部活動で大けがを。教師と学校の賠償責任は? | 弁護士谷原誠の法律解説ブログ 〜日常生活・仕事・経営に関わる難しい法律をわかりやすく解説〜
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部活動で大けがを。教師と学校の賠償責任は?

2017年02月16日

高校の部活動で負ったケガに対する損害賠償請求訴訟で、裁判所が学校法人に対して損害賠償金の支払いを命じる判決があったので解説します。

「部活事故 清風学園に賠償命令 顧問の安全配慮違反認める」(2017年2月15日 毎日新聞)

大阪市天王寺区にある私立清風高校に在学中、日本拳法部の練習で大ケガをした元部員の男性(19)と両親が高校を運営する学校法人「清風学園」に対し、計約770万円の賠償を求めた訴訟の判決が大阪地裁でありました。

原告の主張は、ケガをしたのは当時の顧問が適切な指導を怠ったため、というものです。

事故から裁判までの経緯は次の通りです。

事故が起きたのは、2013年7月。
当時1年生だった被害者男性は初心者として日本拳法部に入部。
2ヵ月後、有段者の部員と組み手の練習中に左脚をつかまれて転倒。
顧問は2人から離れた場所にいたという。

帰宅後、容体が急変し、病院に搬送されたところ、後頭部に急性硬膜下血腫が発症しているとの診断。
その後、4度の手術を受け、男性は一命を取り留めた。

判決は次の通りです。

・初心者が上級者と組み手練習を行う場合は、顧問はできる限りそばに付き添って指導し、危険な技を止める安全配慮義務があった。

・顧問が普段から上級者に手加減するよう指導していた点は認めるが、注意喚起が不十分で指導を徹底していなかった。

・そのうえで、「事故を予見できなかった」とする学校側の主張を退け、学校側に計約250万円の損害賠償金の支払いを命じた。
この高校の日本拳法部は2012年の全国大会の団体戦で3位にもなった強豪のようですが、中学校や高校の部活動においては行き過ぎた指導や安全配慮義務を怠ったことによる死亡事故や重傷事故が後を絶ちません。

では万が一、子供が部活動で大ケガを負った場合、法的にはどのような部分が争点になるのでしょうか?
【刑事事件の場合】
まず、生徒の死亡や重傷事故について刑事事件としては、部活動は学校の活動であり、担当教員や顧問の指導下にあるわけなので、故意または過失があった場合、学校長や担当教員は「業務上過失致死傷罪」に問われる可能性があります。

「刑法」
第211条(業務上過失致死傷等)
1.業務上必要な注意を怠り、よって人を死傷させた者は、5年以下の懲役若しくは禁錮又は100万円以下の罰金に処する。重大な過失により人を死傷させた者も、同様とする。
「過去の事例」
高校のラグビー部の部活動中、生徒が日射病で倒れて死亡した事件。
担当教員には、業務上過失致死罪で禁錮2か月執行猶予1年の有罪判決が出された。
(東京高裁昭和51年3月25日判決)

山岳部の部活動での岩登り中、2名が転落して死亡した事件。
引率教師が業務上過失致死罪に問われ、罰金3万円の有罪判決が出された。
(札幌地裁昭和30年7月4日判決)
【民事事件の場合】
部活動中の事故の場合、民事事件としては、担当教員に「注意義務違反」や「安全配慮義務違反」があったかどうかが問題になってきます。

判例では次のようなものがあります。

「部活動は、学校の教育活動の一環として行われるものである以上、その実施について、顧問の教諭を始め学校側に生徒を指導監督し、事故の発生を未然に防止すべき一般的な注意義務がある」

「ただし、課外のクラブ活動が本来生徒の自主性を尊重すべきものであることに鑑みれば、何らかの事故の発生する危険性を具体的に予見することが可能であるような特段の事情のある場合は格別、そうでない限り、顧問の教諭としては、個々の活動に常時立会い、監視指導すべき義務まで負うものではない」
(最高裁昭和58年2月18日判決)

つまり、担当教員は「事故が発生する危険性を具体的に予見することが可能な場合」には、個々の活動に立会い、監視指導しなければならないということです。

今回の事故と類似のケースとして、ある高校のボクシング部の練習中、初心者の生徒が頭部にパンチを受けて硬膜下出血により死亡した事例が過去にありました。

・ボクシングは極めて危険性の高い競技であること
・死亡した生徒は初心者であり、数日前まで体調不良で部活動を休んでいたこと
・相手が全国大会出場者で上級レベルであったこと

これらのことから、
・顧問教諭は、生徒に対しパンチが当たる可能性のある練習を避ける必要があった
・この練習をさせるにしても、ヘッドギアを装着させたり相手にパンチを当てないように注意するなど事故を未然に防止する高度の注意義務があった
・それにもかかわらず、これらを怠った

として、顧問教諭の過失が認められています。
つまり、こうしたケースの場合は、「事故が発生する危険性を具体的に予見することができた」ということになります。

そのため、担当教員には次のことなどに配慮して、適切に、かつ未然に事故を防ぐ注意義務が課されることになります。

・部活動自体に内在する危険の程度(当然、武道や格闘技は危険性が高い)
・生徒の年齢・体格・健康状態
・生徒の技能レベル
・環境(特に屋外でのスポーツ)

担当教員が、これらの注意義務に違反した場合、民間の学校であれば教員個人には不法行為に基づく損害賠償責任が発生します。

「民法」
第709条(不法行為による損害賠償)
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
担当教員が所属する学校には、使用者として使用者責任に基づく損害賠償責任が発生します。

「民法」
第715条(使用者等の責任)
1.ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
さらには、学校は生徒に対して安全配慮義務を負担していたと考えられることから、債務不履行に基づく損害賠償責任が発生する可能性もあります。

なお、国公立校の場合は適用される法律が変わり、損害賠償の責任主体は国または地方公共団体となります。

「国家賠償法」
第1条
1.国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。
ここまで解説してきたように、学校の部活動では、担当教員には生徒たちの身体に危険が生じないように配慮する義務と責任があります。
そして、その義務を怠った場合には損害賠償責任が発生する可能性があることを学校も教員一人ひとりも、しっかり認識することが大切です。

また、ケガをした本人や両親は、泣き寝入りする必要はありません。
ケガによる損害賠償を請求する権利があるのですから、しっかりと請求するべきです。

ただし、示談交渉や訴訟になるにしても、法的手続きなどは大変に難しいものですから、まずは弁護士に相談することをお勧めします。

ご相談はこちらから⇒http://www.bengoshi-sos.com/school/