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税理士が損害賠償請求を防ぐ方法(その2)

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2016年6月14日

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税理士の説明助言義務をどう立証するか?

税理士は、関与先に対して関連税法及び実務に関して、有効な情報を提供し、関与先が適切に判断できるように説明及び助言をしなければならない、という助言指導義務があるとされている。
そして、この助言指導義務を怠ったことにより、関与先に損害が発生したときは、債務不履行ないし不法行為に基づく損害賠償責任を負担する。

税理士が関与先に対し、必要な助言指導をすべきことは当然のことである。必要な助言指導を怠り、それによって関与先に損害が発生した場合は、その損害を賠償する責任がある。

しかし、ここで問題となるのは、税理士が関与先に助言指導したことをどうやって証明するか、という点である。

過去の裁判では、税理士が「助言した」と主張し、関与先が「助言されていない」と主張して争われている例がある。
この場合、「助言した」という書類その他の客観的証拠がなければ、証明方法は、尋問によるほかない。
そうすると、いわゆる「言った、言わない」の争いがそれぞれの本人尋問あるいは証人尋問でなされることになる。

その結果、どうなるかというと、「助言した」という客観的な資料がない以上、「助言したとは認められない」、つまり、「助言義務を怠った」と認定されることが多いと思われる。

したがって、税理士は、関与先に対して助言すべき事項に関しては、可能な限り証拠を残しておくことが必要となる。

たとえば、不動産の取得譲渡や多額の設備投資などがあると、消費税の処理に影響が出る場合がある。
したがって、それらが予定される時は、税理士は消費税の申告にあたって、関与先から報告してもらうことが必要となる。

もし、関与先から税理士に報告することなしに消費税の確定申告がなされた後に、多額の設備投資が発覚し、異なる処理をしていれば消費税の税額が低くなっていた、という場合で考えてみる。

この場合、関与先が「税理士があらかじめ説明しておいてくれれば、設備投資について事前に相談したはずだ。税理士に助言指導義務違反がある」と言われる可能性がある。

消費税の確定申告に影響が出るいくつかの場合には報告してくれるように事前に説明していた場合でも、関与先は忘れている可能性がある。その場合には、「説明されていない」と主張されることになり、税理士の方で、「説明した」ことを立証する必要に迫られる。

したがって、このような説明は、事前にしておくべきであるし、説明したことを証拠に残しておく必要がある。
その一つの方法として、契約書に「次の事態が判明した時は、依頼者は税理士に対して報告を行うものとし、当該報告がなかった場合には、税理士は、これがないものとして委任事務を処理することができる」と規定し、その後に、消費税額に影響が出るような事態を列記しておく、というものがある。

また、相続税の申告において、相続税の納税ができずに期限を徒過し、延滞税等が発生した事例において、相続税の納付の期限を説明し、納付が可能であるかどうかを確認して、納付できない場合には、延納許可申請をするかどうかについて相続人に意思確認する義務がある、とした判例がある(東京高裁平成7年6月19日判決)。

これも、相続税の申告業務の委任を受けた時には、納付期限が判明しているわけであるから、契約書の特記事項などに「相続税の納付期限は、平成●年●月●日です。納付ができない場合には、延納許可申請の手続により、後日の納付や物納許可申請により相続により取得した財産での納付が認められる場合がありますので、平成●年●月●日までにご相談くさださい」と記載しておく方法が考えられる。

契約書に記載しないならば、説明書面を用意して説明した上で、説明を受けた旨の署名捺印をもらっておいてもよい。
こうしておけば、「説明したこと」および「報告する責任は依頼者にある」ということが契約書に規定されることになる。
書面にするのが難しい場合でも、FAXなりメールなりで証拠化しておいた方がよい。

契約書で損害賠償責任を制限できるか?

税理士の故意または過失によって、関与先に損害を与えた時には税理士に損害賠償責任が発生する。
では、この損害賠償責任を契約書によって制限することは可能であろうか。この点については、2つの論点がある。
一つは、損害賠償責任の発生自体を制限することが可能か、という点であり、もう一つは、損害賠償責任は発生するが、その金額を制限することができるか、という点である。

損害賠償責任の発生自体を制限する条項とは、たとえば、「税理士は、債務不履行又は不法行為により依頼者に損害を与えた時は、故意または重過失があった場合に限り、損害賠償責任を負担する」というような条項である。
損害賠償責任が発生する主観的要件を、故意または重過失がある場合に限定して、軽過失による場合は免責とする条項である。

この条項の有効性を規制するものとして、消費者契約法がある。この法律は、消費者と事業者との契約を規制する法律であり、税理士と消費者との契約もこの法律で規制される。法人税や消費税の申告代理業務を受任する場合は、相手は法人であろうと個人であろうと、消費者から依頼を受けるものではないから、消費者契約法の規制の対象外となる。しかし、相続税の確定申告業務を受任するような場合には、消費者契約法の規制が及ぶことになるため、消費者契約法の適用がある。

消費者契約法は、消費者の利益の擁護を図ることを目的とし、次の契約条項を無効とする。

①債務不履行により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
②債務不履行で故意または重過失で消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項
③不法行為により消費者に生じた損害を賠償する責任の全部を免除する条項
④不法行為で故意または重過失で消費者に生じた損害を賠償する責任の一部を免除する条項

したがって、相続税の申告業務を受任したような場合に、契約書に賠償責任が一切発生しないというような条項や、故意または重過失の場合に賠償額の上限を設けるような条項を記載している場合には、その条項が無効になる。
相続税の申告業務などで、消費者と契約書を締結する時には、上記の規定によって無効とならないような条項に工夫する必要がある。

消費者契約法の適用対象外である、法人との契約においても、損害賠償責任の発生を制限する条項が規制される場合がある。税理士の委任契約書における損害賠償制限条項を無効と判断した裁判例は見当たらないが、準委任契約と解釈されているシステム開発契約における損害賠償責任条項が無効とされ、あるいは制限的に解釈された事例が参考となる。

東京地裁平成26年1月23日判決の事例では、業務委託基本契約に、「乙が委託業務に関連して,乙又は乙の技術者の故意又は過失により,甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に損害を及ぼした時は,乙はその損害について,甲若しくは甲の顧客又はその他の第三者に対し賠償の責を負うものとする。(1項)前項の場合,乙は個別契約に定める契約金額の範囲内において損害賠償を支払うものとする。(2項)」という規定があった。

この事例で、判決は、損害賠償額を制限する2項の規定は、「故意又は重過失がある場合には適用されない」と判断した。したがって、税理士の契約書において、損害賠償額の上限を設ける条項を規定しても、「故意又は重過失がある場合には適用されない」と判断される可能性がある。

東京地裁平成13年9月28日判決の事例では、開発業務等委託契約に、「被告の責めに帰すべき事由により、被告の債務を履行できなかった場合には、原告は被告に対し、委託金額を上限として損害賠償を請求することができる。」という規定があった。
そして、この条項で指摘された損害賠償額の上限となる委託金額は500万円であったところ、委託者に1478万4279円の損害が発生したという事案である。この事例で、判決は、損害賠償の上限を500万円とすることは、低廉にすぎ、「信義公平の原則に反する」と判断した。

このような判例が存在することから考えると、税理士の損害賠償責任を制限する条項を安易に規定するとその条項が無効になってしまう可能性があるから、損害賠償の制限条項は慎重に規定すべきであり、かつ、完全に有効になる、とは断言できない。

しかし、そうであっても、関与先から税理士に対する損害賠償請求を制限する上では極めて重要な規定であることを指摘しておきたい。

無償・好意の場合には損害賠償責任を負担しないか?

税理士が全ての場合に契約書を締結し、報酬を取り決めて業務を開始できれば良いが、人的関係や高度の責任を負担しきれないような場合に、無報酬にして、好意で税務に関する業務を行う場合が想定される。このような場合には、無報酬で好意であるから、わざわざ契約書を締結しないと思われる。

この場合、税理士がミスをした場合であっても、損害賠償責任を負担しないか。

東京高裁平成7年6月19日判決の事例は、税理士が、無報酬かつ好意で相続税の修正申告手続を行ったが、延納について説明しなかったので、納税できず、延滞税等の納税を余儀なくされた、として損害賠償請求された事例である。
この事例で、判決は、「税理士がその業務に関する委任状を徴求したことは、その委任状に記載の委任事項についての業務を受任したものというべきである」「報酬の約束の有無は、委任契約の成立を左右するものとはいえない」と判断し、税理士に対する損害賠償を命じた。

したがって、税理士としての損害賠償責任が発生する以上、無報酬であっても業務を行う場合には契約書を締結した方がよい。

違法な業務を依頼されたら?

関与先の中には、稀に税理士に対して、脱税の指南を求めたり、資料を提出せずに「このように処理してください」と、適正な納税義務の実現に反するような依頼をしてくる場合がある。

このような場合、税理士としては、税法およびリスクを十分説明して、適正な納税義務の実現を果たすよう説得することが求められる。
しかし、それでも翻意しない場合には、とりあえず不十分な内容で税務申告書を作成し、申告代理をするか、あるいは契約を解約するか、の決断を迫られることになる。

過去の裁判例で、税理士が所得税確定申告にあたって、依頼人に対し、申告書作成に必要な原始資料の提出を求めたが、これを拒否し、依頼人の指示する不適法な方法で確定申告をするよう要請され、その旨申告したが、その際、重加算税などの説明をしなかったため、納税を余儀なくされたとして、損害賠償され、それが認められた事案がある。
この事案で、過失相殺はしたものの、税理士に対して一部損害賠償責任を認めた(前橋地裁平成14年12月6日判決)。

また、税理士法第45条は、税理士の懲戒について規定しているが、同条第1項は、「財務大臣は、税理士が、故意に、真正の事実に反して税務代理若しくは税務書類の作成をしたとき、又は第三十六条の規定に違反する行為をしたときは、二年以内の税理士業務の停止又は税理士業務の禁止の処分をすることができる。」とし、故意の脱税等の行為に対する懲戒を規定し、第2項は、「財務大臣は、税理士が、相当の注意を怠り、前項に規定する行為をしたときは、戒告又は二年以内の税理士業務の停止の処分をすることができる。」として、過失による脱税等の行為に対する懲戒を規定している。

したがって、税理士が違法な納税行為に関与するときは、損害賠償責任だけでなく、懲戒リスクもあることを認識すべきである。

結論

以上論じたところから、税理士が関与先と契約書を結ぶ際の留意点をまとめてみる。

(1)税理士が業務を行う以上、たとえ無報酬であっても契約書を締結した方がよい。
(2)グループ会社の場合には、1社毎に契約書を締結することとし、法人と個人の別がある場合には、それぞれに契約書を締結した方がよい。
(3)契約書では、「どの業務を行い、どの業務は業務範囲に含まれないか」を明確に記載すべきである。
(4)契約書では、「資料の提供は、税理士と依頼者のどちらが責任を負うのか」を明確にした方がよい。
(5)税理士の説明助言義務が想定される事項については、あらかじめ契約書や別途書面に記載して交付することにより、説明助言義務を果たしてしまうことを検討すべきである。
(6)損害賠償額の制限規定を規定する場合には、過去の判例を踏まえて無効とならないよう規定すべきである。
(7)契約期間中であっても、税理士からいつでも契約を解約できるようにしておいた方がよい。

以上の留意点は、何も税理士の責任回避を目的とするものではない。過去の裁判例を読むと、税理士の責任を広範に認めるものが多い。

しかし、税理士が無制限に損害賠償責任を負担するときは、いきおい税理士の助言指導や税務処理は決して間違いのない極めて保守的な判断に傾く可能性がある。税法や通達を読んでも解釈の余地がある場合は多く、このような時、後日の税務調査で指摘され、修正申告を余儀なくされた時に、税理士が損害賠償責任を負担する、というのでは、税理士は、否認の余地がないような保守的な助言指導や税務処理に傾く可能性がある。

税理士の損害賠償責任を一定限度制限することにより、解釈の余地がある処理において、もっとも関与先にとってメリットのある助言指導や税務処理が可能となると考える。

また、税理士は税務の専門家であるから、税務処理が問題となった時は、関与先から「税理士に全て任せているのだから、税理士の責任だ」と言われやすい。しかし、関与先から報告を受けたり、資料を提供してもらわなければ税理士も容易に知り得ないことも多い。

したがって、税理士と関与先の責任の分担について、契約書で定めておくことは、税理士の責任を無制限に広げず、合理的な範囲にとどめることに役立つものである。

したがって、税理士が、税務に関する専門家として、納税義務者の信頼にこたえ、租税に関する法令に規定された納税義務の適正な実現を図るためにも、業務を行う場合には、必ず契約書を締結することとし、その契約書の内容も十分吟味することを期待するものである。

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