする者の権利が侵害されたことが明らかであること

    ④当該発信者情報が当該開示の請求をする者の損害賠償請求権の行使のために必要である場合、その他発信者情報の開示を受けるべき正当な理由があること

    注意点

    ①通常、大手プロバイダのアクセスログ保存期間は2週間~3ヵ月程度という短期間とされているので、手続を迅速に行う必要があります。

    ②経由プロバイダが判明したとしても、その時点でのアクセスログの保存期間満了の問題が心配されます。まずは内容証明郵便による通知をして個別の保存対応をしてもらうよう求めましょう。

    ③任意の保存に応じられないという回答の場合は、コンテンツプロバイダのときと同様に、発信者情報の保存の仮処分命令の申立てを行うことになります。

    投稿の削除請求

    掲示板上に不法な投稿が掲載されたままでは、名誉棄損による被害が継続されることになります。そのため、民法723条(名誉棄損における原状回復)等に基づく差止請求として、該当する記載投稿の削除請求をすることができます。

    これは、掲示板管理者に対しても可能ですが、膨大な量の書き込みを掲示板管理者が随時チェックして検討するのは物理的、現実的に困難であることから、過去の判例では、掲示板管理者の場合は、被害者から具体的な削除請求を受けた後も不当にこれを放置した場合のみ削除義務が認められるとされています。(東京高判平成13年9月5日判タ1088号94頁、東京地判平成11年9月24日判タ1054号228頁等)

    いずれにしても、やはり複雑な手続きが必要となってくるため、費用がかかったとしても、弁護士を代理人として事に当たるのがいいでしょう。

    SNSによって誰もが全世界に情報を発信できるようになりました。

    非常に便利なツールです。

    しかし、反面、故人がとても簡単に名誉毀損や侮辱、信用毀損などをしたりすることもできてしまいます。

    原子力発電と原子力爆弾の関係もそうですが、人間にとって有益な発明は、その裏側に必ず弊害を伴うものですね。

    人間の善なる心を信じたいものです。