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税理士が損害賠償請求を防ぐ方法(その1)

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2016年6月11日

なぜ、税理士は、訴えられやすいのか?

税理士が関与先から損害賠償請求を受ける場面を考えてみたい。

多くの場合は、税務申告をした後、関与先が税務調査を受け、修正申告が必要となったり、更正処分を受けた場合、追加の納税が発生し、あわせて延滞税や加算税などの納付が必要となってくる。

関与先からしてみると、正しい税務申告をしていれば延滞税や加算税などは支払う必要はないわけで、ミスがあったために損害を被った、という意識になる。

そして、税務申告は税のプロである税理士に依頼して報酬を支払っているのであるから、税理士のミスによって、会社が損害を被った、という論理になる。

そこで、その損害を税理士に支払ってもらいたい、ということで、税理士に対する損害賠償請求に発展する。

もう一つ多いパターンは、関与先の代替わりなどで社長が交代し、あわせて顧問税理士を変更する、ということがある。

この場合、交替した税理士は、過去の会計帳簿や税務申告書などを検討するのが通常であるが、その過程で、過去に行った税務申告のミスが発見される場合がある。

そして、税理士がそれを会社に報告すると、従前の税理士に損害賠償しよう、ということになる場合がある。

そして、このようにして税理士に対する損害賠償請求をしよう、となった場合に、税理士は訴えられやすい業務の性質を持っている。

というのは、損害賠償請求というのは、「いくらの損害を被ったから、その損害を賠償せよ」という請求であるが、その損害額を算定するのが容易では場合も多い。たとえば、他人を殴って怪我をさせた場合、その損害はいくらか、というのは精神的な慰謝料なども含まれてきて、一応の相場はあるにしてもなかなか一義的に決まりづらい。

しかし、税理士の損害賠償は、不要な税を納付せざるを得なくなったことが損害になるので、損害額が容易に計算できてしまう、という要因がある。

また、税理士のミスは、税法や通達などに反した税務処理をした場合に起こるものであるが、課税要件はある程度税法や通達、Q&Aなどで明確になっているので、訴える方としては過失を立証しやすい、という要因がある。

このようなことから、税理士としては、関与先からいつ損害賠償請求を受けるかわからい状態に置かれていることになる。

税理士に対する損害賠償請求するときの法律構成は、委任契約の債務不履行にも基づく損害賠償請求か不法行為に基づく損害賠償請求がなされるのが通常です。

そして、債務不履行に基づく損害賠償請求の時効は10年、不法行為に基づく損害賠償請求の時効は損害等を知った時から3年ということで、業務が終了しても、10年間は損害賠償請求を受ける可能性があるという不安定な地位に置かれることになる。

したがって、税理士としては、関与先から損害賠償請求を受けないような対策を講じておかなければ安心して業務に専念することができないのではないだろうか。

税理士の注意義務の程度はどの程度か?

税理士と関与先との契約は、法的には委任契約とされている(最高裁昭和58年9月20日判決)。税理士がミスをした時は、委任契約の受任者としての義務に違反したとして、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生する場合と、税理士としての注意義務に違反したとして、不法行為に基づく損害賠償責任が発生する場合がある。

そして、税理士は、「委任契約に基づく善管注意義務として、委任の趣旨に従い、専門家としての高度の注意をもって委任事務を処理する義務を負う」(東京地裁平成22年12月8日判決)とされており、注意義務の程度が重いことに注意が必要である。

具体的には、過去の裁判例によると、税理士が抗弁として、「委任者の指示に従って申告書を作成したのであるから過失はない」と主張したのに対し、裁判所は、「委任者の指示に不適切な点がある時は指摘して是正する義務がある」と判断し、税理士が抗弁として、「労務賃金の勘定科目で計上されたものが、人件費か外注費かを委任者に確認したところ、外注費であり課税対象であるとの回答を得たのでその通り申告した」と主張したのに対し、裁判所は、「委任者の回答を鵜呑みにせず、税務上の判断は税理士がすべき」と判断した事例があり、裁判所が、税理士の注意義務を高度なものと認識していることがわかる。

税理士職業賠償責任保険は万全か?

関与先から税理士に対する損害賠償請求に対する備えとしては、税理士職業賠償責任保険(以下、「税賠保険」という)がある。
しかし、税賠保険は、税理士が負担する損害賠償責任を全て補填するものではない。

まず、税賠保険で保障される「税理士業務」は、税理士が行う全ての業務ではない。税賠保険でいう「税理士業務」とは、税理士法で定める税理士業務から、付随する社労士業務などを除いた業務である。したがって、税理士法に定めていない財務や経営、医療法人に対するコンサルタント業務、相続における税務以外の助言業務などは、税賠保険の対象に含まれない。

また、保険金が支払われない免責事項として、過少申告加算税、無申告加算税、不納付加算税、延滞税、利子税等に相当する賠償額が定められている。税理士に対する損害賠償請求がされる場合には、多くの場合、加算税や延滞税が課されることを考えると、税賠保険は、税理士に対する損害賠償請求に対する備えとして万全とは言えない。

だからといって、税賠保険が不要ということではない。関与先から損害賠償請求がされた場合、税賠保険から一部でも支払われるのであれば解決がしやすい事例もあるので、加入していない税理士は加入を検討した方がよいと思う。

なぜ、契約書で損害賠償を防ぐことができるのか?

では、どうすれば、税理士は関与先からの損害賠償を防ぐことができるのであろうか?
もちろん、自分がミスをした場合には、それによって関与先が被った損害を賠償するのが法律上の原則である。

しかし、実際には、「言った、言わない」と議論になったり、税理士か関与先かどちらの責任か微妙な事案があったり、契約書をきちんとして、かつ、証拠化の努力をしておきさえすれば回避できた損害賠償も少なくないように思われる。

したがって、当職としては、税理士が業務を行う際には、ぜひ関与先との間できちんと契約書を締結することを勧める次第である。かといって、どんな契約書でもよい、というわけではなない。その契約書の条項が重要である。

さて、税理士が関与先と契約書を締結する場合、何を目的として締結しているであろうか。
おそらくは、①業務の範囲を明確にする、②報酬を取り決める、の2点であると思われる。

しかし、税理士が関与先と契約書を締結する目的として、③関与先からの損害賠償請求に備える、という点があることを指摘したい。

契約書は、税理士と関与先の法的な関係を規律するものである。税理士にどのような権利と義務があり、関与先にどのような権利と義務があるのか、を記載する。

その記載内容によって、関与先から税理士に対する損害賠償請求という法的権利が成立するかどうかが影響を受けることになる。

税理士が関与先からの損害賠償請求に備えるという観点からの重要な条項は、①業務の範囲、②資料の提供などの責任分担、③税理士の説明助言義務、④損害賠償額の制限規定、⑤税理士からいつでも中途解約できる条項、などである。

これらを契約書に記載することによって、具体的な事案によって税理士に損害賠償責任が発生するか、しないかの判断基準として作用することになる。

また、契約書は、税理士と関与先の関係が続く間、頻繁に書き換えられるものではない。委任契約が成立する際に双方が記名捺印して契約内容が確定すると、その後は参照されることは少ないし、契約書の条項が変更されるのは、委任業務の範囲が変更になるか、報酬額が変更になるか、あるいはマイナンバー法の施行など、法改正があるような場合に限定されるのが通常である。したがって、契約開始時に、契約書をしっかり作成しておけば良い、という意味で、税理士にとっても負担の少ない損害賠償請求への備え、ということができるであろう。

では、以下に、契約書にどのような条項を規定しておくべきか、について検討する。

業務の範囲は、どう記載すべきか?

「業務の範囲」というのは、税理士が、①誰の、②どの範囲の事務について、受任業務を行う義務があり、また、どの業務を行う義務がないか、を明確にすることである。

この業務の範囲を明確にすることにより、契約書に記載されていない業務について、税理士に対する損害賠償請求を回避することが可能になる。
もし、契約書で業務範囲が不明確な場合には、関与先から、「それも含めて税理士に依頼しました」と主張される可能性があるからである。

「業務の範囲」の「誰の」という点は、特にグループ会社がある場合に問題となる。
グループ会社の1社と契約書を締結していた税理士が、契約書を締結していない関連会社に対して税務上の助言をしたところ、想定外の法人税が課税されたとして、損害賠償を請求された事例で、東京地裁平成12年6月23日判決は、契約書を締結していない関連会社との顧問契約も成立していたと認定し、税理士に対する損害賠償請求を認めた。

契約書が締結されていないのであるから、契約書に規定された税理士を守るための条項は適用されない。したがって、グループ会社の場合、業務を行う以上は、必ず1社毎に契約書を締結した方がよい。

次に「どの範囲の業務を行う義務があり、また、どの業務を行う義務がないか」についてであるが、業務の範囲を明確にすることは、税理士の義務を限定することにつながる。依頼された業務の範囲については、書面で明確にしおかないと、関与先が認識している業務範囲と、税理士が認識している業務範囲が異なっている場合がある。そうなると、トラブルに発展しやすくなる。

過去の判例で、税理士に節税指導義務があるかどうかが争われた事案で、税理士の節税指導義務を認めたものに、東京地裁平成10年9月18日判決、東京地裁平成27年5月28日判決などがある。

反対に、税理士の節税指導義務を否定したものに、東京地裁平成24年3月30日判決があるが、この税理士の節税指導義務を否定した判決で重視されたのは、契約書の委任業務の記載において、節税指導義務が含まれないと解釈されたことである。

契約書において委任業務の範囲を明確にしていない場合には、税理士が業務として認識していない範囲にまで受任者としての義務が拡大して解釈される可能性がある。

したがって、契約書において、委任業務の範囲を明確に記載することによって、本来想定していない業務での損害賠償請求を防止することが可能となる。

その意味で、税理士が業務を行う際には、必ず契約書を締結し、かつ、契約書において業務を明確に規定しておく必要がある。

資料の提供などの責任分担はどう記載すべきか?

前述の税理士の節税指導義務を否定した東京地裁平成24年3月30日判決において、節税指導義務を否定した理由の一つとして指摘された契約条項の1つに、「委任事務の遂行に必要な資料等を提供する責任は依頼者にある」という趣旨の文言があった。

これは、関与先が必要な資料等を提供する責任があるのか、あるいは、税理士が必要な資料の有無を確認し、関与先に提出させる責任があるのか、という点に関係する。

もし、税理士に責任がある、ということになると、税理士は、あらゆる事態を想定して関与先に質問し、資料の有無を確認して事実を確定する義務がある、と解釈される可能性がある。しかし、それは悪魔の義務を課すものである。

したがって、上記規定を入れておくことと、「依頼者の資料提供が不十分であることに起因する依頼者の損害については、税理士は損害賠償責任を負担しない」という趣旨の規定を入れておくことが望ましい。

続きは、税理士が関与先からの損害賠償請求を防ぐ方法(その2)へ

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