税理士の説明義務が認められなかった裁判例(税理士勝訴)
【東京地裁平成27年5月19日判決】
○税理士勝訴
(事案の概要)
個人である原告らが,税理士に、損益通算の可否や不動産買換特定の適用の有無等の税務相談をしたところ,税理士の誤った説明により,税務署からの更正処分等を受けたとし,債務不履行等に基づき,損害賠償を求めた事案。
税理士は、原告らが経営する会社の顧問弁護士でした。
過去に原告ら個人の税務相談に無償で応じたことが数回ありました。
争点は、次の6点
(1)原告らと税理士被告との間の税務顧問契約の有無
(2)原告らと税理士との間の委任契約の有無及びその内容
(3)不動産の売却に関する損益通算に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
(4)不動産に関する居住用不動産買換特例の適用に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
(5)会計事務所従業員の行為につき被告が使用者責任又は監督義務違反に基づく不法行為責任を負うか。
(6)原告らの損害額
(1)原告らと税理士被告との間の税務顧問契約の有無
⇒否定。
・原告らは、不動産の売却を踏まえた原告らの確定申告についても,税理士に委任することなく行っていた
・他に証拠がない(契約書もないし、報酬も払っていない)
(2)原告らと税理士との間の委任契約の有無及びその内容
⇒肯定。税務相談の委任契約あり。
(3)不動産の売却に関する損益通算に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
⇒(1)のとおり契約がないので、義務違反はない。
(4)不動産に関する居住用不動産買換特例の適用に関して,原告らに対して,税理士が誤った説明をしたか。
・税務申告は原告らが自ら行うこととなっており,上記税務相談に関する報酬は定められていない
・具体的なスキームについては税理士が主導的に提案をしていることをうかがわせる証拠もない
⇒税理士の義務は,原告らから受けた情報を前提に居住用不動産買換特例の適用の有無を検討するに止まり,原告らから受けた情報の正確性を検証するまでの義務は負っていない
(5)(6)は省略します。
(この裁判例から学べること)
この裁判例は、税理士と顧客との契約は、契約書がなくても成立することを認めました。
しかし、税理士が負う注意義務の程度は、その契約の内容によって異なる、という考え方も提示しています。
税理士が本格的に業務に携わる場合には、対象不動産、売買、借入等に関する全ての資料を入手し、その資料の正確性を検証し、その上で、税法の要件の適用があるかどうかを検討する、ということになります。
しかし、本判例では、税理士の義務は、「資料の収集」「情報の正確性」は、税理士の注意義務から除外されています。
税理士は、原告らから提供された情報を前提に、税法の要件適用の判断をすればよい、と認定しているのです。
ということは、きちんと報酬を定めて行う税務相談ではなく事実上好意で税務相談であっても、
・契約書を締結すること
・契約書の中で、「税理士は、依頼者から提供された情報を前提に税法適用の判断をするものとし、それ以上に資料収集、情報の正確性等の踏み込んだ検証をしないものとする」等の記載を入れておく、という防御策が考えられると思います。
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