ニュース | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜 - Part 3
東京都千代田区麹町2丁目3番麹町プレイス2階 みらい総合法律事務所
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  • 卑わいな言動(迷惑防止条例)は、危ない

    2017年11月02日

    今回は“おもちゃ”を使った犯罪について解説します。

    おもちゃはおもちゃでも……

    「“驚くのが快感”玩具使って下半身露出装う 古物商の63歳男を書類送検」(2017年10月30日 産経新聞)

    大阪府警枚方署は、枚方市の古物商の男(63)を大阪府迷惑防止条例違反(ひわいな言動など)の疑いなどで書類送検しました。

    事件があったのは、2017(平成29)年3月30日と6月27日の午前。
    男は枚方市の路上で、男性器を模した玩具を使い下半身を露出したように装ったということです。

    同署によると、男は実際には衣服は脱いでいなかったものの、周辺の防犯カメラの画像などから容疑者として浮上したようです。

    男は、「2年半ぐらい前からやっている。女性に見せると相手が驚くのが快感だった」などと供述し、容疑を認めているということです。

     

    迷惑防止条例は名称に違いはありますが、現在47の都道府県すべてで定められています。
    その目的は、各都道府県民に対する迷惑行為や暴力行為などを防止し、生活の安全と秩序を維持することとなっています。

    「大阪府迷惑防止条例」
    第6条(卑わいな行為の禁止)
    1.何人も、次に掲げる行為をしてはならない。

    四 前三号に掲げるもののほか、人に対し、公共の場所又は公共の乗物において、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような卑わいな言動をすること。

    これに違反した場合は、6ヵ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処されます。(第17条1項2号)

    とは言え、今回は、局部を露出したわけではなく、局部を露出したように装っていただけで、見えていたのは、おもちゃです。

    一体何が「卑わいな言動」だったのでしょうか。

    最高裁平成20年11月10日判決を見てみましょう。

    この事件は、平成18年7月21日午後7時ころ,旭川市内のショッピングセンター1階の出入口付近から女性靴売場にかけて、当時27歳の女性客の少なくとも約5分間、40m余りにわたって付けねらい、背後の約1ないし3mの距離から、右手に所持したデジタルカメラ機能付きの携帯電話を自己の腰部付近まで下げて、細身のズボンを着用した同女の臀部を同カメラでねらい、約11回これを撮影した、というものです。

    北海道の迷惑防止条例違反に問われた事件です。

    要するに、女性の臀部をズボンの上から撮影した、ということです。

    この事件で、最高裁は、「被告人の本件撮影行為は、・・・・社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり、これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ、被害者に不安を覚えさせるものといえる」として、有罪にしています。

    この基準から考えると、たとえ身体を露出していないとしても、男性器を模した玩具を使い下半身を露出したように装う行為は、社会通念上、性的道義観念に反する下品でみだらな動作であることは明らかであり、これを知ったときに被害者を著しくしゅう恥させ、被害者に不安を覚えさせるものといえるでしょう。

    そこで、迷惑防止条例に違反する、と判断されたのでしょう。

    ちなみに、過去の報道で、迷惑防止条例違反に問われたものには、次のようなものがあります。

    ・帰宅途中の小学1年生の女児(6)に声をかけ、腕や腰を触った69歳の男が群馬県迷惑防止条例違反(卑猥な行為の禁止)の疑いで逮捕。
    (2017年5月28日 産経新聞)

    ・2011(平成23)年6月、17年前から約4000人の女児に「唾の研究をしている」などと声をかけ、500人以上の唾を収集していた男が東京都迷惑防止条例違反(常習ひわい行為)容疑で逮捕。
    (2017年1月24日 産経新聞)

    ・靴に仕込んだ小型ビデオカメラで小学生女児のスカートの中を撮影しようとした男が大阪府迷惑防止条例違反(ひわいな言動)容疑で逮捕。
    (2014年7月20日 産経新聞)

    ・10年間毎日、若い女性にわいせつな電話をかけ続けていた男(72)が、奈良県迷惑防止条例違反容疑で逮捕。
    (2016年12月19日 産経新聞)

    ・側溝の中で寝そべり、側溝のふた越しに女性の下着を仰ぎ見ていた男が兵庫県惑防止条例違反容疑で逮捕。
    (2015年12月7日 産経新聞)

    実際に触ったり、局部を露出したり、というようなことをしなければ迷惑防止条例に違反しないと思っている人もいるでしょうが、「卑わいな言動」というのは意外に広い概念です。

    他人が嫌悪するような行為は法律違反になる可能性があるので、いたずら半分に行わないように気をつけましょう。

  • SNSのなりすまし行為で名誉毀損に。

    2017年09月14日

    SNS上で何者かが自分なりすまし、他の利用者を罵倒する書き込みをしていたら…あなたはどうしますか?

    今回は、誰にでも起こるかもしれないSNSでの「なりすまし事件」の民事訴訟について解説します。

    「SNSでなりすまし、他人を罵倒 名誉権侵害で賠償命令」(2017年8月30日 朝日新聞)

    長野県在住の男性が、「インターネット上の掲示板に、自分になりすまして投稿され肖像権などを侵害された」として、大阪府枚方市の男性に723万円の損害賠償を求めた訴訟の判決が大阪地裁でありました。

    裁判所は、「社会的評価を低下させ、名誉権を侵害した」として被告側に130万円の支払いを命じました。

    事件があったのは、2015年5月。
    原告男性がSNS「GREE(グリー)」で使用していたプロフィール画像の顔写真や登録名を、被告男性が無断で使ってなりすまし、掲示板に「お前の性格の醜さは、みなが知った事だろう」などと別の利用者を罵倒する内容の書き込みをしたということです。

    「正当な目的なく顔写真を使い、男性が他者を根拠なく侮辱、罵倒して掲示板の場を乱す人間であるとの誤解を与えるような投稿をした」と指摘し、原告男性の肖像権、名誉権を侵害したと結論づけました。

    なお、原告男性は今回の訴訟に先立ち、2015(平成27)年10月にSNS運営会社に対し、発信者情報の開示を求めて大阪地裁に提訴しており、一審は棄却したものの、2016(平成28)年10月に大阪高裁の開示命令判決を受けたことで、被告を特定して損害賠償を求める訴訟を起こしていたとうことです。

     

    まずは、民事における損害賠償請求について見ていきましょう。

    民法の規定により、名誉を侵害された場合は不法行為による損害賠償を請求することができます。

    「民法」
    第709条(不法行為による損害賠償)
    故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。

     

    第710条(財産以外の損害の賠償)
    他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

     

    第723条(名誉毀損における原状回復)
    他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。

     

    ここでのポイントは、なりすましをされただけでは一般的には名誉などの権利を侵害されたとはいえないことです。
    つまり、今回の事件でいえば、被告がなりすましている間に、原告の「名誉を毀損した」、つまり、「社会的評価を低下させる」ような書き込みをしたかどうかが争点になるわけです。

    なお、ネット上の中傷投稿に名誉毀損やプライバシーの侵害の内容が含まれている場合は、「発信者情報開示請求」をすることができます。

    詳しい解説はこちら⇒
    中傷投稿やツイートに対抗する法的手段とは?

    ネット上の言動は、バレないと思っている人もいるかもしれません。

    しかし、たとえば、ツイッターで爆破予告などをすると、すぐ特定されて、警察等の業務を妨害した、といことで逮捕されたりしますし、今回のように、損害賠償請求を受けたりします。

    ネットやSNSの容易性を甘く見て、人生を棒に振らないように気をつけていただきたいところです。

  • 武井咲さん(オスカー)は違約金を支払うのか?

    2017年09月06日

    女優の武井咲さんとEXILEのボーカル、TAKAHIROさんが結婚したとの報道がありました。

    武井さんは妊娠3カ月で、2018年春に出産予定ということです。

    おめでたいことですね。

    と、思っていたら、マスコミでは、武井さんの所属事務所オスカープロモーションが違約金を支払う可能性があり、その額は10億円もありうる、などと言われています。

    「違約金」というのは、約束に違反した場合に支払われる金員ですが、法的には「損害賠償金」の一種です。

    損害賠償金には、約束に違反した場合である債務不履行に基づく損害賠償金と、違法な行為を行った場合である不法行為に基づく損害賠償金があります。

    では、今回の場合は、どうなるのでしょうか?

    登場するのは、

    ・武井さん
    ・TAKAHIROさん
    ・オスカープロモーション
    ・広告代理店等出演契約先

    です。

    このうち、TAKAHIROさんは、オスカーとも出演契約先とも何の契約もないので、違約金の話からは除外されます。

    そして、契約関係は、

    ●武井さん - オスカー

    ●オスカー - 広告代理店等

    となっており、

    ×武井さん - 広告代理店等

    ではありません。

    したがって、広告代理店等は、武井さん個人に対しては、契約責任を問えません。

    違約金請求はできない、ということです。

    では、不法行為責任はどうか?

    武井さんが、広告代理店等に損害を与える目的で、妊娠していないのに嘘の情報を流してCMをキャンセルさせた、などの場合には、「不法行為」に基づく損害賠償ということもあり得ますが、今回は可能性が低そうですね。

    ということは、損害賠償の問題としては、

    ●広告代理店等 → オスカー

    ということになります。

    そして、もし、オスカーが広告代理店等に対して損害賠償金を支払った時は、

    ●武井さん - オスカー

    との専属契約書に基づき、オスカーが武井さんに損害賠償を請求する、という可能性もなくはありません。

    さて、オスカーと広告代理店との契約関係としては、たとえばCM出演の場合には、「CM出演契約書」などが締結されているはずです。

    そこには、出演者を武井さんとし、武井さんのタレントとしての良好なイメージを保持する義務が記載されているのが通常です。

    契約によっては、CMの商品を特定し、その商品とのイメージを損なわないようイメージを保持する義務が謳われることもあるでしょう。

    商品やサービスのCMで、結婚や出産によりイメージダウンするものがあるとは想定しがたい(離婚情報サービスなどなら別ですが、聞いたことがないですね)ので、イメージダウンを理由として損害賠償、というのは難しいと思います。

    たとえば、日弁連も武井さんを起用したCMを作っています。⇒
    イメージアップ広報CM/「突然の崖」篇 15秒|日弁連|

    武井さんが結婚や出産することで、日弁連のイメージが損なわれるか、というと、それはないですね。

    もう1つの論点は、オスカーが損害賠償責任を負担するには、契約内容にもよりますが、通常は、オスカーに「故意」や「過失」があることが必要とされます。

    オスカーが、武井さんの結婚や妊娠がCMのイメージを損なうことを認識し、かつ、それ故に結婚や妊娠を防止する措置を講じることができることが必要なわけですね。

    防止措置を講じることができたのに防止措置をとらなかったというようなことが過失と認定されるわけです。

    確かに、プロダクションの専属契約書では、「恋愛禁止」などが盛り込まれることがあります。

    そして、アイドルに関し、この恋愛禁止条項に違反した、として、プロダクションがアイドルに対して損害賠償請求をした、という事案があります。

    これについては、平成27年9月18日東京地裁判決は、アイドルに対し、65万円の損害賠償を命じ、平成28年1月18日東京地裁判決は、アイドルは損害賠償責任はない、としています。

    アイドルやタレントが恋愛や結婚をすると、人気が落ちてしまうのは、仕方のないことかもしれません。

    しかし、人間として恋愛、結婚、出産をしたり、しなかったり、というのは、個人の尊厳に基づく幸福追求の権利の一つです。

    したがって、これを専属契約期間の全てにわたって契約で禁止するのは、私個人としては、公序良俗に反し、無効だと考えています。

    したがって、オスカーには故意も過失もなく、損害賠償責任は発生しないと考えたいと思います。

    ただし、出演作品が、体型を強調するCMであったりする場合には、少なくともその間は仕事に支障がないように気をつける義務はあると思いますので、もし、妊娠による体型変化とCM撮影時期が重なるようなことがあると、損害賠償責任の発生の可能性もありえるかもしれません。しかし、そうであれば、事前協議により撮影前倒しなどで対応可能なので、問題は回避できるように思います。

  • ゴルフ場が酒を出したら賠償判決!

    2017年08月18日

    「ゴルフ場で飲むビールは最高に旨い!」
    「お酒を飲みながらゴルフをするのが楽しみ! 」
    という人も多いと思います。

    しかし今後は、プレイヤーもクラブ側も要注意という判決が出たようなので解説します。

    「ゴルフ場でのカート飲酒運転事故、漫然と酒を提供したクラブにも“過失”-民事訴訟で大阪高裁判決」(2017年8月17日 産経新聞)

    ゴルフ場での飲酒後、カートの運転ミスで起きた人身事故を巡る民事訴訟で、大阪高裁は2017(平成29)年7月14日、ゴルフ場の酒提供を過失と認める判決を言い渡していたことがわかりました。

    事故が起きたのは、2009(平成21)年9月、兵庫県篠山市のゴルフクラブで行なわれたゴルフコンペ中でのこと。

    生ビールを中ジョッキで2杯ずつ飲んだ4人がカートに乗り込んだ後、運転していた男性が坂道の急な右カーブでハンドルを右に切りすぎ、さらにはブレーキも踏まなかったため、カートが斜面を転落。
    その際、助手席の男性が頸髄を損傷し、重い身体障害を負ったというものです。

    2014(平成26)年5月、負傷者への賠償金を支払った共済組合が、「事故は飲酒が原因で、幇助(ほうじょ)した責任がある」とゴルフ場経営会社に賠償金の一部負担を求めて提訴。

    2016(平成28)年11月の一審大阪地裁判決では、「ゴルフ場利用者は飲酒の危険を常識として認識しており、ゴルフ場側が酒の注文を断る義務はない」と判断し、共済組合側の請求を退けていました。

    ところが今回の二審大阪高裁は、事故には飲酒が影響し、ゴルフ場側が幇助したと指摘。
    「ビール注文時にセルフプレーの4人の誰かが運転し、事故を起こすことを予見できたのに漫然と酒を提供した」として、ゴルフ場経営会社の過失を認めたということです。

     

    今回の判決では、大阪高裁がゴルフ場側の過失を認めたわけですが、その過失とは事故の原因になった飲酒を幇助したというものです。

    幇助とは、手を貸す、手助けするという意味です。

    飲酒運転で幇助といえば、道路交通法が思い浮かびます。

    「道路交通法」
    第65条(酒気帯び運転等の禁止)
    1.何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
    2.何人も、酒気を帯びている者で、前項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがあるものに対し、車両等を提供してはならない。
    3.何人も、第一項の規定に違反して車両等を運転することとなるおそれがある者に対し、酒類を提供し、又は飲酒をすすめてはならない。
    4.何人も、車両の運転者が酒気を帯びていることを知りながら、当該運転者に対し、当該車両を運転して自己を運送することを要求し、又は依頼して、当該運転者が第一項の規定に違反して運転する車両に同乗してはならない。

     

    もちろん、今回のケースは公道ではなくゴルフ場内で発生したものですから道路交通法違反にはなりません。
    しかし近年、道路交通法で飲酒させた飲食店に刑事責任を発生させるようになった、という背景も今回の判決に影響していると思います。

    つまり、飲酒運転は重大事故につながる危険性が高いものであり、「飲む人だけでなく、飲ませた人、飲んだことを知って同乗した人も同じく責任がある」という思想が法的に重視されているということです。

    以前からゴルフのプレー中の飲酒については賛否両論があり、その危険性も指摘されていたようです。

    今後は、ゴルフをする人だけでなく、ゴルフ場側にも警鐘を鳴らす必要があるでしょう。

    道路交通法など、法律違反にならなくても、ゴルフ場が飲酒させたり、場合によっては、飲酒を知りながら運転させた人まで責任が発生する可能性がありますので、ご注意ください。

    なお、飲食店でお酒を注文する時に、「自動車や自転車を運転する予定はありませんか?」と訊ねるマニュアルを作成しているお店が現時点でもあります。

    今回の判決をきっかけに、ゴルフ場でも、たとえば、メニューに、「自動車や自転車、カートを運転する予定がある方へのアルコール類はご提供できません」と記載したり、アルコールの注文を受けた時に、「自動車や自転車、カートを運転する予定はありませんか?」と確認するというマニュアルが必要になるかもしれません。

    事故の被害にあったときは、こちらから相談。

    http://www.jikosos.net/

  • 肝試しもほどほどに。

    2017年07月29日

    夏です。

    今日も全国のどこかで「肝試し」が行なわれているでしょう。

    しかし、ちょっと待ってください!
    肝試しが犯罪になる可能性があります。

    「廃旅館で肝試し、高校生9人を書類送検へ 春日井署」(2017年7月27日 中日新聞)

    愛知県警春日井署は、春日井市内の廃虚となった旅館に「肝試し」の目的で立ち入ったとして、県内の男子高校生9人を軽犯罪法違反(立ち入り禁止場所への侵入)の疑いで書類送検する方針を固めました。

    事件が起きたのは、今年(2017年)6月23日夜。

    高校生たちは、肝試しの場所をインターネットで調べ、電車で行けそうなところを探し、懐中電灯持参で敷地と建物内に入ったということです。

    この旅館は1928年創業で、川沿いの風光明媚な立地や、名物の日本料理などで人気を集めていたものの、バブル期以降に客足が鈍り、2003年に破産。
    破産管財人と連絡が取れなくなり、窓ガラスが割れるなど廃虚状態になっていました。

    春日井市は高さ3メートルのバリケードや、防犯カメラ6台を設置するなど侵入防止策を講じていましたが、2012年には白骨遺体が見つかり、インターネットで「心霊スポット」として紹介されたことから侵入者が後を絶たない状態になっていたようです。

    同署によると、過去1年に近隣住民からの通報が10回以上あり、夏場には不審火も多発していることから、警戒を強めていたということです。

     

    【軽犯罪法とは?】
    軽犯罪法は、人がちょっとしたはずみで犯してしまうような軽微な秩序違反行為について定めている法律で、1948(昭和23)年に制定されました。

    悪質な重大犯罪を未然に防ぐ目的もあり、全部で33の違反行為が罪として定められています。

    今回の事件に該当するのは次の条文です。

    「軽犯罪法」
    第1条
    左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
    32 入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者

     

    拘留:受刑者を1日以上30日未満で刑事施設に収容する刑罰
    科料:1000円以上、1万円未満の金銭を強制的に徴収する刑罰です。

     

    【立ち入り禁止場所とは?】
    この32号は、条文にあるように「入ることを禁じた場所」と「他人の田畑」への立ち入りを禁止しています。

    入ることを禁じた場所とは、占有者や管理者が立ち入り禁止を外部に表明した場所のことです。
    表明の方法は、立札や貼り紙、縄(ロープ)を張る、柵などで囲うことでもいいですし、口頭でも成立します。

    今回の事件では、春日井市がこれまで無断侵入の防止策を講じており、「立ち入り禁止」の看板も設置していたということなので、廃墟となった旅館は「入ることを禁じた場所」に該当します。

    なお、「他人の田畑」には違和感を感じる人もいるかもしれませんが、これは軽犯罪法が成立した時代背景が関係しています。
    戦後の治安が不安定で食糧難の時代にあっては、農作物の盗難や耕作地の損壊などを防止するために、他人の田畑への侵入を禁止する必要があったということです。

     

    【他の法律との関係は?】
    立ち入りを禁止した場所といっても、その定義の違いによっては、同じく軽犯罪法の第1号(潜伏の罪)や、刑法の住居侵入罪に問われる可能性があります。

    「軽犯罪法」
    第1条
    左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
    1 人が住んでおらず、且つ、看守していない邸宅、建物又は船舶の内に正当な理由がなくてひそんでいた者

     

    「刑法」
    第130条(住居侵入等)
    正当な理由がないのに、人の住居若しくは人の看守する邸宅、建造物若しくは艦船に侵入し、又は要求を受けたにもかかわらずこれらの場所から退去しなかった者は、3年以下の懲役又は10万円以下の罰金に処する。

     

    邸宅というと豪邸のような家をイメージするかもしれませんが、ここでは住居として使用されていない空き家や、閉鎖された別荘、廃家などをいいます。

    建造物とは住宅以外の建物のことで、たとえば官公庁や学校、事務所、倉庫などが該当します。

    つまり、人が住んでいなくても看守(管理)されている邸宅や建造物に正当な理由なく侵入すれば住居侵入罪、侵入した邸宅や建造物が管理されていない場合は軽犯罪法第1号が適用される可能性があるということになります。

    さて、この高校生達、「肝試し」をしたわけですが、突然警察官が現れた時には、さぞかし「肝を冷やした」ことでしょう。

    今回のように、肝を試すだけでは済まないこともありますので、くれぐれも気をつけるようにしましょう。

    合唱。。

  • 夫と息子に洗剤を盛った女が逮捕…その容疑は?

    2017年07月19日

    妻が夫と息子に毒を盛って逮捕されるという事件が起きたようです。
    怖いです……。

    「夫・子供のお茶に洗剤混入…女を逮捕 愛知」(2017年7月19日 日テレNEWS24)

    愛知県知多市のパートの女(49)が、同居する夫(46)と子供(11)が飲むお茶に食器用洗剤を混入したとして逮捕されました。

    事件があったのは7月15日。

    自宅のお茶の味に違和感を感じた夫が台所にカメラを設置したところ、容疑者の女が冷蔵庫に保管していたペットボトルのお茶に洗剤を混入する様子が映っていたようです。

    調べに対し容疑者の女は、「覚えていません」と容疑を否認しており、警察は詳しく調べているとしています。

    なお、お茶を飲んだ夫と長男には目立った異変はないということです。

     

    こっそり洗剤を混入する妻と、こっそり監視カメラを仕掛ける夫とは、なんともサスペンスな展開ですが、それはさておき、まずは法的に今回の事件を解説していきます。

    「刑法」
    第208条(暴行)
    暴行を加えた者が人を傷害するに至らなかったときは、2年以下の懲役若しくは30万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処する。

     

    以前、暴行罪と傷害罪の違いについて解説しました。

    詳しい解説はこちら⇒
    「他人の毛を無断で抜くと傷害罪?切ると暴行罪?」
    https://taniharamakoto.com/archives/2329/

    法律上、暴行とは、人の身体に向けた「不法な有形力の行使」と定義されます。
    また、暴行罪は広義には傷害罪の一種とされており、条文にあるように、相手が「傷害するに至らなかったとき」は暴行罪、傷害を負えば傷害罪となります。

    第204条(傷害)
    人の身体を傷害した者は、15年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。

     

    暴行罪には、過去にさまざまな判例があります。

    ・通行人の数歩手前を狙って石を投げつける行為(東京高判昭25・6・10
    高集3-2-222)

    ・人の乗っている自動車に石を投げて命中させ、窓ガラスを破損する行為(東京高判昭30・4・9高集8-4-495)

    ・驚かせるつもりでイスを投げつける行為(仙台高判昭30・12・8判特2-24-1267)

    ・携帯用拡声器を用い耳元で大声を発する行為(大阪地判昭42・5・13判時487-70)

    ・食塩を他人の顔、胸等に数回振り掛ける行為(福岡高判昭46・10・11判時655-98)

    ・通り掛かりの女性に抱きつき帽子でその口を塞ぐ行為(名古屋高金沢支判昭30・3・8裁特2-5-119)

    通りすがりの女性に唾や尿をかけたという事件が起きることがありますが、人の体に直接触れなくても、相手の五感に直接間接に作用して不快感や苦痛を与えた場合は暴行罪になる可能性があります。

    歴史上、洋の東西を問わず、暗殺の手段として“毒を盛る”ということが行なわれてきました。

    気づかれないように食事に少しずつ毒を盛り、それを食べた相手は徐々に体調を壊していきます。
    そして、最後には死んでしまうわけですが、こうした場合は身近な者の犯行である場合が多いでしょう。

    先日も、千葉県の老人ホームで睡眠導入剤を混ぜたお茶を同僚に飲ませて体調不良を起こさせたり、自動車の運転をさせて交通事故を起こさせたという准看護師の女が逮捕されるという事件が起きました。

    暑い夏、食欲が減退します。

    山盛りご飯には挑戦して欲しいところですが、毒盛り飲料には気をつけてください。

    なさん飲物には気をつけましょう。

  • 客引きは、飲食店の経営者も摘発対象になります。

    2017年07月11日

    キャバクラなどでない一般の飲食店の客引き行為で、経営者が書類送検されたという事件が起きたので解説します。

    「六本木「赤ケバブ」店で執拗な客引き 風営法違反容疑 33歳トルコ人経営者を書類送検 「青ケバブ」店と競争激化」(2017年7月10日 産経新聞)

    「「ケバブ食べよう」と客引き、トルコ人の兄弟を逮捕 六本木」(2017年6月21日 産経新聞)

    執拗な客引き行為をしたとして、警視庁麻布署が東京・六本木のケバブ店を経営するトルコ国籍の男(33)を書類送検していたことが捜査関係者への取材でわかったということです。
    容疑は風営法違反です。

    事件の経緯をまとめます。

    ・現場は六本木の繁華街の中心部で、周辺では以前からトルコレストランの悪質な客引きが問題となっていた。

    ・看板の色から、通称「赤ケバブ」と呼ばれる2店はクルド系トルコ人が経営する店。
    その2店の間に、トルコ人が経営する通称「青ケバブ」と呼ばれる店があり、客引き競争が過熱していた。

    ・事件が起きたのは、今年(2017年)5月11日~6月3日。
    赤ケバブ店の従業員のトルコ人兄弟(24歳と20歳)が、「ケバブ食べよう」などと言い、路上で通行人の前に立ちふさがったり抱きついたりして執拗に客引きした。

    ・警視庁麻布署は6月21日、2人を風営法違反(客引き行為)の疑いで逮捕。
    レストランの客引き行為を風営法で摘発するのは警視庁で初となった。

    ・その後、同署は容疑者の兄弟の兄で、2人が働いていたケバブ店の経営者の男(トルコ国籍の33歳)を風営法違反容疑で書類送検。
    キャバクラやガールズバーなどではない一般的な飲食店の客引き行為に同法違反容疑を適用し、経営者を摘発するのは全国初となった。

     

    居酒屋や飲食店などの悪質な客引き行為については、通常の場合「迷惑防止条例」が適用されますが、今回は風営法違反での立件となっています。
    それはなぜか? というのが今回の事件のポイントになります。

    まずは、迷惑防止条例から見ていきます。

    迷惑防止条例は、公衆に対する迷惑行為や暴力行為などを防止し、生活の安全と秩序を維持することを目的としており、現在では全国の47都道府県すべてで制定されています。

    東京都の迷惑防止条例は、正式名称を「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」といい、全部で9条からなる条例です。

    その中から今回の事件に関係する条文を見てみます。

    「東京都迷惑防止条例」
    第7条(不当な客引行為等の禁止)
    1.何人も、公共の場所において、不特定の者に対し、次に掲げる行為をしてはならない。

    四 前三号に掲げるもののほか、人の身体又は衣服をとらえ、所持品を取りあげ、進路に立ちふさがり、身辺につきまとう等執ように客引きをすること。

     

    前三号とは次のようなものです。
    ・わいせつな見せ物、物品、行為などの販売、提供のための客引き等。
    ・売春類似行為をするための客引き等。
    ・異性による接待をして酒類をともなう飲食をさせる行為のための客引き等。

    これらに違反した場合、50万円以下の罰金又は拘留若しくは科料に処されます。

    次に、「風営法」について見ていきます。

    風営法は正式名称を「風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律」といい、酒類提供飲食店営業の許可を受けた店を除いて、営業場所や青少年(18歳未満)の立ち入りを規制することにより、風俗業務の適正化を図ることを目的としています。

    今回の事件に該当するのは次の条文です。

    「風営法」
    第22条(禁止行為等)
    1.風俗営業を営む者は、次に掲げる行為をしてはならない。

    一 当該営業に関し客引きをすること。
    二 当該営業に関し客引きをするため、道路その他公共の場所で、人の身辺に立ちふさがり、又はつきまとうこと。

     

    これに違反した場合は、6月以下の懲役若しくは100万円以下の罰金に処され、又はこれを併科となります。(第52条)

    風営法というと、いわゆる性風俗店や、キャバクラ、ガールズバー、ホストクラブなどのような客を接待してお酒を飲ませるお店に関する法律というイメージを持っている人が多いと思いますが、じつはバーや居酒屋、飲食店にも適用されます。

    これまでは、迷惑防止条例で対処していました。風営法では、「営業者」が客引きをしたと認定できなければならないのですが、その立証が簡単ではないので、とりあえず客引きという外形的行為をとらえ、迷惑防止条例で対処していた、ということでしょう。

    しかし、今回は、客引き行為が悪質であったこと、店の経営者が客引きを行わせていたことの立証が可能だと判断されたこと、また今後は規制を強化していくために店側(経営者など)も摘発の対象としたと考えられます。

    訪日外国人の増加や、2020年の東京オリンピック・パラリンピック開催も関係しているのかもしれません。

    とにかく、今後は飲食店などの客引きに関しては、従業員だけでなく経営者や店長も逮捕、書類送検の対象になる可能性があることは覚えておいた方がいいでしょう。

  • 親子間での嫌がらせ行為で逮捕

    2017年07月05日

    お金が絡んだ親子間のトラブルで息子が逮捕された、という事件が起きたようです。

    一体、何があったのでしょうか?

    「父親に金の無心、2千万円超 容疑で40歳男逮捕」(2017年7月3日 神戸新聞)

    兵庫県警伊丹署は、嫌がる父親(72)の元へ再三、金の無心に行ったとして、次男で住所不定、無職の男(40)を逮捕しました。

    逮捕に至るまでの経緯を簡単にまとめます。

    ・容疑者の次男は、高校卒業後は定職に就かず、アルバイトを転々としながら、20歳のころ実家を出て上京。
    30歳を前に関西に戻ってきたものの、何度も実家に帰ってきては「金がない」、「仕事が決まった。これが最後」などと父親に懇願して食費や交通費を要求していた。

    ・今年(2017年)4月、父親が同署に相談。
    署員が直接、男に注意したところ、「もう父親のところには行かない」と誓った。

    ・ところが、6月25日~7月2日、伊丹市の父親宅に毎日押しかけ、2000円~5000円の金を要求するなどしたため、7月2日に父親が「我慢の限界」として被害届を提出。
    父親は、「食費や交通費名目で、これまでに2000万円以上を渡していた」と説明。

    ・7月3日、同署は「嫌がらせ行為」を繰り返したとして次男を兵庫県迷惑防止条例違反の疑いで逮捕。
    同署の調べに容疑を認めているという次男の所持金は10円だった。

    同署は、こうした条例を親族間で適用するのは異例としています。

     

    現在、迷惑防止条例は、全国の47都道府県すべてで定められているもので、各都道府県民に対する迷惑行為や暴力行為などを防止し、生活の安全と秩序を維持することを目的としています。

    各都道府県によって正式名称が異なっているのですが、兵庫県では正式名称を「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」といいます。

    まずは条文から見てみましょう。

    「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」
    第10条の2(嫌がらせ行為の禁止等)
    1.何人も、正当な理由がないのに、特定の者に対し、執ように又は反復して行う次に掲げる行為(ストーカー行為等の規制等に関する法律第2条第2項に規定するストーカー行為を除く。)をしてはならない。

    (1)つきまとい、待ち伏せし、進路に立ち塞がり、住居、勤務先、学校その他その通常所在する場所の付近において見張りをし、又は住居等に押し掛けること(身体の安全、住居等の平穏若しくは名誉が害され、又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法により行われる場合に限る。)。

     

    これに違反した場合は、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金、常習者の場合は1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処されます。(第15条)

    この条項は、第3条の2(卑わいな行為等の禁止)が盗撮等を禁止するために拡大されたこととともに、2016(平成28)年3月23日の条例改正により追加され、同年7月1日から施行されているものです。

    今回の事件におけるポイントは、条文の「特定の者に対し、執ように又は反復して行う」という部分です。

    つまり、容疑者の次男は父親の家に押しかけて、長期間にわたって、執拗に反復して、何度も金の無心を行なったこと、そして被害者から相談を受けた警察が注意したにも関わらず、容疑者が“嫌がらせ行為”を止めなかったために逮捕された、ということだと思います。

    「金の切れ目が縁の切れ目」ということわざがありますが、親子間でもお金が絡むと犯罪にまで発展してしまうことがあるという教訓のような事件でした。

    みなさん、気をつけましょう。

  • アーティストのチケットの転売は犯罪!?

    2017年05月18日

    今回は、ファン心理につけ込んだ“ずるい”行為が犯罪になる件について解説します。

    「EXILEチケットを転売目的で大量購入 ダフ屋容疑で23歳を逮捕」(2017年5月12日 産経新聞)

    警視庁生活安全特別捜査隊は、人気グループ「EXILE」のメンバーらが出演するコンサートのチケットを転売目的で大量購入したとして、東京都調布市の洋服店店員の男(23)を、東京都迷惑防止条例違反(ダフ屋行為)の疑いで逮捕しました。

    報道によると、容疑者の男はEXILEのファンクラブに48口加入し、1枚当たり定価1万2960円のチケットを先行予約。
    2016(平成28)年6月20日未明、調布市国領町のコンビニで
    同年9月に東京ドームで開催されたコンサートチケット98枚を計約130万円で購入。
    その後、インターネットの販売サイトに最高約10万円で出品したということです。

    2015年7月から今年1月、サイトの運営業者から男の口座に約2000万円が振り込まれていることから、生活安全特別捜査隊は同様の手口を繰り返していたとみて調べているようです。

    男は、「転売目的でなく、いい席で見たいから買った」と容疑を否認しているということです。
    人気のあるアーティストの場合、競争率が高いためファンだからといって誰でもコンサートやライブのチケットを手に入れられるわけではありません。
    そこで今回のようなダフ屋行為が繰り返されているわけです。

    ダフ屋は、転売屋または転売師と呼ばれるもののひとつで、チケット等を転売目的でに購入し、高値で販売することで利益を得ます。

    現代ではインターネットが発達しているため、今回の事件のようにネットオークションで高値で転売する行為が問題になっています。

    今回の容疑は、迷惑防止条例です。

    迷惑防止条例は、全国の47都道府県でそれぞれ制定されています。
    東京都の迷惑防止条例は、正式名称を「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」といいますが、この第2条で「ダフ屋行為の禁止」について規定しています。

    まず、条文を見てみましょう。

    第2条 何人も、乗車券、急行券、指定券、寝台券その他運送機関を利用し得る権利を証する物又は入場券、観覧券その他公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物(以下「乗車券等」という。)を不特定の者に転売し、又は不特定の者に転売する目的を有する者に交付するため、乗車券等を、道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場その他の公共の場所(乗車券等を公衆に発売する場所を含む。以下「公共の場所」という。)又は汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機その他の公共の乗物(以下「公共の乗物」という。)において、買い、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは公衆の列に加わつて買おうとしてはならない。
    2 何人も、転売する目的で得た乗車券等を、公共の場所又は公共の乗物において、不特定の者に、売り、又はうろつき、人につきまとい、人に呼び掛け、ビラその他の文書図画を配り、若しくは乗車券等を展示して売ろうとしてはならない。
    条文が長いため、ここでは要約して内容をまとめておきます。

    1.転売の対象となるもの
    ・乗車券や急行券、寝台券(その他、運送機関を利用し得る権利を証する物)
    ・入場券、観覧券などのチケット(その他、公共の娯楽施設を利用し得る権利を証する物)

    2.違反となる転売の目的
    ・不特定の者に転売する目的
    ・転売目的者に交付する目的

    たとえば、自分で行こうと思って買ったチケットは、初めから転売目的での購入ではないので、自分が行けなくなったために他人に転売しても、罪には問われません。

    3.違反となる買い、または買おうとする以下の行為
    ・買う
    ・うろつく
    ・つきまとう
    ・呼びかける
    ・ビラなどを配る
    ・列に並んで買おうとする

    4.転売目的で得たチケットに関し、売り、または売ろうとする以下の行為

    ・売る
    ・うろつく
    ・つきまとう
    ・呼びかける
    ・ビラなどを配る
    ・展示して売ろうとする
    5.上記3および4の行為をしてはいけない場所
    ・公共の場(道路、公園、広場、駅、空港、ふ頭、興行場、その他の公共の場所)
    ・公共の乗り物(汽車、電車、乗合自動車、船舶、航空機、その他の公共の乗物)

    6.法定刑
    6月以下の懲役又は50万円以下の罰金(第8条)

    容疑者の男は、多くのお客が利用するコンビニの発券機でチケットを買ったため、「公共の場で」チケットを買ったと解釈されたということでしょう。

    いい席を手に入れたいから、98枚もの大量のチケットを買ったという言い訳は通用しないでしょう。

    ところで、迷惑防止条例は、「公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例」という名のとおり、「公衆への迷惑行為」を取り締まることを目的とする条例です。

    「転売」自体を取り締まるのが目的ではありません。

    したがって、インターネット上で転売目的でチケットを購入し、インターネット上で転売した場合には、迷惑防止条例の適用対象外ということになってしまいます。

    そのような場合の規制としては、古物営業法があります。

    過去には、約1年半にもわたって168人に299枚もの大量のチケットを販売したということで、古物営業法違反で逮捕された例があります。

    「古物」とは、一度使用された物品や美術品、商品券、乗車券、郵便切手、あるいは使用されない物品で使用のために取引されたものなどをいいます。

    ちなみに、古物の「営業」とは、生業に限定されず、「営利を目的として、反復継続する」ことです。

    したがって、インターネット上でも、大量にチケットを購入し、大量に転売していると、古物営業法違反に問われる可能性がある、ということです。

    このような転売が横行すると、コンサートに行きたいファンのチケット入手が困難になるので、問題になっています。

    しかし、だからといって、転売行為を刑罰をもって規制するのは行き過ぎのようにも思います。

    まずは、コンサートの主催者が、本人確認制度を導入する等の対応策を講じることが望ましいと思います。

    本人確認制度を導入し、チケットの名宛て人以外の立ち入りを禁じたにもかかわらず、身分証偽造などにより入場した場合は、公文書偽造罪や私文書偽造罪、住居侵入罪、詐欺罪その他犯罪が成立する可能性が出てくるので、一定の抑止力になるのではないでしょうか。

  • インターネットの削除代行で弁護士法違反

    2017年02月22日

    さまざまな情報がインターネット上を飛び交う現代では、個人の名誉やプライバシーを傷つける情報が公開され、拡散するという問題が増えています。

    そうした中、個人の中傷記事などの削除手続きを高額の料金で請け負う「削除ビジネス」が横行しているようです。

    今回は、弁護士にしかできない仕事、弁護士でなければできない法律業務を、弁護士の資格を持たない人が行うとどうなるのか、ということについて解説したいと思います。

    「ネットの削除要請代行、非弁行為と認める判決」(2017年2月20日 読売新聞)

    自身を中傷するインターネット上の書き込みの削除を業者に依頼した男性が、報酬を得て削除要請を代行する業者の行為は弁護士法違反(非弁行為)にあたるとして、業者に支払った金額の返還を求めた訴訟の判決がありました。

    判決によると、原告の男性は2012~2013年、東京都内の業者に自身を中傷する13件のネット上の書き込みの削除を依頼。
    業者はサイト運営者に削除を要請し、10件が削除されたため男性は計約49万円を業者に支払ったものの、すべての記事の削除を依頼していた男性は業者に対して契約の無効を訴えていました。

    業者側は「サイトの通報用フォームを使って削除を依頼しただけで法律事務ではない」と主張。
    しかし、東京地裁は「フォームの入力は男性の人格権に基づく削除請求権の行使で、サイト運営者に削除義務という法律上の効果を発生させる」と判断し、業者が男性から得た報酬を不当利得と認定。
    業者の行為を非弁行為と認め、全額の返還を命じる判決を言い渡しました。

    なお、男性の精神的被害による慰謝料など1100万円の請求は棄却されたということです。
    さて、今回の事件で問題になったのは弁護士法違反です。

    弁護士法は、1893(明治26)年に制定、1949(昭和24)年に全部改正された法律で、弁護士の使命や職務、権利、義務などについて定めています。

    「弁護士法」
    第72条(非弁護士の法律事務の取扱い等の禁止)
    弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
    ここで禁止している行為は、非弁活動(非弁行為)といわれるもので、これに違反した場合、2年以下の懲役又は300万円以下の罰金に処されます。(弁護士法第77条3号)

    非弁活動(非弁行為)とは、第72条に規定されている行為(弁護士業務)を、無資格者が報酬を得る目的で反復継続して行うことで、過去にはさまざまな事件や判例があります。

    ・地上げ屋が行なった立ち退き交渉
    ・借金の取り立てをした貸金請求の交渉
    ・交通事故の被害者の代理で行なった加害者側との示談交渉
    ・行政書士が行なった交通事故被害者の控訴審の手続き
    ・行政書士が行なった遺産分割紛争での他の相続人との折衝
    ・行政書士が行なったアダルトサイトの違法請求の解決業務
    ・無資格者が行なった過払金返還請求の代理業務
    ・ネット広告を通して無資格者が行なった賃料減額業務
    ・司法書士が行なった債権整理業務
    ・大家の代理人として行なった建物賃貸借契約解除(立ち退き)の交渉

    詳しい解説はこちら⇒「法律事務は、弁護士でなければできません。」
    https://taniharamakoto.com/archives/2475/
    インターネットの発達、普及により、近年では誰でも簡単にホームページを開設したり、ネット広告を作成、掲載することができるようになりました。
    そのため、弁護士でない者が法律相談を受けたり、問題解決を請け負っているという例も増えているようですが、当然こうした行為は非弁行為になります。
    以前、弁護士でない人間が他人の法的紛争に介入していくという内容のテレビドラマが放送されていたことがありました。

    エンターテイメントとしてはありなのかもしれませんが、こうした非弁行為は法律の下では許されないということは覚えておいてほしいと思います。

    また、法律問題については必ず弁護士に相談することも忘れないようにしてほしいと思います。